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第二章

第33話 新たな

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「みんな、友達を連れておいで、孤児院が出来たから一緒に暮らそう」

「「「「え!? 本当?」」」」

 前に花をくれた四人の子供に声をかける。みんな元気よく返事をしてバラバラに散っていった。
 僕らも市場に行って見る。市場には毎日孤児が仕事に励んでる。みんなのそんな姿を見てるとギルドに働きかけてよかったって思うよ。

「あっ! 坊主!」

「え? ガントンさん? どうかしたんですか?」

 ガントンさん、ラフィーリアさんと初めて会った時に殴ってきたおじさんだ。まあ、未遂で済んだけど、前にも殴られたことがあったから殴られたでいいかもな。まあ、今はとてもいいおじさんだ。
 険しい顔のガントンさん。何かあったのかな?

「坊主。孤児を探してたやつがいてな。少し怪しい奴だったんだ。気をつけろよ」

「え? 孤児を探してる? 僕たちみたいだな~」

「お? お前たちも探してる? 孤児院を開いたんじゃないのか?」

「開いたばかりなので孤児を集めているところなんですよ」

 ガントンさんは納得したように『なるほど』と頷いて胸をドンと叩いて口を開く。

「俺達に任せろ。今まで孤児達をネズミなんて言っちまってたからな。その償いをさせてくれ」

「いいんですか? 店番とかしなくて?」

「今日は孤児院設立記念日ってことで休みだ。なあ! みんな?」

 ガントンさんの言葉に周りの出店の人達も『おうっ』と声をあげて賛同してくれた。よく見ると門の前で銅貨をくれた兵士さんたちの姿も見える。兵士さんも協力してくれるみたいだ。
 そう思っていると一人の兵士さんが近づいてきて握手を求めてきた。

「君のおかげだよ」

「はい?」

 握手に答えて手を握ると兵士さんは微笑んでくれる。

「君の言葉を考えたんだ」

 兵士さんは天を仰いで呟く。

「孤児達にわけるってやつだよ。最初はわけがわからなかったよ。ただ頑張っている君たちを応援したかっただけだったからね」

 悩んでくれたか、いい傾向。しっかりと自分で考えてくれたみたいだ。

「今まで孤児を見たら石を投げる人が多かった。私も何度かやったことがあったよ。警備と言う仕事の邪魔になりかねなかったからね。でも、それは言葉の通じない猫や犬の話だった。話せばわかってくれたんだよな」

 兵士さんはそういって後悔に顔を歪める。

「孤児も身綺麗にすれば普通の子供だった。それを忘れてしまうなんて……私達は馬鹿だったよ」

「……」

 俯く兵士さん。そんな彼の手を握る。

「温かいですね」

「ああ、君の手も」

「過去の行いは直せない。ならやることは一つですよ。これから一緒に孤児たちを救って行きましょ」

「ありがとう」

 兵士さんは泣き出してしまった。でも、みんなわかってくれたんだ。このゲルグガルドの孤児はそこそこ文字をかけたり、言葉がわかったり、能力が高いんだ。
 僕は前世の記憶があったからある程度読み書きは出来たけど、普通はルリみたいに書けないはずなんだ。生まれてすぐに捨てられたりしてたら普通はそうだよな。
 これからゲルグガルドのみんなで孤児を保護して、労働力にする。これは町のためでもあるし、孤児のためにもなる。ウィンウィンってやつだな。

「これから孤児を見かけたら冒険者ギルドに知らせるよ」

「はい。お願いしますケルトさん」

 兵士さんはケルトと名乗ってくれて約束してくれた。兵士さんが協力してくれたら早くみんなを集められるかもな。

「フィル~」

 市場を出て僕も孤児を探そうと思ったらルリが声をかけてきた。ルファーとリファはギルドに戻ってもらってるから一人で行動中だ。

「どう? 孤児はいた?」

「うん。もう結構集まったみたい。それでギルベンさんが話があるって言ってたよ」

「ギルベンさんが? なんだろう?」

 孤児院を出る時には何も言われなかったけどな? 孤児を探してる間に何かあったのかな?

