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第一章 始まり

第十一話 モナーナ

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「ルークお兄ちゃん!!」
「にゃむにゃむ、ユアン?」

 体が揺さぶられる。まだ眠たいので抵抗するがその揺れは終わらない。

「ルンだよルークお兄ちゃん!!起きて~」

 小さな体で僕を揺さぶっていたのはルンちゃんだった。僕は体を起こしてベッドに座った。

「お兄ちゃんお寝坊さん。ご飯できてるの。お母さんが呼んでる」
「あふ、ありがとうルンちゃん」

 僕が返事をするとルンちゃんは微笑んで二階に向かった。僕は寝ぼけている頭を掻きながら服を着替えた。

「おはよう、よく眠れたかい?」
「はい、昨夜はすみませんでした」

 ニ階に上がるってスリンさんに謝ると笑って許してくれた。

 朝ごはんは黒いパンとサラダ、それに昨日のシチューの残りだ。だけど、とても美味しい。

「すまないね。昨日は少し作り過ぎちまってね。本当は冒険者が一組来る予定だったんだよ」
「へ~、どんな人達なんですか?」

 予定を変えなくちゃいけない事でもあったのかな?

「ああ、最近メキメキと腕をあげている[虎狼]っていうチームなんだけどね。あんたと同じリバーハブ村にいるみたいなんだけどリーダーのバッツが頑なに出発しようとしないんだってさ」
「・・・」

 僕は持っていたパンを落した。

 そう言えば、あの人は僕を探していたんだ。あの時、知りませんと言ってから接触してないからわからなかったけど諦めてなかったんだね。でもまあ、命にかかわるような事でもないし大丈夫でしょう。

 僕は落としたパンを拾い口に運ぶ。ルンちゃんにダメと言われたけど勿体ないと言って食べちゃいました。ルンちゃんは頬を膨らませて怒ってたけどね。

「ルークは今日どうするんだい?」
「僕は今日いらないものを売りに出します。どこかいい所知りませんか?」
「...そうさね~。私的にはあるお店をお勧めするんだけどね。ちょっと聞いてくれるかい?」

 スリンさんは俯いて話し出した。何か悲しいお話しなのかな?

「そのお店はね。主人が死んでしまって、今はその人の娘さんが一人で商いをしているのさ。それでいま、お店がピンチでお金がないみたいなんだよ。余裕があるんだったら彼女を助けてやれないかね?」

 それは可哀そうだ。僕はわけのわからない能力を急に与えられた意味を探していたけど、こういう事なのかな?僕は困っている人を助ける為にこの力を使えばいいんだよね。極力目立たないようにね。

「おろせる物はそこにおろしましょうか?」
「そうしてくれるかい?でもお金は大丈夫かい?」
「大丈夫ですよ。商品が売れてからでもいいですし」
「そうかい!あんたは本当にいい子だね~本当に息子にしちゃおうかね~」

 僕の頭を抱きしめてワシャワシャと頭を撫でるスリンさん。気持ちいいけどルンちゃんが指くわえて羨ましがってるからやめてください。

「ははは、その店はここを出て門の一歩手前を左に曲がれば見えてくるよ。言っちゃなんだけど門構えは廃れているから一目でわかるさ」

 スリンさんが言うのだから相当廃れているのだろう。しかし、スリンさんはとても悲しい顔しているな~。よ~し、頑張るぞ~。

「じゃあ、早速行ってみます。ごちそうさまです!」
「あいよ、お粗末様。あ~そうそう店の娘はモナーナって言うんだ。スリンの紹介だっていえば警戒しないと思うからね。あの子人見知りだから」

 モナーナさんか、僕は頷いて小鳥のさえずり亭を後にした。

 しかし、アイテムバッグは便利だな~。だけど怪しまれないように少し大きめのバックは持ちあるかないといけない。小袋からショートソードを出したら誰でもアイテムバックだってわかっちゃうからね。

