上 下
6 / 18
第一章

第6話 報酬

しおりを挟む
 ワダさんに連れられて奥の部屋に通された。
 応接室のような部屋で向かい合わせのソファーに座る。
 ワダさんは少し怒っているみたいでいくつかの書類を机にどんどんと叩きつけてる。

「まずはなぜ本当のことを言ってくれなかったんですか? 私じゃなかったら大変なことになっていましたよ。ハンターが自分の利益のために嘘をついていたんですからね」
「はあ……すいません」
「ハンター登録した時点で国との信用問題になってしまいますので魔物の討伐はちゃんと申告してもらわないと……まあ、Sランクの魔物の討伐を初めて討伐に向かった人が倒したなんていっても国は信用してくれなかったと思いますがね」

 ワダさんは大きなため息とともに話して、笑顔を作ってくれた。
 ハンターはいわゆる公務員みたいな位置に属す。その為、嘘の申告は結構な罪になるんだよな。それでも俺は自分の強さを隠したかった。知られると色々と不利になりそうだったからね。例えば税金とかね。

「Aランクから上の魔物を討伐すると税金は通常の20%から5%に下がります。場合によっては一生減税されることもあるんです。申告したほうがタチカワさんにとっても得しかないんですよ」
「それでもSランクを倒したとなったら国に要請されて出動なんて言うのも増えて結構タダ働きさせられるって聞きましたよ」

 俺って結構テレビっこだからSランクの人の取材を見たことがあるんだよな。その時にSランクの人が愚痴ってたんだよ。あんなことになるのはごめんこうむる。

「日本人唯一のSランクの方の事を言っているんですね……。あの取材は本当にこまったことになりましたよ。電話がいくつも来ましたからね。Sランクは大変なんだから仕事を増やすようなことをするな、とか税金泥棒とか。何も知らない人が言って来たんですから」
「じゃあ、違うんですか?」
「Sランクの人が狩るよりは確かに少ない報酬かも知れませんが狩った魔物の素材はそのままその方の物ですし、それほど損はしていないはずですよ」

 なるほどね。じゃあ、狩る相手が選べないっていうところが気に食わないって感じかな?
 Sランクのハンターはデスグローブなんかも一人で狩れるっていう人らしいからな。……俺も狩れるからSランクなのか。うむ、ポーターの下克上というやつかな。

「では本題に入りましょう。デスグローブの死骸は家ですか?」
「いえ、ここに」
「!? 無限収納というやつですか……恐れ入りました。あなたはSランクのハンターだったんですね」

 無限収納を召喚してデスグローブの死骸を取り出すとワダさんはかなり焦って死骸をまじまじと見てる。
 しばらく、観察していたワダさんは大きくため息をついて、書類に何か書き始めた。

「あの、いくらくらいになりますか?」
「……そうですね。まず、ですが」

 ワダさんは額の汗を拭って大きく息を吸った。息を吐き出すと同時に話しだした。

「これはデスグローブではありません……」
「え?」
「正確にいうとデスグローブですが亜種と言われるものです」

 亜種? それはどういったものなんだろう?

「いわば強い版です……」
「はぁ?」
「お分かりいただけないですよね。私も分かっていませんから……」

 ワダさんはなおも汗が出てくるみたいでハンカチで拭っている。それだけすごい物ってことか?

「タチカワさんはこの亜種と戦ったんですよね?」
「は、はい……」
「では、青い炎は吐いてきましたか?」
「いえ、そういえば吐いてこなかったです」
「でしょう。この亜種は青い炎を吐けなくなった代わりに筋力が上がっているものです」

 だから、炎を吐いてこなかったのか。それのおかげで戦いやすかったんだよな。
 でも、それが強い版なのか……いろいろと複雑だな。
 だって、炎が吐けたら負けていたかもしれないからな。
 ゴーレムに組ませても炎で溶かされてすぐにゴーレムは死ぬ。オウルで攻めても同じことだ。
 俺の盾だって炎にある程度強いかもしれないけど、ずっとやられたら壊れる。どう考えても勝てる見込みはなさそうだ。そういうことを考えても幸運のステータスは偉大だったのかもな。

「ということで……ざっと見積もると3億程になります」
「は?」
「だ、だから~……3億程になりますよ」

 ワダさんが小切手に額を書いて見せてきた。3億って書いてあるけど、夢かなこれ?

