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第一章 始まり

第二十七話 領主の苦悩

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 ジグとザグからモナーナを助けた次の日、僕はモナーナの手を握りながら椅子で眠ってしまった。

「お二人共、もう朝ですよ。起きてください」
「う・・誰?」

 僕とモナーナは眠い目を擦る。ぼやける目で声のする方を見るとキッチンで料理をしている女の人がいた、鍵は閉めていたはずなのに。そんな疑問を吹き飛ばすようないい匂いが、匂いから察するにたぶんベーコンエッグだと思われる。

「朝ごはんの準備は出来てますから起きたら来てください」

 初めて見るその女の人は長い黒髪を後ろで結っている、後ろから見るとメイドさんが料理しているように見える。

 モナーナは僕の背中に隠れる。昨日の出来事は結構モナーナにダメージを残してるみたい。もっと早く助けられてたらよかった。

「あなたは?」
「私はクルシュ様からあなたの護衛にと言われてきた者です。メイドなのでメイと呼んでください」

 メイの言葉を聞いて僕とモナーナは顔を見合った。メイと呼んでという事は名前はないという事なのかな。

「さあ、お二人共。出来ましたから食べましょ」
「ありがとうございます」

 僕は素直に椅子に座って食べ始めた、思った通りベーコンエッグで卵は半熟だ。トーストがあると良いんだけど、と思っていると、

「トーストをどうぞ」
「気が利くね。ありがと」

 トーストを受け取ると目玉焼きをトーストの上に乗せてかじっていく、塩味と卵黄がトーストとマッチして目覚めたばかりの僕の脳を活性化させていく。

「ルーク・・」
「モナーナも食べてごらん」

 モナーナは僕の隣の席に座って様子を見ていた。まるで子供みたいにメイを怖がってる。

「モナーナさんは控えめな方なんですね。安心してください。私はあなたも守るように言われています」

 メイはそう言いながら紅茶をモナーナの座る前の机に置いた。ホッとするラベンダーの香りが僕とモナーナを包んだ。

「ラベンダーの紅茶はお父さんが好きだったの」

 モナーナは一口、紅茶を口にいれた。モナーナの瞳が潤いを帯びた。お父さんを思い出しているんだと思う。

「大丈夫ですよ。これからは私とルークさんが守りますから」
「そうだね」
「・・ありがとう」

 メイは優しくモナーナを抱きしめて僕を見て話した。初めてあった人なのになぜか心を許してしまう、不思議な人だ。

「あの人達は私が忠告しておきましたからこの街にはもういませんよ。安心してください」
「見ていたんですか?」
「はい、といってもルークさんが雨を操るあたりからですけどね」
「えっと、その事はクルシュ様には」
「ダメです。私は護衛である前にクルシュ様の部下ですから」

 あう、クルシュ様にどんどん僕の情報が伝わってしまう、これからメイがいっつも一緒になるって事は更に僕が忙しくなることにつながるんじゃ・・・不安だ。

「モナーナさんは喜んでいますよ」
「モナーナ・・」
「・・ルークは凄いから、つい」

 メイと僕のやり取りを聞いていたモナーナは喜んでいる、泣き顔よりやっぱり笑顔の方がいいけど何だか喜んでいいんだか悪いんだかわからなくなってくる。

「では、これからよろしくお願いします。今からクルシュ様に報告に行くので」
「・・はい、朝ごはん美味しかったです」
「美味しかった・・」
「ふふ、お粗末様です」

 メイは一瞬で僕たちの目の前から消えた、これもスキルの力なのかな。僕とモナーナは食事を再開した。






「可愛らしい護衛対象ですこと」

 メイはクルシュの屋敷へと駆けながらそう呟いた。ついつい抱きしめたくなるような護衛対象に微笑んでいる。

「戻りました!」
「おお、早いな。早速いざこざでもあったのか?」
「はい」

 私はクルシュ様の部屋の天井から舞い降りて報告する。ジグとザグがちょっかいを出して返り討ちにあい、街を去った事、その時に使われたルークの力の事、すべてを報告した。

「それは凄いな・・・今までの英雄達の中にもそれと同じ事をした者がいたと聞いているが、この場合それ以上じゃないか?」
「そうですね。私の知る限りでも」
「更に自分を強化するアイテムを作り出せるわけか」

 クルシュは顎に手を当てて考えこんだ。ルークをどうすれば守れるのか考え込んでいる。それだけルークの力は驚異的なのだろう。

「他の貴族にはバレないようにする。それにはルークの名を使わずに兵士達へルークの装備を回す。ルークの名の代わりに私の名を使おう。そうすれば標的は私になるはずだ」
「それではクルシュ様が危険に」
「大丈夫だ。ルークの作った装備を私もするし、兵士達もそれを装備している。大半の敵対勢力の戦力を大きく超えているだろう」

 この世界では国同士の戦争は皆無だ。クルシュの言う敵対勢力とは盗賊や魔物の事である。しかし、ルークの事がバレると他の国も例外ではないかもしれない。ルークの秘匿は絶対条件である。

「メイと言ったか?」
「はい、そう名乗りました」
「安直だな。しかし、本名を出さないのは定石か。引き続きルークとモナーナを警護してくれ、ルークが人前で常識外れの事をしたらなるべく隠すようにするんだ」
「わかりました。すでに常識外れの獣を見ていますのでそこは大丈夫だと思います」
「・・・やはり、あの猫は」
「はい」

 クルシュは頭を抱える。クルシュの兵士達でも捕まえられなかった猫、ミスリーの事で頭を抱えた。クルシュの兵士は上級騎士と言われる高レベルの騎士である。ゆうに40レベルは越えている屈強な男達なのだ、それがけむに巻かれて取り逃がす事からミスリーを怪しんでいた、クルシュが思った通りミスリーは強者であったのだった。

「まだ何なのかわかりませんがルークを守るように鎮座していました」
「そうか、ならば安心だな」
「・・はい」

 クルシュは窓からエリントスを眺めてため息をついた。頼もしい仲間が出来たが心配事も増えた事に心労が増えると思ったのだ、領主とはとても大変な仕事らしい。
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