「ここかな?」

 それほど遠くないので、ものの2分でついた。何だか魔女でも住んでいるかのように廃れていてベランダには植物の蔓が撒きついている。

「大丈夫かな....」

 僕は恐る恐る扉に近づいてノックをした。少しまったんだけど何も反応がない。

「留守なのかな?、モナーナさ~ん?スリンさんの紹介できたんですけど~」

 再度ノックをしてそう声をかけると静かに階段を下る音がしてきて足音が近づいてきた。僕はホッと胸を撫でおろして待っていると扉がゆっくりと開いて行く。

「え?」

 扉は開いたけど人は顔を見せない。これは入ってくださいって事かな?なので僕は家に足を踏み入れる。朝なのに真っ暗な部屋はとてもホラーな感じだ。

「お邪魔します...っていない!」

 扉が開いたという事はその扉の向こうに誰かがいると思ったんだけど誰もいなかった。僕はキョロキョロと部屋を見回すのだけど人影はない。

「これって不法侵入になるのかな?」

 誰もいない為に不安が口を動かす。すると不意にキッチン横の扉がギギギーと音を立てて開き魔女のような帽子と服を着た僕と同じくらいの背の女の子がティーセットを持ってきた。

「い、いらっしゃいませ」
「い、いらっしゃいました...」

 ガタガタと震わせる手が何とも危なっかしい。女の子は震える手でティーカップにお茶を注いでいく。ラベンダーの香りが香ってきて少し落ち着く。

「スリンさんに聞いたんですが、お店が危ないらしいですね」

 コクッと頷いたモナーナさん。しかし経営うんぬんよりもこのお店をどうにかしよう。

「取りあえずこの家を綺麗にしましょう。手伝いますよ」
「え!あ!」

 オロオロとしながら僕を制止できないモナーナさん。

 家事スキル7の本領発揮だ!お昼前には終わらせる!

 ルークは宣言通り店周りや中を掃除していく。窓も植物の蔓で陽の光を遮られていたがルークによって光がはいり。キッチンにため込まれていた皿は使う前よりも綺麗になり。お店に至っては売る予定だった商品をすでに並べて綺麗になっていく。看板も立っているのですでに情報好きのおばさん達が店の外で話をしていた。

「よし...そういえば、このお店は何を売るお店なんですか?」
「ま、魔道具..」
「そうだったんですね。モナーナさんも製作するんですか?」
「す、少し」

 開店は明日からにするとしてまずは交流だ。こんな勝手に進めて怒っているかと思ったが割と好感触のようで安心した。しかし、このティーセットはいくら飲んでもなくならないな。

「お、お父さんが作った物を売っていたの。だけど、なくなってしまって。今じゃもう、このティーセットしかないの」
「そうなんですね...ちなみにこのティーセットはどんな効果が?」
「い、入れた紅茶がずっと湧くの。一度に全部飲むとなくなっちゃうから注意してね」

 ティーセットの説明をするとき、モナーナさんはとても嬉しそうだった。とてもいいお父さんだったんだろうな。それに魔道具制作のスキルレベルも高そう、だって無限に湧くティーセット何て伝説級じゃないかな?

「モナーナさんのお父さんはとても凄い人なんだね」
「!?うん。とても凄いの」

 モナーナさんのお父さんを褒めるとモナーナさんは微笑んでモジモジとし始めた。照れているのかもしれない。でも、時折、髪と髪の間から見せる笑顔は反則級に可愛い。桃色の髪の毛もとても似合っているしね。

「ス、スリンさんにお礼を言わなくちゃ」
「あ、そうですね。とりあえず今日は終わったので一緒に行きましょうか?」
「!?」

 モナーナさんは驚いてカタカタと腕を振るわせた。僕は普通の事を言ったのだけど何か悪い事言っちゃったかな?

「ふ、不束者ですがよろしくお願いします」
「え?あ?はい...」

 モナーナさんは両手を出して握手を求めてきた。僕はわけもわからずにその手を握るととても柔らかい感触に頬を緩ませる。

 僕はこの歳まで、女の子と言えば隣の家のユンしか触った事はない。そのユンだって僕が10歳になると縁遠くなったし実質同い年位の女の子と話したこともないんだ。自分で言っていてとても恥ずかしい。

「あの、モナーナさん...とても目立つんですが...」
「あ、その、すいません」

 モナーナさんは外に出ると両手で僕の左手を握りながら横向きに歩いていた。何とも言い出しにくくてちょっと歩いちゃったけど戸惑う姿も可愛いからよし。モナーナさんは両手を離して横に並んだ。

「あまり外にはいかないんですか?」
「あの、お父さんが死んじゃってからは...」
「そうですか...僕も両親はしんじゃったんです。まあ、僕の場合は叔母とユアンがいたから大丈夫でしたけどね」
「そ、そうだったんですね」

 モナーナさんは頬を赤く染めて頷いた。

 ユアンはちゃんとご飯食べてるかな~。叔母さんにも仕送り送らないとな。


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