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第二章 悪しき影

第五十二話 鍛冶

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「アレク~、いいってよ~」

「ほんと?」

 村唯一の鍛冶屋さんのドンガさんにカマドを貸してくれないかとお願いしたんだけど、僕じゃダメだったからシーナにお願いしたんだ。ドンガさんは女の子には優しいんだよね。

「アレクか、お前には使わせんと言ったのに・・」

「いいじゃんドンガさん、シーナのお願いだよ」

「ふんっ、見よう見まねで出来るような事じゃないんだぞ。ケガをしても知らんぞ」

 ドンガさんはシーナのお願いに頬を赤くして鍛冶場から外へ行ってしまった。昔からソソルソ村の人達は僕に危険な事をさせようとしないんだよな~。たぶん、僕の両親が関係していそう、恩人の子供に怪我をさせたくないって感じなのかな?
 小屋みたいな鍛冶場で煙突が外に出ているだけの簡素な鍛冶場。
 なんで鍛冶場を使おうと思ったかと言うと、鍛冶士の職業を付与した手袋を使ってみたいと言う事でお願いしたんだ。僕は断られちゃったけどね。

「じゃあ、とりあえず、何かやってみようかな」

 何が出来るかわからないのでゴブリン達が持っていた錆びた剣とかを溶かしてみよう。

「錆は不純物だからダメなんじゃないの?」

「う~ん。ダメだったらオークの持っていた斧とかを溶かしてみようかな」

 オークは普通の鉄の武器を持っていたからそれを加工すればいいよね。とにかく、何が出来るかわからないからやってみよう。

「ヤットコ鋏で錆びた剣をカマドに放り込んでっと」

 両手に手袋と指当て十個フル装備、何が出来るかわからなかったからオーバーな装備にしてみました。

「あれ? 茶色が無くなった?」

 熱していくと茶色ではなくなって真っ赤になっていく。鍛冶自体、あんまりやった事がないから全然わからないけど、なんか違うような気がする。

「赤くなって少し大きくなった?」

 シーナも一緒になって剣を覗いてみていると指摘してきた。
 剣が赤くなってそのまま大きくなってる。ショートソードがツーハンドソードの長さになってる。大剣といった感じ。

「持ち手も両手用になってるよ」

 ヤットコ鋏で持っている部分も両手で掴むための持ち手が長くなってる。鍔の部分も持ち手みたいになっているよ。

「どうした? 怪我でもしたか?」

 少し騒いでいたらドンガさんが頭を掻きながら現れた。めんどくさそうにしているけど、僕らの心配をしているみたい。本当は優しいんです。

「剣を溶かしてたんですけど」

「ん? 錆びた剣や槍か? そんなもんでやったら火傷するぞ。火花が散っただろう?」

「ううん。火花なんて出なかったよ。それよりもアレクの持ってる剣を見てよ」

「ん? そのドレイクツーハンドがどうしたんだ? 町で買ってきたのか?」

 ドンガさんは僕らがアイテムバッグから出しておいた錆びた武器を見て首を傾げているとシーナがヤットコ鋏で掴んでいるツーハンドソードを指さした。ドンガさんはドレイクツーハンドって言ってるけど、有名なのかな?

「違うよ。アレクが作ったんだよ」

「あ? 爺を馬鹿にするんじゃねえよ。ドレイクツーハンドソードはそんな簡単に作れるもんじゃねえ。だまそうったってそうはいかないぞ」

 ドンガさんはシーナの言葉を信じていないみたい。そんなに凄い物なのかな?

「見事な炎属性のツーハンドだな。ほれ、ここの持ち手の所にマナを込めると剣の芯に炎が宿って剣全体が熱で覆われるんだ。このツーハンドを作ったやつは町でも名のあるもんだろう。儂と同じくらいかそれ以上の逸材だ」

 ドンガさんは僕からヤットコ鋏を奪ってドレイクツーハンドソードを見つめて説明してくれた。子供がおもちゃを見つめるように輝いた目で見つめています。

「アレク・・・」

「早めに離れておこうか・・」

 僕らは錆びた武器を回収してその場を離れる。やっぱり、フル装備の付与アイテムを使っちゃダメだったのかも。錆びた武器を熱しただけであんなものが出来てしまったよ。

「あ~美しい」

「アレクの作った物なのに~」

「いいんだよ。少しでも鍛冶場を使わせてくれたお礼にあげよう」

「む~。ドンガさんの馬鹿」

 ドンガさんはツーハンドソードを見つめてる。僕が作ってしまったものだから何だか嬉しい。まぐれとはいえ、自分が作った物が認められると何だか嬉しいよね。
 鍛冶場を使わせてくれたお礼としてあげることにしたよ。

「次はどうするの?」

「ん~。狩人の手袋も試してみたいかな~」

 僕の職業を付与する力がどれほどのものなのか一通りやっておきたいんだよね。
 という事で次に、弓矢を使った狩人の手袋の力の検証だ。

「ブルー」

「ピィーヒョロヒョロヒョロー」

 ブルーを召喚してもらって空から獲物を探してもらう。鷹というよりも別の鳥のような鳴き声をあげているね。

「ピィ~」

「あっちか、どれどれ~」

 ブルーから合図があったので木に登ってそちらを伺う。ブルーの真下の木に数羽のカラスが止まっている。鳥の魔物でローレイブンだ。繁殖が進むとハイレイブンになって群れで狩りをするようになる。これもゴブリンと一緒で群れになる前に狩った方がいい魔物。そうそう、ハイレイブンにはならないけど、狩っておいて損のない魔物だね。

「よし!」

「私もやってみる~」

 僕とシーナは弓の弦をギリギリと引っ張り狙いを定める。百メートルは離れているローレイブンを狙っているんだけど、近くで見ているかのような感覚になる。ズームされて見えている感じだ。

「それ~」

「僕も!」

 シーナと同時に矢を射ると鋭い軌道で矢がローレイブンに命中した。ブルーが残りの二羽も仕留めて纏めて回収してきてくれた。狩人の手袋もかなり優秀みたいだね。

「アレクは凄いね」

「だね」

 シーナは凄い笑顔で褒めてきた。僕は苦笑いだよ。
 どの職業もこんな感じになってしまうのか。上級職業が付与できるようになったらどうなるんだろう・・。
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