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第一章 落とされたもの
第10話 イーマちゃん
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「シエルさん……」
「……」
結局シエルさんに抱きしめられて運ぶことも出来ずに眠りについた。温かくてよく寝られたけど、起きると彼女は口を聞いてくれない。本当に怒ってるんだな~。
「シエルお姉ちゃ~ん! わぁ~ん!」
「イーマ!?」
そうこうしていると二階から大きな泣き声が聞こえてくる。シエルさんは凄い速さで二階にあがっていった。
とりあえず、僕は食事を用意しておこうかな。
「夢じゃないんだね! シエルお姉ちゃん!」
「ふふ、そうよ。夢じゃないの……アート様のおかげ」
イーマちゃんを抱きながら階段を降りてくるシエルさん。さっきまで怒っていた彼女はいない、そこには可愛い姉妹が立ってた。
「イーマちゃん、よろしくね」
「アート様? 新しいご主人様?」
握手をしようと手を伸ばして声をかけるとイーマちゃんは首を傾げて手に触れた。
「ううん。ご主人様じゃなくて友達だよ」
「友達? 友達ってな~に?」
「え……」
友達を知らないのか。イーマちゃんの真っ直ぐな瞳に答えることが出来なかった。
そんな僕を見てシエルさんが彼女の頭を撫でる。
「イーマ。友達って言うのはね。一緒に遊んでくれて、一緒に泣いてくれて、一緒に喜んでくれる人だよ」
「え~、それってお姉ちゃんのこと? じゃあ、アートお兄ちゃん?」
シエルさんの言葉を聞いて目を輝かせるイーマちゃん。イーマちゃんの言葉に僕が頷いて見せるとすぐに抱き着いてきた。
「やった~。お兄ちゃんが出来ちゃった~」
「よろしくねイーマちゃん」
抱きしめ返してイーマちゃんに答える。シエルさんも僕とイーマちゃんを抱きしめてくれた。温かいな。
シエルさんももう怒ってないみたいだ。よかった。
しばらく三人で温かくなっていると準備しておいた食事に口をつけていく。
「バレンティは素行が悪くて、ご主人様に縛られたりしていました。私の腕がなくなったのもやつの仕業です……」
「そ、そうだったんだね……」
食事をし終わってバレンティに壊された家具をしまって行く。シエルさんに事情を聞くとそんな答えが返ってきた。
「やつの匂いがして急いで降りてこなかったら、アート様は今頃……」
「あ~、シエルさん、泣かないで」
シエルさんが思い出して涙を浮かべる。こんなに心配されて少し嬉しく思ってしまう僕はイケない子だな。
「……よ~し! 今日はお店を休みにしよう。イーマちゃんとお出かけにいこう」
「え!? いいのですか?」
「うん。他のお店を見るのも勉強になるしね」
ということでシエルさんとイーマちゃんと一緒にお買い物。
「スティナさん達には悪いことしました」
「はは、すでにお店の前にいたね……。定休日を決めたほうがいいかもね」
三人で手を繋いで出てくるとスティナさんに見つかって指を咥えて見つめられた。ユラさんとフィアさんがいなかったらついてきてただろうな。二人はスティナさんを羽交い絞めして止めていたから。
「あ~焼いたお肉が売ってる~」
「ん? ああ、屋台だね」
出店を見てイーマちゃんが食べたそうに指を咥える。僕は出店のおじさんに肉の串焼きを一つもらうとイーマちゃんに手渡した。
「食べていいの?」
「どうぞ」
串焼きを受け取ったイーマちゃんがちゃんと確認を取ってから口に運ぶ。もちゃもちゃと咀嚼すると見る見るうちに顔が緩んでいく。
「美味し~! シエルお姉ちゃんも食べてみて~」
「ふふ、イーマが一人で食べていいのよ」
「え~、みんなで食べたい!」
優しいイーマちゃんがそんなことを言うものだから、僕は自分の分とシエルさんの分も購入。広場のベンチに座ってみんなで串焼きを楽しんだ。
「さて、次は何しようか」
「アート様! エマ様や孤児院に何かお土産を買って行きましょう!」
「!? いいねそれ」
シエルさんの提案に親指を立てる。三人で散歩をするだけでも良かったけど、孤児院の様子も見たかったから丁度いい。
「エマ様の好きなものは何ですか?」
「えっと、甘いものだったかな。ハチミツを養蜂場の人からもらって食べてたのを見た。孤児院はあんまり食べ物に余裕がなかったからそれくらいだな~」
シエルさんに改めてエマさんの好きなものを聞かれる。好きなものを好きなだけ食べるなんてできなかったな~。
「ではハチミツ菓子を探しましょう」
「うん」
シエルさんがやる気になって目を輝かせる。
「イーマも食べた~い」
「はは、じゃあ、僕らの分も買おう」
「やった~」
イーマちゃんも甘いものが食べてみたい様子。折角だからみんなで食べよう。
シエルさん達と一緒にお店を周る。他の人達のお店は外からお店の中が見えて、一番高い商品が見えるようになってる。
Sランクのポーションが置いてあって白金貨1枚で売ってたな。白金貨1枚あれば孤児院が1年くらせるかも、いや、それ以上かな。
ハチミツ菓子を見つけて購入するとすぐに孤児院へと向かう。孤児院へ歩いていると町の外から息を切らせて走ってくる冒険者さん達が見えた。
彼らは冒険者ギルドに声をあげて走っていく。その声はみんなを怯えさせる内容だった。
「魔物の群れが来るぞ~!」
