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第一章 異世界

第九話 ルキア

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「タツミさん、起きてください」

「ん、交代の時間か?」

「そうじゃないんですけど、変な声が聞こえるんです」

 オッズがゆすって俺を起こしてきた。どうやら、変な声が聞こえるようだ。
 自分達の声じゃないのかと言いそうになったがそこは空気を読んだ。
 こんな夜中に変な声が聞こえてきたらそりゃ警戒するよな。とりあえず、外へでて声の確認だ。

「ほら、なんか泣いているような声です」

「ああ、なんか聞こえるな」

 外に出ると薄らと誰かが泣く声が聞こえてくる。しばらく、耳を傾けていると数人の声が聞こえてきた。

「コイツヨワイ、イラナイ」

「ヨワイメス、ニモツ、ステル」

 そんな声が聞こえるもんだから俺たちは首を傾げた。あまりにも不気味なので俺たちは調べに向かうことにした。まだ泣き声も聞こえてきているし、話の内容から誰かが捨てられている感じだしな。

「ウウッ」

 茂みから声の方向を覗くとそこには猫耳としっぽの付いた子供がうずくまっていた。布を羽織っただけの服装でなんとも原人のような印象をうける。

「あれは猫の獣人か?」

「いえ、あれはキャットマンという魔物の一種ですよ。成長するとEランクの魔物になります」

「へ~」

 猫獣人だと思ったら違うようだ。オッズが親切丁寧に説明してくれた。Eランクがどの程度かわからないけど、弱い部類だろうな。

「ニンゲン、ウマソウ」

「オレ、オンナ、タベル」

「おいおい!」

 複数人の会話が聞こえてきていたわけだからまだ近くにいると思ったら3人のキャットマンに囲まれていた。

「森の中は戦いにくい、後方に下がりながら広いところを探すぞ」

「はい」

 オッズを先頭に後方に下がっていく、その間も睨みあいが続き数回キャットマンの爪が俺やオッズの肩を掠めるが傷を負うほどではなかった。
 対してそれに反撃したオッズの一撃がキャットマンの一人の腕を切り落とした。Eランクは弱いというのがわかる。

「このままでも大丈夫そうだな」

「ええ、そうですね」

「二人とも油断しすぎ。敵の援軍が来てるよ」

 俺とオッズが油断して敵から目を離しているとアイサが指さした。その方向からキャットマンが3匹現れた。まだ一人も倒していないのに倍になられると流石にきついな。

「簡単な魔法を使うから二人は牽制していて」

 アイサが時間を稼ぐように言ってきたので俺たちは剣で威嚇していく。

「・・・・火よ。静かな火よ。我が敵の目を奪い、混乱の火を灯せ![ファイアミスト]」

 少しして、アイサが詠唱をして魔法を放った。魔法名だけ言えばいいのに何と恥ずかしいとか思ったけど、緊迫している中での詠唱ってかっこいいな。
 アイサの魔法で火の粉がキャットマン達を覆った。名前の通り霧のように見えなくなっている。
 俺達にはそれほど影響はない。逆に敵の位置が把握しやすい。火の粉が固まっている所に敵がいるのだからそりゃ攻撃も当たる。どんなに暗くても行けそうだな。

「よし、これで最後だ」

 6匹のキャットマンを倒して、俺たちは一息ついた。

「幼体のキャットマンだったんだな」

 まだ、泣いているキャットマンに近づく、ガチガチと歯を鳴らしておびえている。
 さっきまで襲ってきていた成体と違って可愛らしい姿だ。成体のキャットマンは目を血走らせて、如何にも人を襲いそうな容姿をしていた。それに対してこの幼体は獣人としてしか見えない。俺の元の世界の常識では立派な獣人だしな。

「大丈夫か?」

「あっ、タツミさん」

「え?」

 ガブッ、そんな効果音がでそうなほど大きく口を開けた幼体キャットマンが俺の伸ばした手にかみついた。うん、痛くない。風の谷で育ったようなことを言っている場合ではないか。

