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第二章 悪しき影

第八十三話 勇者

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「プキュキュキュキュ、そろそろ壊れるプキュね~」

「くっ」

 ゼットの結界の全面にひびが入って今にも壊れそうになってる。

「もういいですよ。戦闘準備出来てます」

「お前達!」

「プキュキュ、逃げないなんておバカプキュね。魔王を倒せるのは勇者だけだというのに」

 ブルゼルの声と共に結界が壊れた。結界から毒霧がまき散らされる。

「チィ、なぜ逃げなかった!」

 ゼットが宙に浮いて僕らを睨みつける。僕らも飛び上がり毒霧を躱していく。

「大丈夫だよゼットさん。アレクは凄いんだから」

 怒ってきているゼットにシーナが笑顔で応える。ゼットはそれでも怪訝な顔、そりゃそうか。

「シーナいくよ」

「うん」

「「荒れ狂う暴雷」」

 空に浮いた状態でソルトさんの作ったドラゴン素材の武器を重ねた。幾重にも降り注ぐ雷が辺り一面を焼き焦がしていく。

「プキュ~...激しい雷、やはり、勇者の末裔プキュ~。しかし、勇者の波動は感じないプキュ」

「嘘!?」

 荒れ狂う暴雷で死なないブルゼル。シーナが驚きの声をあげている、僕も驚きを隠せない。

「勇者は何故存在するかわかるか? そう言う事なのだ。勇者の波動を持ったもので攻撃しなくては魔王は倒せん。その為に勇者は存在する。魔王と言う脅威を倒せるバランサーなのだ」

 ゼットが冷や汗を滴らせて呟く。勇者ではない僕らじゃ奴には勝てない? それなら...

「じゃあ、倒せるよ」

「なに!? 勇者の波動だと!」

 僕のギフトは子供達の服やお店の商品を作った時にレベルが上がっていたんだ。



【ギフト】

 裁縫(速度30 完成度40 スキル20)



 百にならずに僕は勇者の職業を付与できるようになったんだ。勇者といえば最強の類の職業だと思う。だけど、更に上の職業が存在するみたいなんだよね。そして、その勇者の職業を外套に付与して、纏うとゼットさんが驚愕の顔で僕を見つめてきたよ。

「プキュ! 勇者の波動プキュ。これはまずいプキュね。一時撤退プキュ~」

 ブルゼルは僕に気付いて、また霧を発生させた。広範囲にばらまいて僕らの目から逃げようとしているみたい。

「[ホーリープッシュ]」

「プキュ~!?」

「はっ!」

「プキャ....」

 それをさせまいとシーナのホーリープッシュで霧を消し、僕がトドメに剣を突き立てた。外套から勇者の波動が剣を伝ってブルゼルの体に入っていく。

「プキャ~~。しくじったプキュ。分体をもっと集めていればこんな事には」

「一匹じゃない!?」

「プキャキャキャキャキャ~。異次元にいる本体を倒さない限り、俺は帰ってくるプキュ~....」

「...」

 ブルゼルは霧散して消えていった。簡単に倒せたから可笑しいとは思ったけど、まさか、分体だったなんて。

「ブルゼルは好戦的な奴だ。すぐにまたやってくるだろう」

 ゼットが宙から降りて話した。異次元にいる本体を倒さないと終わらない。

「どうやって倒せばいいんでしょう?」

「君は水の勇者の末裔なのだろ? それならばやりようはある」

 ゼットはそう言ってソソルソ村の方へと歩いて行く。

「倒すのだろ? ついてきたまえ」

 振り返って彼はそう言ってきた。僕とシーナは共に顔を見合って首を傾げる。ソソルソ村の方に何かあるのだろうか?

「何故、ブルゼルはあの子供を求めたのかわかるか?」

「なんでそれを?」

「サーシャが抱えていた子供を見たのだよ。それで気付いた」

 ゼットがここに来た時に、色々察したみたい。ブルゼルが子供を求める理由、それはなんなんだろう?

「王族の血を持った子供を攫い、それを使おうとしていた。実はブルゼルは死んでいなかったと言うのは言うまでもないな」

「はい、異次元から分体を送ってきているので察しました」

「何故異次元にいるか、それは水の巫女が封印したからなのだよ。それを解放するのに王族の血が必要なのだ」

 封印? お父さんはブルゼルを倒す事が出来なかったのか。

「水の巫女は勇者と子供を作り、君を産んだのだろう。そして、巫女は人の王の娘だった」

「えっ!?」

「誰も知らぬ真実、何故知っているかと言うと、それは秘密だ。俺の能力とだけ言っておこう」

 巫女様はお姫様? それでお父さんと結ばれて僕を産んだ? って事は僕にも王族の血が?

「お前の血を使えば封印が破れ、異次元にいるブルゼルを解放できる。そして、それをアレクが討てば、全てが平和に傾く」

 ビナンを求めたのはそう言う事か、そして、それは僕でも出来る事。
 僕はお父さん、お母さんの仇が取れる。勇者の職業を付与したこの外套や指当てがあれば!
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