上 下
109 / 113
第3章 ルインズ

第16話 やってきた女

しおりを挟む
「何の用ですか?」

 殺気を放ちながら近づいてくる女兵士。すべてに関係がありそうなやつがのこのこと一人でやってきた。
 
「ふふふ、ふふふふ。予定通りとはいかなかったけど、何とかなったようね」

 女は嬉しそうに笑い近づいてくる。
 みんなを船に乗せ終わるまでは相手してやるか。

「質問に答えてもらおうか。お前は何者だ」

 剣を引き抜いて女を止める。
 ルキア達も身構えてくれて圧を強める。
 女は足を止めて口を開いた。

「そうね。これから私のものになる国の王子様だものね。なのってもいいかしらね。私の名前はヘルナよ。雇われの冒険者。今はね」

 名乗り終わるとニヤリと笑って更に近づいてくる。
 
「それ以上近づくな」

 警告をしたが歩みを止めない。仕方なくトラに合図を送る。 

「キャン!」

 トラが雷撃を放つ。ヘルナに当たると大きく吹っ飛んでいった。戦闘能力は低いのかもしれないな。

「そこで寝てろ。みんないこう」

「痛いわね。これで終わると思ったのかしら?」

 みんなを船に乗せ終わったのを見て俺達も乗っていこうとしたら、背後から不意に女の声がしてきた。
 声の方を向くと女が船へと乗ろうとしていて、船へと渡る橋に手をかけていた。

「船でどこに逃げるのかしら。獣人を連れていたらどこに行ってもいじめられちゃうわよ」

「お前どうやって……」

 ヘルナは飄々と話してくる。奴の体には確かにトラの雷撃の跡がついてる。当たってはいるみたいだな、

「さてさて、どうしてやろうかしら。城には戻ってくれないのよね? それなら」

 ヘルナは俺の答えを聞かずに行動を開始した。

「きゃ!」

「アル!」

「お姫様と王子様! 仲良くおうちに帰らせるわよ~。力ずくでね!」

 一瞬で船に乗っていたアルを連れてきた。アルを俺へと突き飛ばしてきた。アルを受け止めるとまた背後から声が聞こえてくる。

「キャン!」

「ガウ!」

 ヘルナへサンとトラが炎と雷撃を放つ宙で二つの属性が衝突すると爆発が起こった。爆発の前に距離をとっていた俺達は無事だけど、ヘルナは無理だったはずだ。

「危ない危ない。雷は卑怯よね。早いんだもの」

 あの距離で今の攻撃を避ける。やっぱり思っていた通り、時間を止められることがわかった。
 俺はすかさず、精霊使いの服に着替える。

「あら? 服が……。それがあなたの力?」

「……。アテナ!」

 力を見られるのはあまりよくないがそんなことを言っている場合じゃない。
 アテナを召喚するとすぐに時間を遅くし始めた。

「時間を止める魔法を使えるのね~。凄いけれど、精霊でもなければ扱えない魔法よ。あとは魔道具ね」

「なるほど」

 これは逃げずにその魔道具を壊したほうがいいな。

「お父さん。逃げないの?」

「ああ、アテナがいれば何とかなりそうだからね」

 ルキアが心配そうに身を寄せてきた。答えると微笑んで両手を握ってガッツポーズをした。

「近づいてきてるわ。私の魔法にも干渉できるみたいね。私が調べてみようかしら」

「ルキアがやる~」

 アテナがヘルナを調べようとするとルキアが飛んでいった。ぴょんぴょん飛んでいくもんだから本当に飛んでいるように見える。
 ノームの着ぐるみを着ているから彼のようにふるまえるのかもしれない。そういえば、アテナの着ぐるみも手に入っているんだよな。今度確認するか。

 ルキアはヘルナの体を調べていく。スロウワールドで少しずつ動いているヘルナは何とか抵抗しようとしている。
 時折、ヘルナはチラチラとポケットに目をやる。ルキアも気づいたようで顔を少し焦らせながら動くヘルナよりも早くポケットへと手をやった。

「あった~」

 何かを見つけたルキアが元気に手をあげて戻ってくる。のろのろと動くヘルナが驚きの顔で止めようとしているが届くはずもない。

「お父さん! これこれ~」

 ルキアが握っている黒い宝石。あれが魔道具なのか?

「あら~。黒の魔石ね。時間の魔法と相性がいいわ。だけど、それなりの魔法使いじゃないと定着できないわ」

「ということは黒幕が別にいるってことか?」

「さあ? わからないわ。冒険者って言ってたから遺跡で手に入れたのかもしれないわ」

 アテナが色々と教えてくれた。冒険者だからそういったアイテムを遺跡で手に入れられる。ダンジョンみたいなものが存在しているのかな。
 一度は行ってみたいが危ないならやめておくかな。

「もう魔法はいいわね。それにしても凄いわね。マスターは」

「へ?」

「へ? じゃないわ。精霊使いは精霊とおしゃべりをしないのよ。なんでかっていうとマナを使うから。無駄なマナを使うと私達は帰らないと行けなくなっちゃう。精霊使いも困るし私達も困る。だからあんまりしゃべらないのよ。なのにマスターは……」

 へ~。そうだったのか。だからサゲスに召喚されたウンディーネは無口に契約を結んでいたのか。なるほどね。

「マナが使いたい放題。最高の職場ね」

 微笑んだアテナはそういって消えていった。光を屈折させて、また呼んでねと光を残していったよ。
 精霊たちは極大魔法を使いたくて呼んでほしいのかと思ったらおしゃべりもしたかったみたいだな。
 でも、アテナを呼んでいいのか? ノームと会う約束とかしていることが多かったように思えるけどな。
 まあ、呼んでほしいなら呼んであげるか。

「返せ! このクソガキ!」

 時間が戻ったことでヘルナが声をあげた。
 まったく、もう、お前の負けだぞ、諦めろって。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

処理中です...