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第二章 フェイク

第35話 宿屋の龍

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「ほ~、小さな町だが、城壁はなかなか見事なものだな」

 ジーニアスベルに戻ってきてリュウさんが感嘆の声をあげる。正面の城壁は見事に出来上がってるからね。自慢の城壁になってる。あとは裏手の洞窟方向をしっかりするだけだ。

「ん? こんな夜中に? 旅人か?」

 城壁を見上げているとローズさんが警備していたみたいで声をかけてきた。僕を抱いているのを見て警戒してしまう彼女にリュウさんが微笑む。

「なかなか強い兵士だな。人の域での話だが」

「その子を離せ」

「心配するな。儂はこの子に案内されてきた」

「なに?」

 リュウさんの呟きに剣を抜くローズさんだったけど、すぐに剣を納めることになる。

「ローズ、こちらはドラゴンのリュウさんだ」

「ど、ドラゴン!? それは本当かシャル?」

 シャルがやっと追いついてきて声をあげた。
 リュウさんは僕を抱いたまま走ってきたんだけど、早すぎてみんなを置いてきちゃったんだよな。
 ソルもやっと追いついて息を切らせてる。ゴーレム君は体格のせいでかなり遅れてるみたいだな。

「ふむ、ヴァンパイアとも仲良くなれている人里があるということで来てやったのだ。仲良くすることだ」

「……信じられない。人にしか見えないわ」

 リュウさんの言葉にローズさんが声をもらす。するとラミルダさんとミルファさんもやってきて首を傾げた。

「どうしたんだ団長?」

「そちらのお方は?」

 二人にもシャルがリュウさんを紹介する。二人も信じられない様子でいるものだからリュウさんは大きなため息をついた。

「まったく、近頃の人間と来たら……。では見せてやる。ほれ、ジーニアスを抱いておれ」

「あっ、はい」

 僕をローズさんに手渡すと少し距離を置いてリュウさんが天を仰ぐ。そして、息を整えていると一瞬で姿が龍になった。みるみる大きくなると思っていたら一瞬だった。

「は、ははは。本当に龍だ」

「信じられない……。って!? 結界石の効果は?」

 ラミルダさんが驚いて声をもらしているとローズさんが結界石に気が付く。そういえばそうだよね。結界石は魔物を遠ざけるはず。入れるはずがないんだよな。

「結界石には気づいておったぞ。あれは魔物に効く石じゃ。龍は神の一種。魔物の枠ではない」

 リュウさんが説明してくれる。なるほど、龍は神様なのか~。ええ!? ってことは不死者であるフェイクも?
 驚愕に顔を歪めているとリュウさんが人間の姿に戻って僕を抱きなおす。

「安心せい。不死者は魔物じゃよ。この強度の結界ならフェイクははいってこれんじゃろう」

「バブ!」

 微笑んで不安を払しょくしてくれた。よかったよかった。これで枕を高くして寝られるよ。

「さて、ではジーニアスの親に顔を見せておきたいんじゃが。夜も深いからな。宿をもらってよいか?」

「で、では私が案内します。ラミルダとミルファはジーニちゃんを家に」

「「あっ、はい」」

 リュウさんの声にローズさんが答えてラミルダさんに僕は手渡されて抱かれた。逞しいラミルダさん、筋肉が痛いな~。

「また明日じゃなジーニアス」

「アイ!」

 別れの挨拶をしてローズさんと共に宿に向かう。宿屋はまだないので普通に一軒家で休むことになるんだよな。

「ん~、ジーニちゃんは柔らかいな~」

「ラミルダ、私も抱かせて」

「もう少ししたらな~」

「ん~!」

 ラミルダさんが僕の柔肌に頬を赤く染めているとミルファさんが声をあげた。それでも離したくないラミルダさんに彼女は頬を膨らませて怒り出す。
 この後ミルファさんにも抱かれて家に着くとお母さんに怒られるのでした。そういえば、内緒で外に出ていたんでした。

「今日は離さないからねジーニ」

「だ、ダブ……」

「ははは、ジーニアスもエリアスには勝てないな」

 お母さんに抱きしめられながらベッドに入る。強く抱きしめてくるお母さん。心配させちゃったけど、試練をやるには仕方ないんだよな~。いちいち転移させられて達成したら余計に心配させちゃうしね。
 お母さんとお父さんに挟まれて眠ることになった。僕は静かに目を瞑る。

 リュウさんと出会って次の日。宿屋がないことを知ったリュウさんが提案してきた。

「儂が宿屋をやるぞ」

 僕の家にやってきてお父さんたちに自己紹介をすると声をあげた。
 僕らはポカンとしてしまう。

「ここへ来て思ったんじゃがな。儂は人が好きなようだ。特にジーニアスのような変わり種がな」

「人が好き?」

「うむ。この街では色々な種族がいるじゃろ? 宿屋をやれば外からの人間を見ることが出来るじゃろ? 好きなことに気づいた儂にピッタリな仕事というわけじゃよ」

 ポカンとする僕らにリュウさんは楽しそうに語る。やってくれるなら僕ら的にはありがたいかな。

「それはありがたいですが。いいんですか?」

「何を気にしてるのじゃ?」

「あっ、いや。人に使われることは嫌じゃないのかと思いまして」

 お父さんが疑問を口にするとリュウさんは口角をあげた。

「長く生きているとな、求められることが嬉しくなってしまうものだ。龍の知り合いの多くは眠りについてしまっているしな」

 微笑んだと思っていたらすぐに悲しそうな笑みになっていくリュウさん。お父さんとお母さんは顔を見合って彼女の肩に手をおいた。

「じゃあ宿屋をお願いします」

「毎日遊びに行きますね」

 お父さんとお母さんがそういって微笑むとリュウさんは二人の手を取って頷いた。

「では早速宿屋の建物を作ろう」

「え? 自分で作るんですか?」

「ふむ、少し東方の家のようになってしまうが構わないだろ?」

「そ、それは構いませんが……」

 リュウさんは建物を建てることも出来るみたいだ。お父さんが心配して聞いてるけど、心配はいらないみたい。
 長年生きてると何でもできるようになるのかな。
 ジーニアスベルにもやっと宿屋が出来上がるみたい。
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