上 下
68 / 113
第二章 海へ

第二十六話 飛んで火にいる夏の虫

しおりを挟む
「夜分遅くにご苦労様。見回りですか?」

 俺とサンとトラが門の前に来て、訪問者たちに声をかけた。話が通じるなら話し合いたかったんだけどね。

「無視かな?」

 全体的に黒い服を着た人達は無言で無視を決め込んできた。剣は元々抜いているので話はできないと思ってはいたけどな。

「キャン!」

 男たちがピクッと剣を持つ手に力を入れるのを見てトラが電撃を直に放った。電気よりも早く動ける人なんていないわけだから男たちは仲良く電気を浴びて痙攣している。

「そんなに強い奴らじゃないのか?それともトラが強いのかな?」

 夜に来るほどの者でこっちの言葉も聞かないくらいだから強いと思っていたんだけどな。

「おうおう、うちの兵隊が一瞬でやられてんじゃねえか」

 倒れた男たちの背後からそんな声が聞こえてきて少しすると暗闇から門の松明の光の中に冒険者のような恰好をした二人の男を引き連れた、カシムが現れた。

「そのトライホーンはライトニングホーンになる前見てえだな。うちの兵隊じゃ分が悪い」

「話はできないのか?できれば争いたくないんだけどね」

「そうだね~。それなら白金貨5枚を寄越せば考えてあげてもいいよ」

 白金貨か。今の所持金では無理だけどアイテムバッグの物を売れば可能な額だ。しかし、なめられるのはよろしくないな。

「交渉決裂か」

 そう言うとカシムは後ろで控えていた冒険者風の男、二人に目で合図した。二人は頷いて抜剣して、俺達に迫ってきた。

「キャン!」

「おっと」

 トラはカシムが合図した時から溜めていた電撃を大剣を持っていた方に放った。男は大剣を自分のすぐ前の地面に突き刺して電撃を浴びせさせて地面に流した。

「相手を見て臨機応変に行動できるという事はそれなりの相手か?」

「こいつらと一緒にすんな。俺達はミスリルランクの冒険者だぞ」

「そんな凄い人がこんな孤児院の恐喝に手を貸すのか?」

「金払いがいいからな」

「綺麗ごとじゃあ生きていけないんだよ」

 男たちは倒れている人達よりも強い。会話はちゃんとしてくれるようだ。どうやら、カシムにつく理由は金のようだな。

「綺麗ごとだけでもある程度は生きていけるぞ」

「はん、それは才能のあるやつだけさ」

「才能のない者は俺達みたいに汚い仕事をして生きているんだよ」

 ちゃんと会話してくれるのは、自分たちが後ろめたいことをしていると自覚しているって事だろうな。まあ、俺はこいつらを改心させようとは思わないけど、一つ喝を与えるか。

「話はここまでだ」

「望むところ」

 俺は話を切り上げて剣を構える。剣士の服のまま、戦闘に入る。
 俺が長髪の片手剣の男とサンとトラが短髪の大剣の男と対峙する。電撃に対応するには大剣の男の方がいいと踏んだのだろう。

「はっ!」

 片手剣の男とは十分な間合いを保っていたつもりだが、いつの間にか近づいてきて突きが顔を掠めた。こっちが気づかない間に間合いを詰める、何だか剣道でそんな技あったよな、すり足だっけ?って経験者でもないのでそんな呑気に考えている場合じゃないな。

「戦闘経験は浅いようだな」

「ああ、人と対峙するのは今日が初めてだな」

 市場で背後から襲われたのが初めてだよな。元の世界では帰宅部だし、剣の経験だってない。俺が生きていられたのは服チートのおかげだ。ありがとうお洋服様、俺は服に足を向けて寝られないよ、って服は俺から離れると霧散するけどな。

「そんな奴が良く今のを躱したな」

「大きなお世話だよ。お前はやり慣れてるな」

 長髪の男と俺は間合いが同じ位の得物を使っている。間合いの届かない位置での戦い方を心得ている様子のこの男は結構人を殺しているんだろうな。俺は正直怖かったけど、服チートさんのおかげで結構、冷静にこいつの動きが見えてくる。

「ぐはっ」

「ガウガウ~」

「キャン!」

 男と対峙していると隣の大剣の男が倒れた。それとほぼ同時にサンとトラが雄たけびを上げる。どうやら、あっちはすぐに終わったようだ。まあ、二対一じゃあね。

「ちぃ、バジルのやつ、へましやがって」

「おっと、よそ見とは余裕だな」

「なっ!」

 長髪の男が大剣の男に悪態をついてよそ見をしていた。俺はこの男と同じように足音を立てずに近づいて、剣の腹側で横なぎに叩きつける。男は大剣の男よりもヒョロヒョロだったので盛大にぶっ飛んでいた。孤児院の周りを覆っている壁に衝突すると壁が壊れちゃったよ。あとで直しておこう。

「さてさて、カシムさん。年貢の納め時だよ」

「ぐっ、調子に乗りやがって」

 たじろぐカシムにゆっくりと近づいていく。流石にミスリルランクの冒険者を軽くあしらわれるとは思っていなかったみたいだ。

「きょ、今日はこのくらいで勘弁してやる」

「グルルル!」

「ひぃ」

 踵を返して帰ろうとしたカシムに回り込んでサンが通せんぼ。逃がすわけがない。

「命を狙ってきた相手をむざむざ帰すわけないだろ」

「離せ~」

 ムンズとカシムの首元を掴む。カシムは戦闘のできるタイプではないようだな。

しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ
ファンタジー
【小説家になろう】さまにて作品を先行投稿しています。 俺、畑中幸司。 過疎化が進む雪国の田舎町の雑貨屋をしてる。 来客が少ないこの店なんだが、その屋根裏では人間じゃない人達でいつも賑わってる。 賑わってるって言うか……祖母ちゃんの頼みで引き継いだ、握り飯の差し入れの仕事が半端ない。 食費もかかるんだが、そんなある日、エルフの女の子が手伝いを申し出て……。 まぁ退屈しない日常、おくってるよ。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...