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第3章 ルインズ

第4話 マイサ

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「二人ともご飯は美味しいか?」

「ガウ!」

「キャンキャン!」

 マイサさん達との食事がひと段落した。
 外の小屋に泊めてもらうことになったトラとサン。流石に宿屋の部屋じゃ小さくて無理と言われたので泊まるのは外の小屋になった。
 予め宿屋の人には美味しいものを用意してもらってたので心配はしていなかったけど、二人も俺達と食事したかっただろうから小屋でも食事中だ。
 今もルキアに撫でられて嬉しそうだし、二度目の食事をしてよかったな。

「タツミ兄さん」

「ん? どうしたアスベル?」

 微笑んでみんなを見ているとアスベルが宿屋の方を指さして声をかけてきた。
 指さすほうを見るとマイサさんがもじもじしながら近づいてくる。
 雪も強くなってきたのに少し薄手の寝巻に着替えてる。どうしたんだ?

「タツミさん……。少しお時間よろしいですか?」

「え? はい、構いませんが」 

 もじもじしながら視線を合わせずに話しかけてくるマイサさん。
 別にあとは寝るだけなので時間は有り余ってる。断る理由もないので一緒に宿屋に戻ってマイサさんの部屋へと入った。

「まだ思い出してくれないんですか?」

 一緒に入って俺を椅子に座らせると彼女はそういってきた。
 ジュダインさん達とは別の部屋を借りているようだ。まあ、一人だけ女性だからな。そのぐらいの配慮はしているか。
 
「すみません」

「そうですか……。では教えてあげます。私はオラストロの給付をしていた女です。あなたと一緒に料理をした奴隷です」

 答えを聞いてマイサさんはため息をついて、答えを教えてくれた。
 あ~そんなこともあったかな。あの時は服チートの事でいっぱいだったから覚える余裕がなかったんだな。
 マイサさんは奴隷だったのか。ということはオラストロの隊長を帰してしまったから解放されたのかな? 魔法による奴隷契約ではなかったってことかな。

「私は親に売られてオラストロの給付係をさせられていました。奴隷と言っても雇われのような契約でしたので大丈夫だったんです」

 いろいろと考え込んでいると察してくれたようで言葉を足してくれた。
 親が娘を給付として国に差し出したってことか。なんだか世知辛いな。
 
「国に帰ることも考えましたけど、帰ったら帰ったで碌なことにならないと思って皆さんについてきたんです。本当はあなたについていきたかったんですけど……」

 うつむき加減で話すマイサさん。あの時は色々と忙しかったからな。大工さんにいろいろと指示して台車を馬車にしたり、馬をつけたりな。

「助けてもらったのに何もできなくて。それで、今日……雪が強くなってきましたね」

「え? ああ、そうですね。ここら辺は雪が日常みたいですね」

 窓の外を見てマイサさんは呟いた。つられて窓の外を見る。
 
 建物を見るとよくわかる。屋根に雪が積もらないように傾斜のある屋根になってる。あれなら全部雪は落ちていくだろうな。

「……はい」

「明かりが?」

 マイサさんの言葉と共に部屋の明かりが消えた。
 スルスルと布のこすれる音が聞こえてきて。手が頬に添えられる。
 とても柔らかい手が頬に触れると手がほのかに熱をもっていく。

「恩を返していいですか?」

「……」

 月明りで照らされたマイサさん。ほんのりと頬を赤く染めて目を潤ませている。
 恩を返すというのはそういうことか。マイサさんは服を脱いでいて、手を震わせている。
 怯える彼女を縛っているのは俺への恩、知らずに助ける形になっていただけで助けたという実感はない。
 そんなもので自分を縛り、傷つける必要はない。
 まあ、単純に恩を受けられないのは俺に度胸がないだけだと思うが。

「マイサさん。俺は今の今まであなたを忘れていました。そんな男に体を委ねちゃダメだ」

 マイサさんは恩という鎖で動いているだけだ。その鎖は決して俺とつながっているわけじゃない。

「本当に好きな人と」

「私はタツミさんが好きです。優しく料理を教えてくれました。騎士達が私をいじめて来た時も何気なく話しかけてきてくれて……。そんな人初めてでした」

 言葉を遮ってマイサさんが目を擦って話してくれる。

「マイサさん」

「だから……抱いてください」

 マイサさんはそういって両手を開いた。抱きしめてほしい、恩を受け取ってほしい。そんな感情が伺える。だけど、手は震えている。
 
「マイサさん」

「お願いしますタツミさん。本当に私はあなたが好きなの」

 ポロポロと涙を流しながら話してる。見ていられない。
 俺は無言で彼女を抱きしめた。柔らかな体を包むと彼女も答えて包みかえす。

 抱きしめてそっとベッドに倒れると目を瞑るマイサさん。キスのタイミングか……。だが!

 俺は僧侶の服に着替えて彼女の耳元で回復魔法を唱えた。『ヒール』、

「タツミさん……ス~ス~」

「ふ~」

 彼女は日ごろの疲れと緊張で疲れていた。それを回復魔法で回復してあげたんだ。
 更に眠りの魔法を唱えてあげると一瞬で眠っていったよ。
 弱みに付け込んで連れ込むなんて俺にはできない。据え膳食わぬは男の恥とかいうが据え膳を断れることこそ男らしさというものだ。
 決して怖いとかそういうことじゃないぞ。

「タツミ兄さん? 大丈夫でした?」

 マイサさんに厚手の布団をかけて俺は部屋を後にした。アスベル達のいる小屋に戻ると察していたアスベルが頬を少し赤くして聞いてきた。
 アスベルはむっつりさんなのかな? マイサさんの様子がおかしいと思ったなら教えてくれ。俺は決してイケメンだったわけではないので、ああいう女性のたしなめ方は得意じゃないんだぞ。今は絶世のイケメンだけどな、って自分で言ってたら世話ないな。

「少し話したら眠ったよ」

「そ、そうですか……」

「いやいや、顔を赤くするな。そういうことはないから」

 眠ったというとアスベルは何を思ったから顔を赤くして両手で顔を覆ってしまった。違うと言っているのに『そういうことにしておいたほうがいいですよね』とか言って聞いてくれない。
 まったく、聡い子というのは厄介この上ないな。
 と思いつつ頭を撫でる。嬉しそうに俯いている姿をみてホッとする俺なのであった。

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