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第一章

第32話 盗賊

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 バルバトスさんの用意した馬車に乗って街道を北に向かって行く。馬車が二台で僕らは後方の馬車に乗ってる。
 アイラだけ自分の馬がいるから斥候の役目もしてくれてる。

「そろそろ最初の村だ。みんな出れる準備しておいてくれ」

 前の馬車に乗るバルバトスさんから声があがる。
 街道沿いに家々が見えてくる。木の柵で覆われているだけの村、残念なことに人の気配はない。

「やっぱり、人はいないか……」

 みんなで降りて家を見て回る。ダンが呟くとみんな悲しい顔になっていく。

「争った形跡はない。逃げたんだろう。グールは北から来ているわけだ。東か西に逃げた可能性が高いな」

 バルバトスさんの推測を聞いて左右を見回す。お墓から何かが出てきた形跡はあるけど、家の中は荒らされていない。血の跡もないから人死には出ていなそうなんだよな。
 グールは動きが遅いから逃げられたんだろうな。リッチに見つかっていたら助からないだろうけど。

「食べ物の備蓄もある。とにかく、北に進んでみるか。もしかしたら北に逃げている可能性もある」

「そうだよね。身を隠して通りすがるのを待った人がいるかも」

 バルバトスさんの言葉にルビアさんが答える。
 逃げるというより隠れるといった行動をとった人もいるはずだ。お年寄りとかはグールが遅くても長く走ることはできないだろうからな。

「そういえば狼の魔物が増えていたな。村にある食料を狙って群がってしまうかもしれないな。結界の魔法が使える者がいれば村に使うんだが」

「結界?」

「……HollyCircle」

 バルバトスさんの呟きに首を傾げるとエナさんが呟いて教えてくれた。異世界商店で買って使ってもいいかもな。

「よし。みんな出発するぞ」

「あっ。すみません。僕とアイラは少ししてから行きます」

「ん? そうか、魔物がいるかもしれないからすぐに合流するんだぞ」

「はい」

 アイラに視線で合図するとエリュシオンに跨って待ってもらう。馬車が走り出すのを待って異世界商店から結界の魔法石を買う。

「村の中央で使っておけば覆えるよね」

「そうだな」

 魔法石を使用しながら呟くとアイラが答えてくれる。結界の魔法は使用する村を意識して使ったからうまく行ったみたいだ。村のすべてを覆った青い結界が生まれた。
 遠くからも見えるからバルバトスさん達にも見えてるかもな。

「さあ、乗ってハヤト」

「うん」

 アイラに手を伸ばすと力強く引っ張ってエリュシオンに乗せてくれた。落ちないように彼女の腰を掴むとビクッと震えた。

「ハヤト、横っ腹はくすぐったい。前で組んでくれる?」

 顔を赤くしたアイラ。仕方なく彼女のお腹まで両手を伸ばして組む。完全に密着してしまっているけどいいのかな……。

 そんな心配を他所にアイラはエリュシオンを力強く走らせる。みんなの乗った馬車までついて降ろしてくれると思っていたらそのまま通り越してしまう。

「ついでに偵察しておこう」

 アイラは顔を赤くしながら提案してくる。白銀の兜をつけると更にスピードを上げる。

 街道を更に進んでいくと煙が見えてきた。やっぱり生きている人がいるのかもしれない。

「人!? ……あの村の者達じゃないな」

 アイラが声をあげたけど、すぐに声色が不機嫌なものに変わっていく。それもそのはず、煙をあげていた集団は明らかに無法者と言った風貌。盗賊ってやつだな。

「気づかれた?」

「そのようだ。一度下がる」

 盗賊達は僕らに気が付いたみたいだ。僕の呟きにアイラがエリュシオンを旋回させる。
 盗賊達も馬を持っているみたいで複数の馬の走る音が背後からしてくる。
 振り返ると矢がいくつもすぐ後ろを通っていく。こっちも反撃しておこう。

