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第二章 フェイク

第43話 ドワーフとオーク

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「者ども! うろたえるでない! 敵はオークだ。人間どもの前に軽くひねってしまえ!」

 僕が橋を壊して静まり返った戦場にドワーフの偉い人の声があがる。ドワーフ達は気を取り直してブーバ君へと攻撃を繰り出し始めた。

「ジーニ様。我は大丈夫。早くジェネラルを」

「アイ!」

 ブーバ君は軽くドワーフ達を躱して僕のすぐ後ろにやってくる。橋の向こう側に飛べばドワーフ達からの攻撃は受けなくて済むから危なくなったらすぐに逃げれる。ブーバ君の心配はしなくて大丈夫そうだ。壊した橋を掴んだまま割れ目を飛び越える。オーク達は恐れおののいて後退していく。

「人間の赤子か。それに……我が息子」

「バブ!?」

 片目に怪我をしてるオークがオーク達をかき分けて現れる。ブーバ君を見て息子って言ってるよ。
 このオークが現れると逃げてたオーク達も立ち止まってる。この人がもしやジェネラル?

「息子と共に来たということはお前がジーニアスという人間か?」

「アイ!」

 腰をかがめて声をかけてくるオークさん。やっぱりジェネラルさんみたいだな。ブーバ君の受けた命令を知ってるみたいだ。

「なぜドワーフへの攻撃を邪魔した? 人族をおそおうとしていた。それを防ぐことになったのだぞ」

「バブバブ」

「……なにを言っているのかわからんな。しかし、まさか赤子とは。だが、フェイクならあり得るか。我も幼き頃に声をかけられたものだからな」

 僕の返事を聞いて冷や汗を流すジェネラルさん。赤ん坊言葉を解読出来るのはお父さんたちだけだからな。

「ジーニ様!」

「バブ! バブバブ!」

 シャルが片腕がない状態でやってきた。少しするとソルも飛んでくる。

「リュウ様がついてきていたようでフェイクを抑えてくれています」

「話がしたかったようでフェイクも納得したようでした」

 僕が首を傾げているとシャルとソルが説明してくれる。リュウさんが来てくれてたのか。気づかなかったな。彼女もフェイクと話がしたかったのかもしれないな。昔からの知り合いだし。

「ヴァンパイアか」

「オークジェネラル。進軍をやめろ。そして、ジーニ様の従魔になるのだ」

 シャルとソルとポーズをとって声をあげる。僕らと会った時もやっていたけど、決めているポーズだったんだな。体を絡ませてなんか卑猥だ。

「なるほどな。息子の案か。やはり優しい。まだまだキングの器ではないか……。 はっ!」

「!? な、何を!」

 残念そうに俯いて呟くジェネラル。声と共に大きな斧をシャルとソルに向ける。

「我らは魔物! 人間にこびへつらうなどもってのほか。強くなるのに死を恐れていて何がオークか!」

 ジェネラルはそういって天へと咆哮をあげる。体から湯気を出して目を赤く輝かせる。彼の咆哮に答えるように他のオーク達も声をあげて体から湯気を放つ。

「仲間の命をかけてでも強さを求めよ。我はお前にそう教えたぞ。違うか! 息子よ!」

「……」

 ドワーフと今も戦っているブーバ君に向かって声をあげるジェネラル。確かに聞こえている彼の声だけど、ブーバ君はこっちを見もしない。

「ブーバはジーニ様に負けてやむなく従魔になったからな」

「そういうことか。確かにこの橋を壊せるほどのものならば不可能ではないな。だが我は折れんぞ! 従わしたければ力を示せ!」

 シャルがブーバ君を擁護するとジェネラルが声をあげて襲い掛かってくる。僕はすぐに掲げていた壊した橋を振り回した。オーク達は見事にドワーフの大陸にかっとんでいく。シャルとソルは宙に浮いて回避してる。僕がやることを察知したんだな。
 壊した橋を川に捨てるのももったいないので立てておくかな。

「ブーバを援護に行ってきます」

「ドワーフは傷つけないようにいたします」

「アイ!」

 シャルとソルがお辞儀をしてブーバ君の元へと飛んでいく。僕はジェネラルの元へ。

「強く、そして素早い。息子が勝てないのだ、我が勝てるわけもないか」

「バブ?」

 ジェネラルの前に着くと彼がしりもちをついて呟いた。

「先ほどの息子のてまえ。かっこ悪い姿を見せられなかった、お詫びする。ジーニ様」

 首を垂れて話すジェネラル。彼は負けを認めてくれてたのか。

「魔物は大地から生まれる。息子は森で泣いて生まれてきた。魔物の常識からは逸脱していた」

「バブ?」

 ジェネラルが昔話を話しだす。懐かしい様子で遠い目をしてる。

「魔物は生まれた時から魔物。本能で人や自分よりも弱いものを狩り強くなる。赤子だからと言って泣くなどありえなかった。我々の世界での泣くというのはただただ敵を呼ぶ行為でしかないからな」

 なるほど、そういわれればそうか。音をたてるだけで抵抗できないもんな。

「大事に育ててきた我の宝物。我はジェネラルまでしか来れなかった。しかし、息子ならば……ジーニ様、どうか我が一族を」

「困りますよ、そんな簡単に首を垂れちゃ」

「!? フェイク! な、何を!?」

 ジェネラルと話していたらフェイクが現れて黒い液体を異次元から垂れ流してきた。ジェネラルが黒い液体をかけられると真っ黒な鎧姿に変わっていく。

「新たなグリードの誕生ですよジーニ様。ジェネラルはどれほど稼いでくれますかね~」

「ブ~……」

 フェイクはただただ微笑んで呟いた。

「悪趣味じゃな。フェイク」

「ふふ、ドラゴンにはわからないでしょうね。ではグリードとお楽しみください」

 リュウさんが僕の隣に着地して声をあげる。フェイクはそういって霧散して消えていく。

「ジーニ、すまなかった。説得に失敗してしもうた」

「バブバブ」

「ふふ、許してくれるか。ではオーク達を遠ざけよう。ジェネラルを助けてやってくれ」

 申し訳なさそうに話すリュウさんに両手をあげて答えると嬉しそうに微笑んでくれた。彼女はすぐにオーク達を遠ざけてくれる。凄い速さで運んでるな。本気の僕くらいはあるかも知れない。

「グルルルル。ウオォォォォぉぉぉ!」

「バブ!?」

 しばらく静かに立っていた漆黒の鎧のジェネラル。咆哮を辺りにまき散らすと僕へと睨みを利かせてきた。

「ガルルル」

「バブ!」

 四つん這いで構えるジェネラル。くしくも僕と同じ構え。自然と頭と頭がぶつかり合って鋭く重い音を奏でた。戦闘のゴングが鳴らされる。
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