「は~。この支部では初めての億超えの報酬ですよ。タチカワさんのランクも上げないといけなくなりますが目立たないようにCランクにしておきます。これでも凄いことですがこれ以上下げてしまうと税金の問題で半分くらい持って行かないといけなくなってしまうので」
「税金ですか……Cランクだとどのくらい持っていかれるんですか?」
「5千万ですね。Cランク以下だと、2億はもらわないといけなくなるかもしれませんからここくらいが丁度いいと思います」

 凄い数字がワダさんの口から放たれる。
 どんどんこちらも金額に緊張してきた。

「カードをこちらに」
「あ、はい……」

 カードを手渡すとワダさんはカードに書き込んでいく。手書きなのかと思ったらカードが輝いていって帰ってきたカードを見ると名前の上のランクの文字がCランクに変わっていた。

「では改めまして、Sランク以上の実力を持つタチカワ様、今後ともハンター協会をよろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」

 小切手と共にお辞儀をしたワダさん。なんだか調子が狂いながらも受け取ってお辞儀をかえした。

「すぐに現金にいたしますか?」
「あ、出来れば」
「では1億程持ってまいりましょう」

 部屋から出ていったワダさんはすぐにアタッシュケースに入った1億円を持ってきてくれた。
 やっぱり、この建物造幣局じゃないか? そんなにすぐに用意できるものではないだろうに。

「お金は手に入ったことですし、クエストは?」
「えっと、家を確保したらになると思うので明日に……」
「そうですよね。ではまたのお越しをお待ちしております」

 ワダさんは深くお辞儀をした。
 ペコペコとお辞儀で答えて協会を後にする俺。なんだかお金の重みを感じて申し訳ないような気分になったよ。
 でもまあ、これで妹と住む家を買えるお金が手に入った。
 どうせなら、大家さんに話して、アパートを増築とかしてもらうか? 今まで安くしてもらったり、滞納させてもらったりしたしね。うん、話してみよう。

 アタッシュケースを抱え込みながら帰路に発つ。初めての高額報酬にオドオドしまくりだ。これじゃ大金持っていますって言っているようなもんだな。
 もっとお金を稼ぐ予定だから慣れて行かないとな。
 慣れようと思いながらも体が硬直する俺。小市民なので仕方ないよな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?

リオール
ファンタジー
俺は魔王を倒し世界を救った最強の勇者。 誰もが俺に憧れ崇拝し、金はもちろん女にも困らない。これぞ最高の余生! まだまだ30代、人生これから。謳歌しなくて何が人生か! ──なんて思っていたのも今は昔。 40代とスッカリ年食ってオッサンになった俺は、すっかり田舎の農民になっていた。 このまま平穏に田畑を耕して生きていこうと思っていたのに……そんな俺の目論見を崩すかのように、いきなりやって来た女の子。 その子が俺のことを「パパ」と呼んで!? ちょっと待ってくれ、俺はまだ父親になるつもりはない。 頼むから付きまとうな、パパと呼ぶな、俺の人生を邪魔するな! これは魔王を倒した後、悠々自適にお気楽ライフを送っている勇者の人生が一変するお話。 その子供は、はたして勇者にとって救世主となるのか? そして本当に勇者の子供なのだろうか?

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

自作ゲームの世界に転生したかと思ったけど、乙女ゲームを作った覚えはありません

月野槐樹
ファンタジー
家族と一緒に初めて王都にやってきたソーマは、王都の光景に既視感を覚えた。自分が作ったゲームの世界に似ていると感じて、異世界に転生した事に気がつく。 自作ゲームの中で作った猫執事キャラのプティと再会。 やっぱり自作ゲームの世界かと思ったけど、なぜか全く作った覚えがない乙女ゲームのような展開が発生。 何がどうなっているか分からないまま、ソーマは、結構マイペースに、今日も魔道具制作を楽しむのであった。 第1章完結しました。 第2章スタートしています。

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

貴方にとって、私は2番目だった。ただ、それだけの話。

天災
恋愛
 ただ、それだけの話。

処理中です...