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第一章

第5話 妹

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 病院についてユナの病室に急ぐ。いつも通り、綺麗なユナの寝顔がそこにあった。
 近づいて手を握り、マナの結晶を無限収納から30個取り出して一つをユナと一緒に握る。
 残りのマナの結晶はベッドの下に滑らせて魔法を使用した。

「マナよ。この者の体を正常に治せ」

 マナの結晶が輝いて病室を照らす。一瞬で目のまえが真っ白になった。
 しばらくすると握っていたマナの結晶がなくなり、代わりにユナの手が握り返してきた。

「ん……兄貴?」
「ユナ!」

 目が覚めたユナが声をあげる。
 嬉しすぎて涙目になるのを感じて頷くとユナは微笑んで目を瞑る。

「私眠ってたんだね……」
「ああ」
「ずっと兄貴からの声聞こえてたよ」
「ああ」

 目を瞑って言葉を紡ぐユナ。目を瞑っているのにあふれ出る涙が言葉を遮って最後には泣き声だけが聞こえてきた。

「ありがとう兄貴。兄貴が諦めないでくれたから私は生きていられる。本当にありがとう」
「ああ……」

 涙で相槌を打つことしかできない。選定者になってこんなに早くユナを取り戻せるとは思ってもみなかった。

「お父さんとお母さんは死んじゃったんだね……」
「ああ、アビス、次元の狭間から出てきた魔物に殺された」

 学校に行っていた俺とユナは助かったが不運にも両親は自宅近くに沸いた魔物に殺された。あの時は選定者も判明していなかった時期だったから自衛隊しか動けていなかった。警察も動いたが事態がどれだけ深刻か知らなかったようで拳銃の使用許可がないとかいうことで初動が遅れた。そのせいでコボルトやゴブリンと言った弱い魔物にやられる市民がうまれてしまった。俺達の両親もそれだ。
 その時に俺が目覚めていれば救えたのにな……。

「ユナさん。今日のご機嫌はどうですか~……。!? 先生! せんせ~」
「ははは、ユナが起きてるからびっくりしてる」
「私もびっくりしてるくらいだから、驚くよね」

 ユナと顔を見合って笑う。看護婦さんには悪いけど、本当に面白い顔をしていたよ。
 しばらくすると医者の先生がやってきたユナを調べていく。MRIとかCTスキャンとか色々やらされたよ。
 ここまで調べるのにも理由がある。【エラー】になった患者が治った例はユナだけらしい。
 今までAランクのヒーラーに回復してもらえれば、なんて思っていたけど、それでも治らなかったんだなっていうのが分かった。
 無駄にお金を使うことになっていたかもしれないな。唯一の家族のためならいくらでも使ったと思うけどね。

「では検査はこれで終わりです。明日には退院しても大丈夫ですよ。お兄さんも大変でしたね」
「先生ありがとうございます」

 検査が終わってひと段落、深くお辞儀して先生を見送って、ふとユナを見ると泣いていた。

「ご、ごめんね兄貴。お父さんとお母さんのことを思い出しちゃって……」
「いいんだ。今は泣いて……」

 ユナは両親が死んだ時に【エラー】となった。
 だから、ユナにとっては昨日の出来事……少し時間が必要だよな。
 しばらく、泣きじゃくるユナの手を握って頭を撫でて慰める。妹からすると急にやさしくなった兄と言った感じだろうけど、そんなことどうでもいい。こんなに悲しんでいる妹を慰められない兄ならやめてやるよ。

「兄貴……。家は?」
「あ、ああ……売ったよ」
「え……」
「両親の葬儀と入院費の為にな……」
「そ、そっか……」

 ポーターにもなれなかったときはバイトで何とかしようと思っていた。だけど、現実はそんなに甘くはない。バイトで補えるほど安くはないんだ。
 家を売っても葬儀で大体が飛んでしまった。俺が子供っていうのもあって足元を見られた可能性もあるけどな。
 
