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第二章 フェイク
第30話 安堵
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「ジーク! 殺す殺す!」
「グリード。あなたはお預けですよ。ジーク様はとりあえず保留です」
片膝をついていたグリードが呟きながら近づいてくる。すぐにフェイクが止めると静かになった。
鼻息荒くて兜を被って顔が見えないけど、お父さんを睨みつけてるのが分かる。
「く、くっくっく。はははは~。あ~……」
おかしな笑い方をして落ち着くと僕を見据えるフェイク。鼻水と涙を拭わずに見つめてくるものだから寒気がする。
「欲しい。あなたから得られる経験値、いや、あなた自身でもいい……。どうでしょうジーク様? 私の提案を受けていただけませんか?」
「提案?」
フェイクが人差し指を立てて言ってくる。お父さんと共に首を傾げるとやつは話しだす。
「そのジーニアス様を私にください。そうすれば、すべてなかったことにいたします」
フェイクはそういって手を差し出してくる。お父さんは怪訝な表情になってその腕を切りつける。剣は見事に腕を切り落とす、だけどやつは顔色を一切変えない。
「痛いですね~痛いですよ~。でもね~、ジーニアス様は私のものですよ」
「渡すわけがないだろ!」
「くくく、気づいていないようですね。ジーク様はまだまだ訓練不足ですね」
「何を?」
フェイクの意味不明な言葉にお父さんが首を傾げる。僕も首を傾げていると変な感じがしてくる。僕は地面に四つん這いで二人を見ていた。それなのに地面が温かく感じる。地面だけじゃない、僕の周りが温かく感じるし、空気が人肌に触れているように感じる……。え!?
「ほ~ら、私の腕の中~」
「「!?」」
お父さんが切り落としたはずの腕が治っていて僕はやつの腕の中。お父さんと共に驚いているとフェイクが僕を見つめて満面の笑みを浮かべる。
「可愛らしい赤ん坊。それなのになぜグリードを倒せるほど強いのでしょうか。ジーク様ももちろん強い、ですがあなたは段違いだ。私の幻術にもジーク様と同じくらいの時間で看破している。興味深いですね~。興味深いですよ……」
顔は笑いながら目をギョロギョロと泳がせる。僕の全身を見回すように動かされる瞳が別の生き物のように僕を観察していく。
「ジーニアスを離せ!」
「おっと! ジーニアス様に当たってしまいますよ~」
「ぐ! 卑怯だぞ」
お父さんが剣を横なぎに切り払う。フェイクは僕を前面に出すとお父さんは剣を止めた。
「バブ!」
「!?」
いつまでも驚いている場合じゃない。僕はすかさずフェイクの体を蹴って離れる。思いっきりやったと思うんだけど、フェイクは一メートルくらいしか吹き飛んでない。グリードよりもかなり強いな。
「本当に素晴らしい。私の手を振りほどくとは。いいでしょう。今狩るには少々もったいない。またの機会にいたしましょう」
「!? ジーク! 殺す!」
フェイクの声にグリードが我慢できずにお父さんに切りかかる。
「バブ! タッタッタ~、ダッ!」
「!? ……」
すかさず僕は高速ハイハイでグリードに駆け寄る。そして、マジックバッグから槍を取り出して突き出したまま突進をかます。グリードの胴体を貫いて振り返るとグリードが倒れて天を仰いでいた。
「人間とは憎しみをためやすい。グリードは憤怒にかられて私に操られたのですよ。元の名をブレイン、あなたに腕を狩られたものです。覚えておいてあげてください。では、また……ジーニアス様」
「待て!」
倒れるグリード、黒い鎧が霧散して消える。
ブランド様の騎士のブレインを残してフェイクも霧散して消えていった。幻術で姿を消し去ったのかな。
グリードの白に戻った兜を脱がすと確かにブレインの顔があった。首から上はそのままだったけれど、体は人の体ではなかった。黒い液体で出来ている体。まるでタールとか石油みたいだ。
「ブレインは俺への憎しみで魔物になりかけていたんだな」
お父さんは感慨深く呟く。しばらく感傷に浸っていると街道から騎馬が走ってくるのが見えた。
「ジーク殿! ご無事か?」
なんと騎馬はブランド様だった。フルフェイスのマスクをしていて前面の仮面を外してカッコイイ。かなり焦っている様子で後方を見ると騎士が数名走ってきてる。
「フェイクという男が来なかったか?」
「なんでその名を? ……今さっき撃退しました」
「おお! 流石は英雄ジーク殿」
ブランド様の問いに答えると馬から降りてお父さんの両肩をもって嬉しそうに話しだす。
「で、ではブランド様の元にも?」
「ああ、そうなのだ。恥ずかしい話だが、私は何もできなかった。大臣たちは操られ、やすやすと城への侵入を許してしまったというわけだ」
ブランド様はこれまでのいきさつを説明してくれた。フェイクは城に行ってからこっちに来たみたいだ。それにしても人を魔物にしてしまったり、幻術で人を操ったり、フェイクはなにがしたいんだ?