「ThreeMagic Firebolt」

 ボボボ! 三発程の炎の塊を盗賊達に放つ。見事に全弾当たると馬から落ちて火消しに躍起になる。
 その隙に僕らはバルバトスさんと合流した。

「盗賊退治だ。みんな油断するな。もしかしたら村人を奴隷にしてるかもしれない。人命優先で行くぞ」

 バルバトスさんの号令に答えるとイクシオンさんから魔法が放たれる。体が軽くなって敏捷性が上がっていることに気が付く。付与魔法ってやつかもしれない。体が凄く軽くなって両手に持ってる剣が軽くなってる。

「私のスキルです。気にせずに敵に集中してください」

 体の調子を確認しているとイクシオンさんがそういって自分の体よりも長くて細い剣を背中から取り出した。剣と言うよりも刀だ、カッコいい人があんなもの持ってると更にかっこよく見える。

「獲物だ! 狩るぞ!」

 盗賊達の声が聞こえてくる。馬に乗ってくる集団とそれに続いて走ってくる盗賊達。かなりやる気になってるみたいだけど、それはバルバトスさん達も一緒だ。

「魔法を使える奴はいないみたいだ。白兵戦を視野に入れろよ。ハヤト達は後方支援な」

 バルバトスさんはそういって大きな斧を掲げて突撃していく。接敵すると馬ごと盗賊を切り上げてそのまま走ってくる盗賊達へと突撃していってる。
 凄い速さの為か、盗賊達は混乱してる。

「……」

「エナの魔法は痛いぞ~。って私の弓もいたいけどね~」

 無言でエナさんがつららのような氷を放つ。それと同時にルビアさんの弓が三方向へと放たれる。どれも見事に馬に乗った盗賊に当たっていく。
 みんな選ばれた人なだけあって強いな。エナさんなんか普通に無詠唱だもんな。

「おらおら! かかってこい!」

 ダンも負けじと駆けていって、大剣を振り回す。

「私も行く!」

「アイラ! まったく……ニカ、僕らも行くか」

「は~い」

 エリュシオンに乗ってアイラが駆けていってしまった。僕とニカはため息をついて流れてきた馬を捕まえて跨る。流石にルキナちゃんは危ないので馬車で待っていてもらおう。

「乗馬スキルのおかげで早い早い!」

 先に駆けていったアイラに追いつくほどの速度が出てる。スキルってやっぱり持っているだけで優位に立てるものなんだな。

 盗賊達は百人以上いた。それがあっという間に全滅。バルバトスさん達は容赦なく絶命させていたけど、流石に僕とニカは殺めることはできなかった。剣の腹で叩いて気絶させるのがやっとだったな。

「ははは、初めての対人戦はどうだった?」

「あまり良いものじゃないですね」

「慣れておいた方がいいぞ。スキル持ちなんかと戦う時は手加減なんてできないんだからな」

 バルバトスさん頭を撫でられて笑われた。人間とも戦わないといけない世界か。怖い怖い。

「さて……」

「ひぃ」

 僕とニカが気絶させて捕まえた盗賊に向き直ってバルバトスさんが声をもらす。盗賊は悲鳴をあげて顔を青ざめさせる。

「お前達のアジトは? 村人を奴隷商に売ろうとしたか?」

「あ、ああ」

「早く答えろ。答えないとどうなるかわかるだろ?」

 バルバトスさんの声にしどろもどろになる盗賊。少し待つと息を整えて話し出した。

「この先の山にアジトがある。グールの群れを見つけて後ろをつけてたんだ。逃げる村人を全員捕まえて奴隷商に売ろうと待っていたところで」

 聞いてもいないことまで話してくれる盗賊。奴隷商ってまさかルキナちゃんのときの……。

「アジトには何人いる?」

「こ、ここにいた親分たちが百人……。アジトには十人もいません」

 盗賊は顔を更に青ざめさせてバルバトスさんの問いに答えた。ここにいたのがほとんどってことか。

「ってことは村人は無事ってことか」

「は、はい。50人くらいいたと思います」

 ダンが呟くと盗賊が答えた。次の目的地が決まったな。
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