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第一章 ジーニアスベル

第6話 王都へ

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「おかあさ~ん。足痛~い」

「ごめんねエリカ。もう少しだけ我慢して」

「え~……」

 街道を村のみんなと歩いていると5歳くらいの女の子がお母さんに愚痴をこぼしてる。
 村のみんなは25人程度、お年寄りもいるからただただ歩くだけで疲労してく。

「エリカちゃん。おんぶしてあげる」

「シリカお姉ちゃん? いいの?」

「ふふ、心配しないで私がおんぶしたいだけだから」

 泣きそうになっているエリカちゃんにシリカと呼ばれた12歳程の女の子が声をかける。エリカちゃんをおんぶし始めるシリカちゃん。彼女もまだまだ子供なのに偉いな~。

「ごめんなさいねシリカちゃん」

「ううん。大丈夫だよ。私がしてあげたいの」

 女の子のお母さんがお礼を言うとシリカちゃんは笑顔で答える。本当にいい子だな。
 僕なんかお母さんにおんぶされてるって言うのに……。情けないな~。
 
「ダブ!」

「え? どうしたのジーニ?」

「ダブダブ!」

「下りたいの? でもダメよ。地面がぬかるんでるわ。夜に雨が降ったのかもね」

 降りると抗議の声をあげるがお母さんに阻まれてしまったそれでも僕は降りる! 自分の足で歩くんだ、って今は膝か。

「ダブダブダブダブ!」

「ははは、ジーニアスは優しいな」

「も~、泥だらけよ……。洗濯大変なんだからね」

 何度も抗議してお母さんから降りる。少しぬかるんでいる地面はねっちょりひんやり。お父さんに頭を撫でられてお母さんにはため息をつかれてしまった。汚れても大丈夫、僕が洗濯する!
 丁度、試練も一番最初にやったものの距離があがったものにしたしね。

 ーーーーーーー

  試練

 一週間以内に五キロ進め

 報酬 経験値 素早さの秘薬

 ーーーーーーー

 この試練を受けてからお母さんにおんぶされて移動したわけなんだけど、それで新たに分かったことがある。進めっていう試練は自分で動かなくてもいいみたい。誰かに運ばれてもいいってこと。かなり反則なこともできるかも。
 例えば、馬に乗るとか、汽車なんてものはまだないと思うけど、空を飛べる生き物を捕まえて飛んでもらうとか……。これから距離が増えてきたら使いたいな~。

「シリカお姉ちゃん! 赤ん坊さんがハイハイしてる~」

「ふふ、そうね。凄いわ」

「凄い? ……私も歩こうかな?」

 僕がみんなと一緒の速度でハイハイするのを見てエリカちゃんが声をあげる。シリカちゃんの言葉に何か思うところがあるのか降りようとしてる。

「もう大丈夫なの?」

「うん。足痛くないから大丈夫。シリカお姉ちゃん私凄い?」

「ふふ、凄いわよ」

「えへへ」

 エリカちゃんはシリカちゃんに凄いと言われて喜んでいる。でも、よく見ると歩きすぎで靴擦れみたいになってる。
 この時代の靴は丈夫でもないし、歩きやすいように作られていないからな~。
 しょうがない、少し目立つけど。

「ダブ!」

「どうしたのジーニ? って杖?」

 僕を下ろしたお母さんはお父さんから荷物を半分受け取っていた。その中にお母さんの杖があったから杖を奪い取る。
 お母さんに隠れながら、

「ダブダブ……【バ~ブ】!」

 僕の体からヒールの光が広がっていく。周囲の村のみんなを包むと癒していく。

「シリカお姉ちゃん。足痛くな~い」

「……エリアスさん?」

 急な魔法に大人はみんなびっくりしてる。お母さんに視線が送られた。

「ふふ、みんな疲れているでしょ。少しでもと思って」

「ありがとうございます。エリアスさん」

 僕の顔を一回覗いてからみんなに微笑むお母さん。赤ん坊の僕が魔法を使えるのはやっぱりおかしいもんな。今はまだ隠しておいた方がいい。
 ここはお母さんに頑張ってもらおう。
 みんなにお礼を言われると最後にエリカちゃんがお母さんに近づいてきて、

「ありがとうございます。赤ん坊さん!」

「え!? 違うわよエリカちゃん。魔法は私がね」

「そうなの?」

 エリカちゃんは僕を見てお礼を言ってくれた。必死でお母さんが庇ってくれているけど、お礼を言われるのはいいものだな。

「みんな! 少し早く走ってくれ!」

 みんなを回復させて日が落ち始める中、後ろを歩いていたグッツさんの声が聞こえてくる。何だろうと思って見ると更に声が聞こえてくる。

「魔物よ! ジークさん!」

「分かった。二人はみんなを」

「任せて!」

「ダブ!」

 グッツさんの横を並走してる女性が声をあげる、奥さんのグレースさんかな? お父さんが僕らに声をあげて後ろに走っていく。剣と盾が夕日で光る。

「グッツ、魔物は?」

「斥候だろう。馬に乗ってやがる」

「チィ。ってことは本当に群れが来てるってことか」

 グッツさんとお父さんが後方へ睨みを効かせる。少しすると馬に乗ったゴブリンが見えてきた。

「ゴブリンソルジャー!? 1、2、3……10以上じゃねえか」

「一人5匹以上。行けるか?」

「はは、無理言ってくれるなよ。俺はお前と違って元農夫だぞ」

「大丈夫だ。稽古つけてやっただろ?」

「はぁ~。王都に着いたらグレースと店をもつって話してたのによ」

 村の戦力はお父さんとグッツさんだけ、今までも二人で村を守ってきた。それでもこんな大群がやってきたことはない。僕は我慢できずに魔法を行使する。

「ダブダブ……【ダブッバブ】」

『!?』

 祝福の魔法の光が二人に注がれる。ついでにみんなにもと思って使うとみんな驚いてる。そりゃそうだよな、こんな赤ん坊が魔法を使ってるんだからね。

「よっしゃ! 天才の我が子にいいとこ見せるぜ!」

「くそ! やってやら~!」

 夕日の落ちる戦場、馬のいななきとゴブリンの断末魔が日を落としていく。
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