「タツミさん、痛くないんですか?」

「ああ、全然痛くないな・・・」

「我慢してる・・」

 ふむ、流石にばれたか。しかし、思いっきり噛んでいるようだが俺のステータスに対してこの子のステータスではダメージを負わせられないようだ。ステータスは有能っと、メモメモ。

「じゃあ、幼いうちに始末しましょう」

「へっ?」

 オッズが幼体キャットマンに剣を振りかざす。キャットマンはかみつきながらも泣き顔で目をつぶった。

「ちょっとまった。こんな子を殺すのか?」

「えっ?だって魔物ですよ。大きくなったら絶対に人を襲うし、さっきの成体を見たでしょ?」

「しかしな~」

 オッズから庇うようにキャットマンを抱きかかえる。ついでにキャットマンの耳をモフモフ、いやいや、触りたかったわけじゃない。これは不可抗力だ。
 大きくなったら人を襲うと分かっていてもこんな可愛い子に手をかけるなんて俺にはできない。

「人の前に出てきた魔物は悪い魔物ですよ。だから」

「ふむ、一理あるな」

「じゃあ」

「だがオッズ君、君は間違っているよ」

「えっ?」

 オッズ君の言いたいことはわかる。しかし、今回はそれに当てはまらない。何故かというと俺達がやってきたわけで人の前に出てきたわけではない。それに、

「可愛いは正義だ」

「はっ?」

 強面な顔で何を言っているんだといった視線を感じるがそんなこと関係ねえ。こちとら帰宅部でアニメやゲーム三昧な生活をしていたんだ。可愛い以上の正義など存在してたまるかよ。

「という事でこの子は殺しません」

「・・・」

「まあまあ、オッズ、従魔って言うのもいるから。それにあのキャットマン、噛むのやめているよ」

 俺の言葉に呆れているオッズにアイサが助け舟を出してくれた。可愛いものに弱い女の子を味方につければ男なんぞ物の数ではないは!

「は~、わかったよ。確かに従魔って言うのはありだよな。だけど、寝込みを襲われちゃ堪ったもんじゃねえ。ちゃんと躾してくださいよ」

「おうおう、わかったわかった」

 オッズはぶつくさとぶうたれて小屋へと歩いて行った。

「大丈夫か?」

 キャットマンにそういうとキャットマンはウルウルした目で見つめるだけで何も言わなかった。成体が言葉を発していたように思えたけど、この子は言葉を話せなさそうだな。よし、一から勉強させよう。

「そうだ。名前を決めようかな」

 俺が独り言を言うものだから、キャットマンは首を傾げた、その姿が可愛らしいったらない。人で言うところの2歳から3歳程度の体躯で首を傾げられたら大人はメロメロだろ。

「名前か~、まさか、DTが子供の名前を考えることになろうとは」

 誰も聞いていないのだからカミングアウトしてもよかろう。俺は人にDTかと聞かれたら違いますという小心者さ。笑ってどうぞ。しかし、マジで悩む。

「猫耳赤毛・・・ルキア、ルキアなんてどうだ?」

 キャットマンは名を聞くと首を傾げた。

「決定だ!お前の名前はルキアだ!」

 そう叫ぶとルキアの体が輝きだして光が収束してルキアの中に入っていった。なんだこれ?大丈夫なのか?

「大丈夫か?」

 大丈夫かと聞くとルキアは頷いている。ぐぐもった声で頷きに合わせて発声している。先ほどまでの反応よりも明確で何だか言葉が通じたようなそんな感じだ。

「言葉がわからなかったのか?」

 さらに聞くとルキアは頷いた。言葉の意味が分からなかったから首を傾げるのみだったようだ。

「あの光で従魔契約が完了したのかな?従魔って誰でも得られるって事?わからん」

 まだまだ、分らないことだらけだが、キャットマンのルキアが従魔になったようだ。従魔使いってこんなに簡単になれるものなのか?

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