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第10話 

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「ベラトンはあくどい男です……」

 そういってトムさんは握りこぶしを作る。悔しさをにじませて話し続ける。

「やつは必ず儲かると私に店を買わせて商売をさせてきました。最初はやつの言う様に儲かっていたんですが……」

 宿屋へと歩きながらトムさんの話を聞く。夕日もだいぶ下って暗くなっているせいかトムさん達親子の雰囲気が暗くなっているように感じる。

「家内と一緒にきりもりして店を続けていると少しずつ異変が起こってきたんです」

「異変?」

 トムさんは頷いて口を開いた。

「肉や野菜を卸してくれた人たちが仕事を辞めてしまい。新しく卸してくれるようになった人も次々とやめてしまう状況になってきました」

 それって商人さんが仕事を辞めちゃうってこと? おかしいな、そんなことしたら町自体がおかしくなってしまうからできないと思うんだけど?

「それだけならまだ良かったのですがだんだん商品の価格が高くなっていってしまって元の値段で商売ができなくなって……無理していくうちにやつがまた近づいてきて」

 なるほど、借金をしてしまったってことか。

「金を借りてからもやつはことあるごとにやってきて私も騙されているとは思わず次々と金を借りてしまい……」

 ベラトンは最初から失敗させるつもりで店をやらせたのかもしれないな。トムさん達が思ったよりも繁盛してしまって卸業者を脅してやめさせたか、それとも卸業者自体がやつの所有物だったかだな。
 でも、そんな面倒なことをしてまでトムさんからお金を奪う目的がわからないな。

「師匠、眠い……」

「ん? ああ、ごめんごめん。トムさん、とりあえず宿屋に行きましょうか。続きは宿屋で」

「あ、はい。助けてもらってこんな気分の悪い話をしてしまって申し訳ない」

 ポピンちゃんが眠たそうに眼を擦って話す。
 この子は本当に十四歳なのかな? 外で話すような話でもないから丁度いいけれど。

 この後、宿屋に入ってポピンちゃんを寝かしつけて続きを聞いた。
 トムさんも怪しいと思ってやめた卸業者の人を見つけて話を聞いたらしい。
 その人は町を離れるということで話してくれたんだけど、ベラトンは貴族の生まれでその為、貴族からの圧力で仕事ができなくなったらしい。
 執拗にトムさんを狙ってきた理由もその時にわかった。やつの貴族の知り合いがトムさんの子供を狙っていた。奴隷にして明け渡す約束を取り付けていたとトムさんは眠る子供達を見て話した。
 可愛らしい寝顔の子供達、その横にポピンちゃんも眠っている。クレハさんと顔を見合って笑ってしまうよ。
 
「だから子供を奴隷にとか言っていたんですね」

「はい……。それと助けてもらっておいてこういうのもなんですが……。船をマジックバッグに入れることは可能なのですか? 私の記憶ではマジックバッグに入れられるのはあくまでも自分の持てるものだと思いますが」

「え? そうなんですか?」

「し、知らなかったんですか!?」

 ええ!? 自分の持てるものしかマジックバッグに入れられないの!? 初めて聞いたよ……ってそんなわけないじゃないか。僕は師匠に教えてもらってから色んなものをマジックバッグに入れたけど、全部入れられたぞ。
 ん? 待てよ……思ってみれば、マジックバッグに入れたのは師匠で僕はマジックバッグを持っていただけだ。そうなるとその範疇ではないのかな?
 ん~、よくわからない。だけど、普通のポーターは自分の持てるもの、もしくはステータスのSTRに見合った物しか入れられないのかもしれないな。
 
「ど、どうするんですか?」

「ん~。問題はないと思いますよ。ただ、僕が重いだけで」

「お、重いだけ? なんでですか?」

「ああ~、こっちの話です。それよりも早く寝ましょう。新しい仕事を探すんでしょ」

 トムさん達は僕らが逃げないためにグラーゼスで暮らすことになった。人質と言っても過言じゃないね。
 僕らが三週間で帰ってこなかったら自動的に奴隷落ちというわけだ。責任重大だな。
 暮らすのにはお金が必要、少しでもお金を稼いで僕らにも早く返したいと言ってくれている。僕的にはお金はそんなに必要ないんだよな~。多くあっても師匠に怒られるしね。

 クレハさんとは別の部屋を取って眠りにつく。ポピンちゃんが眠ってしまったから自動的にクレハさんと二人っきりで眠ることになってしまいそうだったから焦った。
 ベラトンにお金を渡していたらそうなっていたかもしれない……少し残念なようなそうじゃないような……。
 そんな邪な考えをよぎらせていると瞼が重くなっていき意識を手放した。

 朝、宿屋の食堂で朝食をトムさん達と食べた。子供達も元気で僕らを見送ってくれた。まだまだ無邪気で昨日あったことも忘れているようだ。子供はああじゃないとな。

 ベラトンに運べと言われた船の前につく。
 軍艦と言っても差し支えない大きさの船。家二軒分の重さかも知れないな。

「ポピン。僕の持っていた分を全部持ってくれる?」

「はい!」

 僕のマジックバッグに入っていたものを全部ポピンに渡す。彼女のマジックバッグは重さがなくなるから渡しても負担にならないから大丈夫。

「よし。じゃあ、入れようか。ん? 入れられない?」

 船に触れてマジックバッグに触れる。通常はそれだけでマジックバッグに入って行くものなんだけど、今回はそうはいかないみたいだ。

「中に人でもいるのかな?」

 船が盗まれないように人を入れておくのはよくあることだよね。仕方なく船に入ってみるか。

 甲板にあがって階段を下りる。樽やベッドがいくつかある部屋を更に下るとそこにはいくつもの檻と大砲が並んでいた。
 大砲は海賊や魔物用の武器だよね。上の階にもあったけど、結構重武装だ。
 
「奴隷用かな?」

「そうかもしれないわね。!? アズ! あそこを見て」

「え?」

 あたりを見回しているとクレハさんが声をあげて走っていく。その方向を見ると檻に入った子供が二人見えた。

「酷い……」

「獣人かな?」

 青い狼の耳が頭に見える。衰弱していて僕らを見てくる目に生気がない。
 ご飯を食べていない様子でたまらずポピンが柔らかいパンとスープを二人に差し出した。
 二人は元気なくスープとパンを手に取って食べていく。双子だと思われる狼の獣人、世話をしてもらっていなかったみたいでその場が汚れている。

「ベラトンはなんでこの子達を……」

「ただただ忘れていたか、生き物を入れられないことを知っていてわざと置いておいたか、かな……」

 疑問を呟くとクレハさんが答えた。
 人間ってこんなにも残酷になれるんだな。とりあえず、師匠に教わった魔法を使って綺麗にしておこう。

「【クリーン】」

「「!?」」

 生活魔法の一つ、クリーン。ただただ綺麗にするだけの魔法で水浴びとかをしない人にとってはなくてはならないものだね。狼の双子は綺麗になって青い毛並みが美しくなった。
 魔法を使うと二人がまんまるお目目で驚いてる。あれ? 僕何かやった?

「アズ君? 魔法を使えたの?」

「はい。一通りの魔法は……」

「ポーターなのに?」

「やっぱり師匠は凄い!」

 クレハさんは呆れた様子だけど、ポピンちゃんはキラキラした目で僕を見つめてきた。この後、ポピンちゃんに抱き着かれてしまいました。

 しかし、この子達をどうしよう。連れていったら泥棒とか言って罠にはめるんじゃないだろうか?
 トムさんの話を聞いていたので罠の確率は高いよな~。
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