「どうやら、ゴブリンの群れを作り出したのもあやつの策略だったようなのだ。それを邪魔したジーク殿を倒して、新たな魔物の群れを作り出そうとしたのではないだろうか?」
「人を倒せば魔物も経験値を得るということですか? にわかには信じられませんが?」
「ふむ、確かにな。それにしても見事な村になったな。すでに町と言っても過言ではない」
ブランド様は話しながらもジーニアスベルへと視線を送っていた。確かに村とは言いにくい街並み。城壁も立派なものが出来て、家の数も多くなってる。
「あ~、外での長話もなんですからうちに来ますか?」
「お~、それはいい。この機会にジーク殿と食事をいたそう。皆のものは町の外で待つように」
お父さんは気を利かせてブランド様を家に招待する。ブランド様は気さくに了承すると護衛の人達を外で待たせる。騎士の人達は平民に厳しい人達ばかりのはずだからな。あんまり村には入ってほしくない。
フェイクの話をしたり、村の今後の話をしたり。食事をしながら話すとすっかり暗くなってきてしまった。ブランド様には空いている家を使ってもらって一泊してもらうことになった。気さくで本当に王様なのかなって思ってしまった。
それにしてもフェイクか……もっと強くならないとな。それには【試練】をうまく使って行かないといけないかもな。
「グリード。あなたはお預けですよ。ジーク様はとりあえず保留です」
片膝をついていたグリードが呟きながら近づいてくる。すぐにフェイクが止めると静かになった。
鼻息荒くて兜を被って顔が見えないけど、お父さんを睨みつけてるのが分かる。
「く、くっくっく。はははは~。あ~……」
おかしな笑い方をして落ち着くと僕を見据えるフェイク。鼻水と涙を拭わずに見つめてくるものだから寒気がする。
「欲しい。あなたから得られる経験値、いや、あなた自身でもいい……。どうでしょうジーク様? 私の提案を受けていただけませんか?」
「提案?」
フェイクが人差し指を立てて言ってくる。お父さんと共に首を傾げるとやつは話しだす。
「そのジーニアス様を私にください。そうすれば、すべてなかったことにいたします」
フェイクはそういって手を差し出してくる。お父さんは怪訝な表情になってその腕を切りつける。剣は見事に腕を切り落とす、だけどやつは顔色を一切変えない。
「痛いですね~痛いですよ~。でもね~、ジーニアス様は私のものですよ」
「渡すわけがないだろ!」
「くくく、気づいていないようですね。ジーク様はまだまだ訓練不足ですね」
「何を?」
フェイクの意味不明な言葉にお父さんが首を傾げる。僕も首を傾げていると変な感じがしてくる。僕は地面に四つん這いで二人を見ていた。それなのに地面が温かく感じる。地面だけじゃない、僕の周りが温かく感じるし、空気が人肌に触れているように感じる……。え!?