「兄貴本当にありがとうね……」
「ああ、いいんだよユナ。これから一緒に頑張っていこう。兄貴な、すっごい力を手に入れたんだ。兄貴に任せておけ」
「うん兄貴。頼りにしてるね」

 泣きすぎて腫れた顔で笑顔を作るユナ。
 体力は魔法で回復したけど、心の方が心配だ。素人の俺には励ましの言葉しかかけられない。
 
 お見舞いも程々に今日はやめておこうと思っていたクエストを受けにハンター協会に向かう。
 今住んでいるアパートはかなりのボロだ。大家さんにはかなり無理して住まわしてもらってる。そう思うと俺って恵まれていたのかもしれないな。
 幸運は選定者になる前から備わっていたのかも。巫女のアユナ様には感謝してもしたりなさそうだ。

「あれ? タチカワさん今日はクエストやらないんじゃ?」
「そのつもりだったんですが、お金が必要になってしまって」

 ワダさんが受付にいたので向かうと気づいてくれて声をかけてくれた。
 満面の笑顔で応対してくれる。

「そうだ。捜索隊に連絡したらデスグローブの血痕が発見されたらしいんですが、何か知っていますか?」
「え? ……」

 そうか、捜索するにあたって、そういう痕跡を調べるんだよな。
 デスグローブを倒しましたなんて言ったら大騒ぎになるだろうから言わないつもりだったがまずいな。
 とりあえず、ごまかしておくか。

「逃げている時に別の魔物の群れが横切りまして」
「ええ!? 群れ! それは大変だ。捜索隊に知らせないと」
「あっ! いやいや、その群れはすぐに離れていったんですよ。デスグローブを見て一瞬で」
「え? じゃあ血痕と関係ないじゃないですか……。タチカワさん? 何か隠してませんか?」

 ワダさんが眉間に皺を寄せて顔を近づけてくる。
 まずいまずいぞ~。

「……。タチカワさんのことです。悪いことじゃないと思いますので追及は致しません。これも選定者になったお祝いということで……」
「す、すみません」

 ワダさんは困った様子の俺を見て、おれてくれた。
 クエストの依頼書を取り出して話を変えてくれる。

「いいんですよ。それでいくらくらいのクエストをお探しですか?」
「そうですね。妹が明日退院するので二人で住めるくらいの部屋を借りるんですよ。それで」
「妹さんどこか悪かったんですか?」
「ああ、【エラー】でずっと寝てたんですよ。急に治って」
「は~、【エラー】で~……。ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 【エラー】が治ったぁぁ~~!」

 ワダさんは協会の外まで響くような声をあげる。周りのハンターや協会員の人達が驚いてるよ。
 流石に驚きすぎでしょ、と思ったけど、今まで治ったことがないから当然だった。
 これも隠しておくべきだったな。

「それで明日退院ですか!? 体は大丈夫なんですか?」
「あ、はい。大丈夫で……」
「そうなんですか!? ああ、そうか、そもそも選定者になる時のエラーと言われているんですから選定者の可能性があるんでしたね。それなら納得です」

 ああそうか。選定者の神の声がエラーを引き起こして脳死にしてしまうんだったな。
 そうか、妹も選定者なのか。決まったわけじゃないけど、そうか~、それは楽しみだな。

「それならデスグローブを仕留められればよかったですね」
「え? なんでです?」
「さっき言った血痕ですが高値で売れるんですよ。それがあれば家の一つや二つ現金払いで買えちゃいますよ」
「えぇぇぇ!」

 ワダさんの言葉に今度は俺が外まで響くほどの声をあげてしまった。
 俺の銃で作った傷から出た血。それだけで家が買えてしまう……Sランクの魔物の素材はかなり高額みたいだな。
 ということはだぞ……。無限収納に入っているデスグローブの死骸を卸したら……。

「えっと、ワダさん。少し相談したいことが……」
「はい?」

 ワダさんに顔を寄せて内緒話。すぐにでもお金が必要なのでデスグローブを卸す相談をする。
 ワダさんは顔を青ざめさせて奥の部屋へと案内してくれた。うん、致し方なし。
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