上 下
25 / 49
第二章 フェイク

第25話 フェイクという男

しおりを挟む
 ジーニがダメな行商人を退治していたころ。
 王都ジュスペンスに動きがあった。

「ブランド様。ブレイン様がいなくなったことで第一騎士団の団長を決めなくてはいけないのでは?」

「ふむ」

 大臣の言葉に顎に手を当てて考え込むブランド。本来ならジークの名を出すのだが、一度断られている手前口に出せないでいる。

「失礼しますよ~」

「誰だ!?」

 円卓の間にて話をしていると見知らぬ仮面をつけたタキシードの男が入ってきた。大臣が声をあげるが次の瞬間、ブランド以外の人間が静かに席から立ち上がり円卓の間を出ていった。
 異様な雰囲気の中、タキシードの男は名乗る。

「私の名はフェイクですブランド様。あなた様に会えて嬉しいですよ嬉しいですね~」

「……フェイク」

 ブランドは名乗りを受けて席から立ち剣を抜く。それなりの実力を持つブランドは片手に剣、片手に風魔法を纏って身構える。

「逞しいですねブランド様。ですが安心してください。今は手を出しませんよ」

「……別に目的があるということか?」

「そうですよそうですね~」

 フェイクの言葉に安心することなく聞き返すブランド。フェイクの言い回しに苛立ちを覚えるブランドは剣に力を込めた。

「ハッ!」

 苛立ちに任せて剣を振り上げてそのまま振り下ろした。確かにとらえたフェイクの肩、しかし、手応えのない感触にブランドは冷や汗をかいてバックステップを踏む。

「何者だ!?」

「ふふふ、だから言ってるでしょう。私はフェイクなのですよ。うっそ~なのです。怖いですか? 怖いですね~」

 剣をフェイクの体から離しブランドが叫ぶとフェイクはふざけて答えた。確かに切ったはずの肩は無傷。 
 苦虫を嚙み潰したよう表情になるブランドだったが、すぐに苦しみに顔を歪める。

「ぐっ!?」

「ブランド……」

 さっきまでフェイク以外いなかった円卓の間に漆黒の鎧を着た男が現れた。
 隻腕で漆黒の鎧を着た男がブランドの首を掴み持ち上げる。鎧の中から聞こえる声に殺気を感じてブランドは顔を青ざめさせる。

「こらこら~。やめなさいグリード。今はまだ駄目ですよ~。この人達は餌なのですから~。まあ、この間は邪魔者のせいで餌にできなかったのですが」

「ゴホッゴホッ……。え、餌……」

 フェイクの声にグリードはブランドを放す。

「そうですよ。人間なんていくらでも増えます。魔物の餌にして魔王の餌になって欲しかったんですよ~。やっとゴブリンの中から有能なキングが生まれたって言うのに。ハァ~思わず大きなため息がでてしまいますよ~」

 フェイクのため息の言葉にブランドは顔を引きつらせる。

「1万以上もの魔物を倒しちゃうような人間はいないと思っていたんですけどね。神のいたずらですかね~。次の有能な魔物は見つけてはいるのですがね~。まだまだこの子、グリードの方が優秀なくらいです」

 隻腕のグリードの肩を叩いて話すフェイク。すでに次の魔物がいるということにブランドは更に顔を青ざめさせる。

「ということでね~。グリード君をくれたブランド様には感謝しかないので挨拶に伺わせてもらったというわけです」

「くれた? まさか!?」

「そのまさかですよ~。王に裏切られた騎士、ブレイン君で~す。再会できてうれしいですか? 嬉しいでしょ~」

 フェイクは嬉しそうにブランドに報告する。ブランドはグリードを見つめて歯ぎしりをならす。

「あらあら、ふふふ。卑しいですね~ブランド様~」

「卑しい?」

「そうですよブランド様。グリード君ともう一人なんていやらしい」

 ニヤッと笑うフェイクにブランドは怪訝な表情を向ける。なおも満面の笑みで答えるフェイク。

「では私は次の友人のところに向かいますのでこれで」

「友人だと?」

「ふふ、ブランド様も知っている人ですよ。私の遊びを邪魔した方です」

 フェイクの声を聞き、ブランドはジーク達を思い浮かべる。そして、行かせまいと魔法を放ち剣を振り上げた。
 
「!?」

 一瞬で自分の首が切り落とされ、持っていた剣が地面に突き刺さった。自分の死を認識して絶命していく。

「どうでしたか? 自分の死は怖いでしょう、怖いですね~」

「!? ハァハァ……」

「ふふ、あなたの部下たちはこの力で出て行ってもらったわけですけれど、あなたはすぐに出れたようですね。あなたも存外優秀ですね」

 フェイクの声に現実ではなかったことを理解する。確かにブランドは自分の体を離れたところから見ることになっていた。
 地面に突き刺さる切られた剣、そして、首を切られた自分。自分は死んでしまった。ブランドはその苦しみを一瞬で味わい精神を蝕まられた。
 フェイクは幻術を使い、他者を操ることが出来るのだろうことがわかった。

「ではでは、そろそろサービスはやめましょうか。行きますよグリード」
 
「ま、待て!」

 フェイクは引き止めるブランドを無視して王城を後にした。何事もなかったかのように大臣たちが戻ってきてブランドを救護していく。

「さあさあ、遊びの準備ですよ~。楽しいですね、楽しいですよ~」

 スキップを踏むフェイクは楽しそうにジュスペンスを進む。後ろを歩くグリードは少し小走り、傍から見られている姿は異様に映っただろう。

「魔物の王を育てていてよかったですね~。魔王を作るよりも楽しいことが見つかったのですから。ねえ、グリード」

「……殺す、ジーク」

「ふふふ。楽しそうですね~楽しいですね~。は~、会いに行くのはいいのですが、お土産も持っていきたいですね~。何がいいでしょうか。オーク? コボルト? どちらも倒したことがありますよね~。それならヴァンパイアなんてどうでしょうか~。同じ人間にしか見えないあれなら楽しいことになるかも……。終わっちゃったりして」

 不気味な笑みを浮かべてグリードに話しかけるフェイク。
 ジーニ達の元へ静かに近づいてくる。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

ラストダンジョンをクリアしたら異世界転移! バグもそのままのゲームの世界は僕に優しいようだ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はランカ。 女の子と言われてしまう程可愛い少年。 アルステードオンラインというVRゲームにはまってラストダンジョンをクリア。 仲間たちはみんな現実世界に帰るけれど、僕は嫌いな現実には帰りたくなかった。 そんな時、アルステードオンラインの神、アルステードが僕の前に現れた 願っても叶わない異世界転移をすることになるとは思わなかったな~

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...