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第一章

第24話 ルキナ

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「いた!」

「馬車か?」

 オークが目撃された場所に着くと馬車を家代わりに使う数体のオークがたむろしていた。
 オークは木の実や何かの肉を食べてくつろいているように見える。

「いつ行く?」

「今が絶好なようだけど」 

 いつ奇襲しようか、アイラとそんな話を小声でしてるとニカが肩を叩いてきた。ニカは指をさして、

「お兄ちゃん! 女の子!」

「なに!?」

 馬車の隅に震える毛布が見えた。頭がぴょこっと出ていて顔が見える。

「あの馬車、奴隷商か」

「奴隷商」

 アイラの呟きを繰り返す。ということはあの子は奴隷の子?

「助けよ!」

「そうだな」

 ニカが立ち上がって声をあげる。同意すると早速オークたちへと視線を向けた。

「ゴブリンを簡単に倒せるようになった。二人ならオークなど」

「そういってもらえると心強いよ」

 ゴブリンの三倍は体長のある魔物オーク。アイラの言葉に背中押される。
 ニカと顔を見合って頷くとアイラの合図で走り出す。

「エリュシオン! かく乱を頼む」

「ヒヒ~ン!」

 アイラにお尻を叩かれてエリュシオンが走り出す。僕らを追い越すとオークたちを越えて駆けていく。オークたちはエリュシオンを目で追っていく。僕らはその隙をついてそれぞれ一体ずつ屠っていく。思ったよりも簡単に倒せる。

「弱い!」

「いや、ハヤトからもらった武器が異常なんだ」

「ええ!? そうなの?」

 僕の声にアイラが否定してきた。先に当てたら勝ちみたいな状況になってるみたいだな。

「とにかく、オークを倒さないと!」

「わかってるニカ殿!」

 仲間がやられて激おこのオークが木のこん棒を振り上げて駆けてくる。二メートル強のオーク達、さっきはすぐに倒せたからじっくりみると気圧されるな。

「ハッ!」

「僕も! Waterbolt!」

 アイラが突撃していく。僕は水の魔法を唱えてオークの頭を吹き飛ばした。
 残りのオークはアイラとニカが一体ずつを倒すと逃げていく。仕留めきりたいとアイラを見ると頷いてくれて帰ってきたエリュシオンに跨って駆けていった。
 僕とニカは馬車にいた女の子の安否を確認しに行く。

「大丈夫? 心配ないよ。出てきて」

 僕が行くと怖がってしまうかもしれないからニカを行かせる。馬車の中からニカの声が聞こえてくるけど、女の子の声は聞こえてこない。心配しながら待っているとニカに手を引かれて女の子も出てきてホッと胸を撫でおろした。

「こっちも終わった。一体だけだった。そっちも無事だね」

 アイラが帰ってきて笑顔を作る。女の子は猫の獣人かな? 耳が頭の上についていて尻尾がある。他は普通に人間って感じだけど。

「この子、言葉が通じないみたいなんだ」

「言葉が?」

 ニカが心配そうに俯いてる。言葉が違うってことは別の国の子ってことかな。

「お名前は?」

「にゃう……」

「ニャウ?」

「にゃう」

「ん、言葉になっていないように感じるね」

 アイラが目線を合わせて話しかけるけど、にゃうとしか言ってくれない。名前ではないのは何となくわかる。

「奴隷って言うのもあるけど、年齢もあるかも。3~4歳でしょ?」

「普通に学んでいないというわけだね」

 僕の疑問にアイラが考え込んで答える。早いうちに奴隷商へと売られてしまった子という感じも受ける。

「お兄ちゃんどうしよう?」

「確か、奴隷を助けた場合。その奴隷はその拾った人の物になるはずだけど……」

 ええ!? ニカの言葉にアイラが説明してくれた。驚きで僕は後ずさってしまう。拾った物を拾った人が得られる。そんなことあっていいのかな?

「と、とにかく町に戻ろう。依頼の数もこなしたしね」

「そうだね」

 とにかく、戻ってバルバトスさんとかヴェインに相談しよう。僕だけじゃ解決できないことだ。
 女の子をアイラがエリュシオンに乗せて歩く。その後ろを僕とニカが歩くと女の子はキョロキョロと周りを見始めた。目が輝きを取り戻して子供らしい表情になっていく。

「にゃにゃにゃ~!」

「ん? ウサギさんだね」

「うさにゃ……うさにゃ~」

 ウサギが目線に入って女の子が声をあげる。アイラの言葉を真似しようと口を開くけど、うまくいかないみたいだな。微笑んでその様子をみていると例の声が聞こえてくる。

『異世界 獣人語を習得しました』

「可愛いにゃ~!」

 システム音声の後に女の子の声が聞こえてくるとハッキリと何を言ってるのかわかった。

「君の名前は?」

「にゃ? 言葉わかる!?」

 エリュシオンの横について女の子に声をかける。アイラとニカは驚いて様子を伺ってる。

「はは、安心して。名前を聞いてもいいかな?」

「……ルキナにゃ」

「ルキナちゃんだね」

 名前を素直に言うルキナちゃん。頭を撫でてあげると気持ちよさそうに喉を鳴らす。

「言葉が分かるのか?」

「ははは、これもスキルのおかげってことで」

「……やはり規格外だなハヤトは」

 アイラが驚いて声をあげる。答えると呆れるように言葉を吐いた。完全に規格外認定されてしまったな。まあ、二人になら隠さずにいてもいいのかな。

「お兄ちゃん。この子の名前はルキナ?」

「うん、そうみたい」

「そっか~。ルキナちゃん、よろしくね」

 ニカにも名前を教えると微笑んでルキナちゃんに声をかける。彼女は名前を呼ばれたのは理解してるみたいで首を傾げてる。
 さて、彼女のことはどうしようか。馬車の残骸から察すると奴隷商は死んでる。血で汚れていたのもあるし、服がちぎれていたからね。
 幼い子を奴隷にする世界か……世知辛いな。僕は運が良かった方かも。

「森を抜けた。少しスピードをあげるよ」

「りょうか~い。お兄ちゃん、やっぱり僕らも馬が欲しいところだね」

 森を抜けるとアイラが声をあげてエリュシオンが走り出す。ニカの言葉に頷くと彼を抱き上げて疾走する。

「はや~い。僕は馬いらないかも!」

「ははは、調子がいいなニカは」

「えへへ」

 エリュシオンと並走するとニカが楽しそうに声をあげる。馬はまだ要らないかな。
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