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第二章 海へ

第四十八話 出港

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「出港するぞ」

 ダイロさんは船の準備を急がせて宿屋部分の船を海に下ろした。お客さん達は全員退去してもらっていていつでも出港できるみたいだ。しかし、孤児院に何も言わずに出るのはよろしくないんだが。

「孤児院のルナさんには俺が言っておく、今は一大事、時間がないだろ」

 ジアスさんがルナさんに伝えてくれるようだ。他にもヴィナスさんの事とかを伝えておく、ワッツが帰ってきたら文句も言ってもらう、ちゃんと文句の言葉も伝えるとジアスさんは顔を引きつらせていた。お金になるインゴットも数個渡す。これは一大事の時に使ってもらう予定だ。この町には心配事が多すぎるんだよな。

「タツミ!いくぞ~」

「あ、ああ」

 俺達は夜の海へとアルフレドを追って出港する。何も言わずに町を出るのはこれで二回目だな。オッズ達は元気にしているだろうか。

「おめーら、久しぶりの海だからって気を抜くんじゃねえぞ。夜だって事を忘れんなよ」

「はは、お頭~、俺達にとっちゃ、陸よりも海の方が安全ですぜ」

「ガハハ、だから言ってんだろ。油断するなってよ」

 船が港を出て、灯台の火が見えなくなってきた。
 
 ダイロさんはみんなに油断するなと言っているがダイロさんも油断をにじませている。大丈夫だろうか?

「お頭~早速魔物がおいでだ~」

「迎撃態勢取れ~。夜だからって休めねえぞ~」

 船員たちは甲板で腰につけていた指揮棒のような物を取り出した。まさかして、

「火の魔法はやめておけよ~。風と氷で迎撃だ~」

「はは、素人じゃねえんですから皆分かってますよお頭~」

「ガハハ、そうだったな。夜の光は魔物を集めちまう、何て海の男なら乳飲み子でも知ってるわな~」

 船員とダイロさんのやり取りを聞きながら僕も精霊魔法使いの服にチェンジ。僕も油断せずに戦闘に備える。ルキア達も警戒して構える。

「ギョギョ」

「お頭、相手はシーマンだ」

「そうか。アイスシートを作動させる。船を傷つけさせるなよ~」

『おうっ』

 ダイロさんは舵の中央にある魔石を触ってみんなに指示を出していく。船の周りに冷気が張られて海が凍って氷の大地が船から5メートル程現れた。

「海の上での戦闘はこうやって戦うんだ。よーく覚えておけよタツミ」

「海を凍らして戦うんですか?」

「ああ、船底を傷つけられたらたまらねえからな。周りは5メートル、船底は3メートル程凍ってる。これを壊せる魔物はそうはいねえ」

 なるほどね。戦闘する足場を作ると共に防御を補っているわけね。確かに海の中で自由に動ける相手にそのまま船の上で戦闘するなんてナンセンスだよな。

「タツミは見てな。俺達は海じゃ最強だからよ」

「はは、じゃあお言葉に甘えて」

 宿屋になっていた船は船体に梯子がいくつもついていた。その謎が今判明したよ。どこからでも氷の大地から上がれるようになっているんだ。俺達の世界の海賊みたいに船をこすり付けて乗り込むとか言った事はないのかもしれないな。

「ウィンドカッター」

「アイスバレット」

「シーマンは相変わらずよええな~。もっと張り合いのある奴ら来ねえのか?」

 夜の戦闘だというのによくあんなに警戒に動けるな。松明の火をかざしているとはいえ暗くてよく見えない。俺は声だけで判断するしかないな。
 魔法の輝きが薄っすらと見える程度の明るさで船員たちの戦闘を見守る。船員たちは魔法を多用しているようで戦況は有利のようだ。

「シーマンは銛を武器にしてくるだけの猿だからな。俺の部下達には傷一つ付けられねえよ」

「凄い自信ですね」

「伊達に大海賊は名乗ってねえからな」

「大海賊?」

「あ、思わず言っちまった」

 大海賊ダイロジック。実はダイロさんに触って大海賊の服を手に入れてから気になってしまって調べたんだよな。
 この世界を股にかけた大海賊ダイロジックの冒険譚、弱気を助けて強くを挫く物語は老若男女問わず好まれた。大人気の物語でこの世界の全ての海を制覇したらしい。
 だけど、ある時から姿を消してしまって死亡説が流れていたんだってさ。何があったのか気になるけど、ここは知らなかったふりするか。

「あ~あの物語ですか、俺も見ましたよ。今頃ダイロジックは何処にいるんでしょうね~」

「・・・がはは、そうだな。いっちょ俺も混ざってくるか」

 誤魔化すように笑ったダイロさんは氷の大地へと飛び降りていった。

「キャン!」

「え?トラも行きたいのか?」

「キャンキャン」

 トラが急に騒がしく首を振って泣き出した。そう言えば、トラも進化しそうなんだっけか。ルキアが先に進化してしまったから焦っているのかな?

「それ程強くないらしいから大丈夫だろう。俺は一応甲板に居るから怪我したら戻ってきてくれよ」

「キャン!」

 トラは喜んで飛び出していった。ふと思ったがトラの場合降りたら登れないんじゃないか? 少し心配になったがトラの事だから何か考えているだろう。

「ルキアはいかなくていいのか?」

「お父さんとサンちゃんと一緒に船守る」

「はは、寂しいのか」

 ルキアはそう言って順番にサンと俺を抱きしめてきた。ずっと寝ていたからあんまり離れたくないのかもしれないな。

 しばらくして戦闘が終わるとみんなが甲板に上がってくる。トラは氷の大地を思いっきりけりこんで甲板まで戻ってきた。何も考えてなかったようだ。しかし、凄い跳躍力だな。高さ15メートルはあるのに一回の跳躍で越えるとはな。シカって跳躍力凄いんだな。

「キュルルル~」

「トラ! どうした?」

 甲板に着地したトラの様子が可笑しい。

「熱! これは進化放熱か!」

 ルキアの時よりもかなりの熱だ。動物だから俺達よりも高温なのかもしれん。

「タツミとりあえず船内に入れ。一嵐来る」

「嵐?」

「ああ、この嵐はシーサーペントの起こしている嵐だ。定期的に起きるものだから船乗りなら誰でもわかるもんだ」

 説明しながらトラを持ち上げるために手を貸してくれるダイロさん。宿屋の時に止めてくれた部屋にトラを運び入れる。

「夜はまだまだ長い、おめえらは寝てな。本当に危ないときは呼ぶからよ」

「ああ、すまない。お言葉に甘えるよ」

 ダイロさん達に甘えて俺達は部屋で休むことにした。初めての船旅と戦闘の夜は早めに終わるのだった。
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