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第一章 異世界

第三十四話 夜食でチート

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「今日はここで野営だな」

 御者の青年がそう言ってテントを張っていく。俺達も手伝う、流石に無賃で何もしないのも悪いからな。

「ありがとう、助かるよ」

 青年はちゃんと礼を言える子で何とも好印象だ。

「そう言えば自己紹介してなかったな。俺はタツミだ」

「ああ、そういえば。私はアルフレドです」

「俺はオッズだ」

 それぞれ、自己紹介をしてテントを張っていく。このテントと俺達の持ってきたテントを張って夫婦と子供たちは馬車に二組、テントに一組と青年だな。残りは俺達のメンバーだが、俺達の持っていたテントに泊まって全員では寝れないので夜の見張りと交代で寝る。
    サンとトラがいるので結構安心して寝れるのだが、それでも油断しない方がいい。夜の草原は結構危険だからな。

「それじゃ、お先に休ませてもらいます」

「ああ、任せとけ」

 青年にも寝てもらっているので俺とルキア達で見張りだ。

「夜食も用意してあるから食べながら見張るぞ」

「あい!」

 運び屋ポーターの服に着替えてアイテムを取り出す。
 アイテムバッグに入れたアイテムは服を取り換えても消えないことは確認済みだ。流石になくなるのは痛いからな。

「サンとトラも今日はご苦労様」

「キャン」「ガウガウ」

 二人にもウルフの肉を渡す。硬すぎて食えないと言っていたが二人はちゃんと噛み切れている。流石だな。

「ルキアも食べる」

「おっと、じゃあ俺も食べてみるか」

 硬くて食べられないと言っていたけど、食べてみないとわからないもんな。俺は剣を取り出してウルフの肉を突き刺した。服はもちろん、料理人の服に着替えているので洞窟でポロロちゃんが手に入れた剣の中の一本だ。
 肉を刺した剣を焚火にかける。筋の多い肉は見る見る焼けていく、筋から油のような物が垂れて焚火が油を燃やして音を立てる。

「良い匂い」

 クンクンと匂いを嗅いだルキアが呟いた。確かにいい匂いがしている。塩を振りかけただけなのだがな、流石料理チートだ。

「良し、できた」

 いい焼き加減で俺は肉を焚火から遠ざける。半分に切って木の皿にのせて、片方をルキアに渡す。

「おいし~」

「硬いとか言ってたけど普通に旨いな」

 ちょっと筋肉質だが旨いぞ。しいて言えば豚バラをもうちょっと硬くした感じだ。焼いたウルフの肉もサンとトラに食べさせると嬉しそうに食べきってしまった。また解体しないとな。
 そうしているとあっという間に交代の時間になってオッズとアイサが起きてきた。二人にもウルフの肉を焼いてあげると起きたばかりなのに一つの肉の塊をぺろりと食べきった。アイサはお腹を気にしていたが痩せているから大丈夫だぞ。
 交代してテントに潜り込むとサンとトラも入ってきそうになったが流石に入りきらない。テントを出てすぐにサンとトラが寝込んでしまったのでテント内から見ると毛皮の壁が出来上がった。二人の毛皮はとても暖かいのでちょっとした暖房のようにテントを温める。

「じゃあ、お休み」
 
「おやすみなさ~い」

「ガウ~」

「キャン」

 それ程疲れていないと思っていたが目を瞑るとすぐに意識を手放して、夢の世界に入っていった。
    夢の世界では親父に誕生日プレゼントとか言ってあの靴を買ってもらった日の事が流れていく、親父はあの事故の事で自分を責めていないだろうか。
    俺の事なんか気にしないで長生きしてほしい。まあ、あの親父なら気にしていないと思うけどな。
    なんせ親父の親父、俺のおじいさんが死んだときもやっとくたばったかとか言っていたからな。豪気な親父だよ。
 夢の中でも親父はいつもの親父らしく振舞っていて何だか涙が出てくる。夢の中でも顔が見れてよかったよ。母さんの顔もな。






「タツミさん、起きてください」

「ん?もう朝か?」

「そうですよ。みんな待ってますから」

 テントの外からオッズが俺を起こしてきた。ルキアと一緒になって目をこすりながら起き上がる。ルキアと見合ってあくびを一緒にして、テントから出ようとしたら毛皮の壁に阻まれてすってんころりと後ろに転んでしまった。

「ルキアもやる~」

「いやいや、わざとじゃないから」

 俺が転ぶとルキアも真似してサンの壁に突っ込んでいって跳ね返されて転んでいる。子供ってすぐに大人の真似するからな。迂闊な事できないよな。

「サン、トラも起きろ。出れないだろ」

「ガウ~~」「キャワワワ・・」

 サンとトラはあくびをして立ち上がると毛皮の壁が開かれた。あの毛皮もこもこで結構触り心地よかったな。見た目はゴワゴワしているのに、今度モフモフさせてもらうか。
 私欲を心で呟きながら馬車の方へと歩いて行くとみんな木の皿を持って構えていた。どうしたんだ?

「タツミさんの料理が食べたいんだってさ」

「昨日の夜の事がバレてるみたい」

 ありゃ、夜食で食べたウルフの肉を食べたいのか。ただ焼いただけなんだが。

「アルフレド、時間は大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。予約で動いているわけじゃないんで」

 馬車の運送の仕事は街について人が集まると移動を開始するもので大まかな時間は指定してあるがとてもルーズなもののようだ。ならばみんなにもウルフの肉を振舞うか。

「良し、みんな銅貨一枚でどうだ?」

「え~、お金を取るんですか?」

「鞍を買った金を稼ぐんだよ」

 俺の提案に夫婦達は文句を言ってきた。慈善事業ではないんだよ。それにリア充を甘やかしてはいけないと俺の心が叫んでいるんだよ、許せ。

「銅貨一枚じゃ安いからいいですけど」

「子供達はタダでいいぞ」

『わ~い』

 三組の夫婦はぶつくさと銅貨を二枚ずつ渡してきて、子供達は両手を上げて喜んでいる。

 俺は料理人の服に着替えて、フライパンを火にかけて肉を焼いていく。今回は塊肉をそのまま強火で焼いて焼き目をつけていく。

「そんな塊じゃ中まで火が通らないんじゃ?」

「まあ、見てなって」

 昨日手に入れたばかりの肉でしかできない最高の食い方だ。

「焼いた塊肉をうすーくスライス。ピンク色と焼き目のコントラストに塩のホワイトが際立つ!」

 イノシシのカルパッチョと同じように調理して、あとから塩を振りかける。振りすぎると塩が完全に勝ってしまうので少々といった感じだ。大きな平皿にふぐ刺しのようにひいていって中央に香草と山菜と水洗いしたキノコをスライスしておくと大人も子供も目を輝かせている。それを皿、三枚分作り終わると食べ放題のスタートだ。

「あ~美味しい」

「美味しい美味しい」

「朝からこんなに食べたら太っちゃうよ~」

「美味しいね~」

「ね~」

 各々ほっぺを抑えながら感想を述べていた。平民は塩しか調味料にありつかないらしいから、俺の料理は最高に旨いらしい。心なしか塩以外の味もするような気がするからな。化学調味料を知ってしまったらこの世界の人達はドラッグ決めた人みたいに虜になってしまうだろうな。
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