魔物の群れ、町を襲ってくる魔物の大群が現れたらしい。
折角、お菓子を買ったのに……孤児院にはいけそうにないな。
「……」
結局シエルさんに抱きしめられて運ぶことも出来ずに眠りについた。温かくてよく寝られたけど、起きると彼女は口を聞いてくれない。本当に怒ってるんだな~。
「シエルお姉ちゃ~ん! わぁ~ん!」
「イーマ!?」
そうこうしていると二階から大きな泣き声が聞こえてくる。シエルさんは凄い速さで二階にあがっていった。
とりあえず、僕は食事を用意しておこうかな。
「夢じゃないんだね! シエルお姉ちゃん!」
「ふふ、そうよ。夢じゃないの……アート様のおかげ」
イーマちゃんを抱きながら階段を降りてくるシエルさん。さっきまで怒っていた彼女はいない、そこには可愛い姉妹が立ってた。
「イーマちゃん、よろしくね」
「アート様? 新しいご主人様?」
握手をしようと手を伸ばして声をかけるとイーマちゃんは首を傾げて手に触れた。
「ううん。ご主人様じゃなくて友達だよ」
「友達? 友達ってな~に?」
「え……」
友達を知らないのか。イーマちゃんの真っ直ぐな瞳に答えることが出来なかった。
そんな僕を見てシエルさんが彼女の頭を撫でる。
「イーマ。友達って言うのはね。一緒に遊んでくれて、一緒に泣いてくれて、一緒に喜んでくれる人だよ」
「え~、それってお姉ちゃんのこと? じゃあ、アートお兄ちゃん?」
シエルさんの言葉を聞いて目を輝かせるイーマちゃん。イーマちゃんの言葉に僕が頷いて見せるとすぐに抱き着いてきた。
「やった~。お兄ちゃんが出来ちゃった~」
「よろしくねイーマちゃん」
抱きしめ返してイーマちゃんに答える。シエルさんも僕とイーマちゃんを抱きしめてくれた。温かいな。
シエルさんももう怒ってないみたいだ。よかった。
しばらく三人で温かくなっていると準備しておいた食事に口をつけていく。
「バレンティは素行が悪くて、ご主人様に縛られたりしていました。私の腕がなくなったのもやつの仕業です……」
「そ、そうだったんだね……」
食事をし終わってバレンティに壊された家具をしまって行く。シエルさんに事情を聞くとそんな答えが返ってきた。
「やつの匂いがして急いで降りてこなかったら、アート様は今頃……」
「あ~、シエルさん、泣かないで」
シエルさんが思い出して涙を浮かべる。こんなに心配されて少し嬉しく思ってしまう僕はイケない子だな。
「……よ~し! 今日はお店を休みにしよう。イーマちゃんとお出かけにいこう」
「え!? いいのですか?」
「うん。他のお店を見るのも勉強になるしね」
ということでシエルさんとイーマちゃんと一緒にお買い物。
「スティナさん達には悪いことしました」
「はは、すでにお店の前にいたね……。定休日を決めたほうがいいかもね」
三人で手を繋いで出てくるとスティナさんに見つかって指を咥えて見つめられた。ユラさんとフィアさんがいなかったらついてきてただろうな。二人はスティナさんを羽交い絞めして止めていたから。
「あ~焼いたお肉が売ってる~」
「ん? ああ、屋台だね」
出店を見てイーマちゃんが食べたそうに指を咥える。僕は出店のおじさんに肉の串焼きを一つもらうとイーマちゃんに手渡した。
「食べていいの?」
「どうぞ」
串焼きを受け取ったイーマちゃんがちゃんと確認を取ってから口に運ぶ。もちゃもちゃと咀嚼すると見る見るうちに顔が緩んでいく。
「美味し~! シエルお姉ちゃんも食べてみて~」
「ふふ、イーマが一人で食べていいのよ」
「え~、みんなで食べたい!」
優しいイーマちゃんがそんなことを言うものだから、僕は自分の分とシエルさんの分も購入。広場のベンチに座ってみんなで串焼きを楽しんだ。
「さて、次は何しようか」
「アート様! エマ様や孤児院に何かお土産を買って行きましょう!」
「!? いいねそれ」
シエルさんの提案に親指を立てる。三人で散歩をするだけでも良かったけど、孤児院の様子も見たかったから丁度いい。
「エマ様の好きなものは何ですか?」
「えっと、甘いものだったかな。ハチミツを養蜂場の人からもらって食べてたのを見た。孤児院はあんまり食べ物に余裕がなかったからそれくらいだな~」
シエルさんに改めてエマさんの好きなものを聞かれる。好きなものを好きなだけ食べるなんてできなかったな~。
「ではハチミツ菓子を探しましょう」
「うん」
シエルさんがやる気になって目を輝かせる。
「イーマも食べた~い」
「はは、じゃあ、僕らの分も買おう」
「やった~」
イーマちゃんも甘いものが食べてみたい様子。折角だからみんなで食べよう。
シエルさん達と一緒にお店を周る。他の人達のお店は外からお店の中が見えて、一番高い商品が見えるようになってる。
Sランクのポーションが置いてあって白金貨1枚で売ってたな。白金貨1枚あれば孤児院が1年くらせるかも、いや、それ以上かな。
ハチミツ菓子を見つけて購入するとすぐに孤児院へと向かう。孤児院へ歩いていると町の外から息を切らせて走ってくる冒険者さん達が見えた。
彼らは冒険者ギルドに声をあげて走っていく。その声はみんなを怯えさせる内容だった。
「魔物の群れが来るぞ~!」
魔物の群れ、町を襲ってくる魔物の大群が現れたらしい。
折角、お菓子を買ったのに……孤児院にはいけそうにないな。
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