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第二章 海へ

第二十六話 飛んで火にいる夏の虫

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「夜分遅くにご苦労様。見回りですか?」

 俺とサンとトラが門の前に来て、訪問者たちに声をかけた。話が通じるなら話し合いたかったんだけどね。

「無視かな?」

 全体的に黒い服を着た人達は無言で無視を決め込んできた。剣は元々抜いているので話はできないと思ってはいたけどな。

「キャン!」

 男たちがピクッと剣を持つ手に力を入れるのを見てトラが電撃を直に放った。電気よりも早く動ける人なんていないわけだから男たちは仲良く電気を浴びて痙攣している。

「そんなに強い奴らじゃないのか?それともトラが強いのかな?」

 夜に来るほどの者でこっちの言葉も聞かないくらいだから強いと思っていたんだけどな。

「おうおう、うちの兵隊が一瞬でやられてんじゃねえか」

 倒れた男たちの背後からそんな声が聞こえてきて少しすると暗闇から門の松明の光の中に冒険者のような恰好をした二人の男を引き連れた、カシムが現れた。

「そのトライホーンはライトニングホーンになる前見てえだな。うちの兵隊じゃ分が悪い」

「話はできないのか?できれば争いたくないんだけどね」

「そうだね~。それなら白金貨5枚を寄越せば考えてあげてもいいよ」

 白金貨か。今の所持金では無理だけどアイテムバッグの物を売れば可能な額だ。しかし、なめられるのはよろしくないな。

「交渉決裂か」

 そう言うとカシムは後ろで控えていた冒険者風の男、二人に目で合図した。二人は頷いて抜剣して、俺達に迫ってきた。

「キャン!」

「おっと」

 トラはカシムが合図した時から溜めていた電撃を大剣を持っていた方に放った。男は大剣を自分のすぐ前の地面に突き刺して電撃を浴びせさせて地面に流した。

「相手を見て臨機応変に行動できるという事はそれなりの相手か?」

「こいつらと一緒にすんな。俺達はミスリルランクの冒険者だぞ」

「そんな凄い人がこんな孤児院の恐喝に手を貸すのか?」

「金払いがいいからな」

「綺麗ごとじゃあ生きていけないんだよ」

 男たちは倒れている人達よりも強い。会話はちゃんとしてくれるようだ。どうやら、カシムにつく理由は金のようだな。

「綺麗ごとだけでもある程度は生きていけるぞ」

「はん、それは才能のあるやつだけさ」

「才能のない者は俺達みたいに汚い仕事をして生きているんだよ」

 ちゃんと会話してくれるのは、自分たちが後ろめたいことをしていると自覚しているって事だろうな。まあ、俺はこいつらを改心させようとは思わないけど、一つ喝を与えるか。

「話はここまでだ」

「望むところ」

 俺は話を切り上げて剣を構える。剣士の服のまま、戦闘に入る。
 俺が長髪の片手剣の男とサンとトラが短髪の大剣の男と対峙する。電撃に対応するには大剣の男の方がいいと踏んだのだろう。

「はっ!」

 片手剣の男とは十分な間合いを保っていたつもりだが、いつの間にか近づいてきて突きが顔を掠めた。こっちが気づかない間に間合いを詰める、何だか剣道でそんな技あったよな、すり足だっけ?って経験者でもないのでそんな呑気に考えている場合じゃないな。

「戦闘経験は浅いようだな」

「ああ、人と対峙するのは今日が初めてだな」

 市場で背後から襲われたのが初めてだよな。元の世界では帰宅部だし、剣の経験だってない。俺が生きていられたのは服チートのおかげだ。ありがとうお洋服様、俺は服に足を向けて寝られないよ、って服は俺から離れると霧散するけどな。

「そんな奴が良く今のを躱したな」

「大きなお世話だよ。お前はやり慣れてるな」

 長髪の男と俺は間合いが同じ位の得物を使っている。間合いの届かない位置での戦い方を心得ている様子のこの男は結構人を殺しているんだろうな。俺は正直怖かったけど、服チートさんのおかげで結構、冷静にこいつの動きが見えてくる。

「ぐはっ」

「ガウガウ~」

「キャン!」

 男と対峙していると隣の大剣の男が倒れた。それとほぼ同時にサンとトラが雄たけびを上げる。どうやら、あっちはすぐに終わったようだ。まあ、二対一じゃあね。

「ちぃ、バジルのやつ、へましやがって」

「おっと、よそ見とは余裕だな」

「なっ!」

 長髪の男が大剣の男に悪態をついてよそ見をしていた。俺はこの男と同じように足音を立てずに近づいて、剣の腹側で横なぎに叩きつける。男は大剣の男よりもヒョロヒョロだったので盛大にぶっ飛んでいた。孤児院の周りを覆っている壁に衝突すると壁が壊れちゃったよ。あとで直しておこう。

「さてさて、カシムさん。年貢の納め時だよ」

「ぐっ、調子に乗りやがって」

 たじろぐカシムにゆっくりと近づいていく。流石にミスリルランクの冒険者を軽くあしらわれるとは思っていなかったみたいだ。

「きょ、今日はこのくらいで勘弁してやる」

「グルルル!」

「ひぃ」

 踵を返して帰ろうとしたカシムに回り込んでサンが通せんぼ。逃がすわけがない。

「命を狙ってきた相手をむざむざ帰すわけないだろ」

「離せ~」

 ムンズとカシムの首元を掴む。カシムは戦闘のできるタイプではないようだな。

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