「ほ~ら、私の腕の中~」
「「!?」」
お父さんが切り落としたはずの腕が治っていて僕はやつの腕の中。お父さんと共に驚いているとフェイクが僕を見つめて満面の笑みを浮かべる。
「可愛らしい赤ん坊。それなのになぜグリードを倒せるほど強いのでしょうか。ジーク様ももちろん強い、ですがあなたは段違いだ。私の幻術にもジーク様と同じくらいの時間で看破している。興味深いですね~。興味深いですよ……」
顔は笑いながら目をギョロギョロと泳がせる。僕の全身を見回すように動かされる瞳が別の生き物のように僕を観察していく。
「ジーニアスを離せ!」
「おっと! ジーニアス様に当たってしまいますよ~」
「ぐ! 卑怯だぞ」
お父さんが剣を横なぎに切り払う。フェイクは僕を前面に出すとお父さんは剣を止めた。
「バブ!」
「!?」
いつまでも驚いている場合じゃない。僕はすかさずフェイクの体を蹴って離れる。思いっきりやったと思うんだけど、フェイクは一メートルくらいしか吹き飛んでない。グリードよりもかなり強いな。
「本当に素晴らしい。私の手を振りほどくとは。いいでしょう。今狩るには少々もったいない。またの機会にいたしましょう」
「!? ジーク! 殺す!」
フェイクの声にグリードが我慢できずにお父さんに切りかかる。
「バブ! タッタッタ~、ダッ!」
「!? ……」
すかさず僕は高速ハイハイでグリードに駆け寄る。そして、マジックバッグから槍を取り出して突き出したまま突進をかます。グリードの胴体を貫いて振り返るとグリードが倒れて天を仰いでいた。
「人間とは憎しみをためやすい。グリードは憤怒にかられて私に操られたのですよ。元の名をブレイン、あなたに腕を狩られたものです。覚えておいてあげてください。では、また……ジーニアス様」
「待て!」
倒れるグリード、黒い鎧が霧散して消える。
ブランド様の騎士のブレインを残してフェイクも霧散して消えていった。幻術で姿を消し去ったのかな。
グリードの白に戻った兜を脱がすと確かにブレインの顔があった。首から上はそのままだったけれど、体は人の体ではなかった。黒い液体で出来ている体。まるでタールとか石油みたいだ。
「ブレインは俺への憎しみで魔物になりかけていたんだな」
お父さんは感慨深く呟く。しばらく感傷に浸っていると街道から騎馬が走ってくるのが見えた。
「ジーク殿! ご無事か?」
なんと騎馬はブランド様だった。フルフェイスのマスクをしていて前面の仮面を外してカッコイイ。かなり焦っている様子で後方を見ると騎士が数名走ってきてる。
「フェイクという男が来なかったか?」
「なんでその名を? ……今さっき撃退しました」
「おお! 流石は英雄ジーク殿」
ブランド様の問いに答えると馬から降りてお父さんの両肩をもって嬉しそうに話しだす。
「で、ではブランド様の元にも?」
「ああ、そうなのだ。恥ずかしい話だが、私は何もできなかった。大臣たちは操られ、やすやすと城への侵入を許してしまったというわけだ」
ブランド様はこれまでのいきさつを説明してくれた。フェイクは城に行ってからこっちに来たみたいだ。それにしても人を魔物にしてしまったり、幻術で人を操ったり、フェイクはなにがしたいんだ?
「どうやら、ゴブリンの群れを作り出したのもあやつの策略だったようなのだ。それを邪魔したジーク殿を倒して、新たな魔物の群れを作り出そうとしたのではないだろうか?」
「人を倒せば魔物も経験値を得るということですか? にわかには信じられませんが?」
「ふむ、確かにな。それにしても見事な村になったな。すでに町と言っても過言ではない」
ブランド様は話しながらもジーニアスベルへと視線を送っていた。確かに村とは言いにくい街並み。城壁も立派なものが出来て、家の数も多くなってる。
「あ~、外での長話もなんですからうちに来ますか?」
「お~、それはいい。この機会にジーク殿と食事をいたそう。皆のものは町の外で待つように」
お父さんは気を利かせてブランド様を家に招待する。ブランド様は気さくに了承すると護衛の人達を外で待たせる。騎士の人達は平民に厳しい人達ばかりのはずだからな。あんまり村には入ってほしくない。
フェイクの話をしたり、村の今後の話をしたり。食事をしながら話すとすっかり暗くなってきてしまった。ブランド様には空いている家を使ってもらって一泊してもらうことになった。気さくで本当に王様なのかなって思ってしまった。
それにしてもフェイクか……もっと強くならないとな。それには【試練】をうまく使って行かないといけないかもな。
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