「じゃあ、孤児院に戻る?」

「ううん。冒険者ギルドで待ってるって言ってたよ」

「冒険者ギルドで?」

 孤児院にいたのにわざわざ移動した? なんか変な感じだな~。

 ということで冒険者ギルドに戻ってきた。
 リファとルファーが働いてるのが見えていつも通り、ファバルさんが飲んべえになってる。

「おお、来たかフィル」

「ギルベンさん、話って何ですか? 酒場のマスターと誰ですか?」

 ギルドに入るとギルベンさんが僕に気づいて声をかけてくる。彼の後ろに酒場のマスターと知らないお兄さんが立っていた。
 ニコニコと笑うお兄さんと酒場のマスター、マスターは寡黙で食べ物とかを持ってくるときも何も話さないんだよな~。最近はルファーがホールをやっているからそれもなくなっちゃったから、見てすらいなかった。
 
「前に言ったじゃろ。会いたいと言って居る方がいると」

「じゃあ、この方が?」

「ふふ、初めましてフィル君」

 細い目で結構綺麗な服を着ている青年。近くで見るとなんだか僕に似ているような気がする? 容姿がというか雰囲気が……。

「ギルドマスター。彼の成績は?」

「はい。今まで見た冒険者の中でトップです」

 ええ!? 今まで声を聞いたことのなかった酒場のマスターにギルドマスターって言ってる!?
 細目のお兄さんがにっこりとその報告を聞いて頷いた。

「素晴らしいね。ああ、自己紹介を忘れてたね。僕はフェリアン・ゲルグガルド」

「え? ゲルグガルド?」

「フェリって呼んでほしいなフィル君」

 自己紹介してくれるフェリさん。苗字があるってことは貴族なのかな? それでもアライア男爵みたいに苗字がない人もいる。苗字って領土とかそういったものを持っている人だけのはず?
 ゲルグガルドってことはこの王都の名前だよね?

「お察しの通り、王族じゃよ」

「ええ!?」

 ギルベンさんが察してくれて説明してくれた。まさかの王族……びっくりだ。

「現王のお父様。ジェラルドが病状に伏してしまってね。貴族共の傀儡になってしまっていて、あってないような肩書だよ。気にせずに接してほしい」

「あっ、はい……」

 王子様ってことだけど、フェリアン様は砕けて話してほしいと言ってくる。流石にそういうわけには行かないので様で呼ぼうかな。

「それでフェリ様はどうして僕に?」

「うん。君の噂を聞いてね。とりあえず、ここじゃ目が多いからマスターの部屋に行こうか」

「はい。こちらです」

 酒場のマスターだと思っていたギルドマスターが受付の奥の扉へと案内してくれる。
 通路を通って突き当りの部屋に入ると向かい合わせのソファーに座るように促された。なぜかルリもついてきてくれて僕の横にポスッと座った。

「さて、まずは感謝を。ありがとうフィル君」

「え? 急にどうしたんですか?」

「私からも。ありがとう」

 なぜかフェリアン様とギルドマスターがお礼を言って来た。何のことでお礼を言われてるのかわからずにオロオロしてしまう。

「孤児院のことだよ」

「我々は歯がゆく思っていたんだ……」

 二人はそういって拳を握る。悔しそうなその姿を見て僕は呆れてしまう。

「お二人ならいくらでも作れたんじゃないんですか?」

 お金があればだれでも出来ること。僕はそう思ってた。

「地位があるとね。色々と邪魔者が現れるものなんだよ」

「孤児に仕事を斡旋するのを妨害されていたことは知っているだろ。それと同じことを貴族たちにやられていたんだ」

 二人はそういってため息をつく。そういえば、アライア男爵の証拠の中に孤児に仕事を斡旋しないようにする内容のものもあったっけ。

「だから、君のようにポッと出の人に動いてもらうのが一番よかったんだ。本当に感謝してる」

「はぁ……」

 なんだか釈然としないな~、王族なら貴族に言うこともきかせられるんじゃないのかな~。

「とにかくじゃ。二人は感謝しとる。それでいいと思うぞ」

「ギルベンさん……。分かりましたけど」

 呆れる僕にギルベンさんが声をあげた。感謝してるから呼んだのかな? それだけじゃなさそうだけど?

「表立って支援は出来ないが困ったことがあったらマスターのギレンに声をかけてくれ。すぐに僕に連絡できるようになっているからね」

「あ~、はい……」

 握手を求めてくるフェリアン様。ギルドマスターはギレンって言うのか、なんだかカッコいい名前だな~。
 
 ドン! 握手をしていると受付の方から大きな音が聞こえてきた。何だろうとみんなで受付に戻ると教会の司祭の格好をした人たちが受付に魔法で作り出した光の弾をぶつけていた。
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