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第一章 ジーニアスベル

第5話 天才と魔物の群れ

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「ははは、ジークは親子で魔物狩りか? 羨ましいな」

「す、すまない」

「いいんだよ。戦力になるならなんでもな」

 グッツさんにからかわれるお父さん。僕を抱き上げるお母さんと顔を見合ってニカっと笑いあう。
 お父さんはグッツさんと二人で狩りに行く予定だったみたい。前にゴブリンを狩った時みたいで僕はワクワクが止まらない。今回はどんな魔物が出てくるんだろう?

「司祭様が通った後だからそんなに魔物は多くないはず」

「司祭様は聖水をまいて歩くものね」

 グッツさんとお母さんが話す。なるほど、街道に魔物があんまりよってこないのはそういうことなのかな? 聖水は魔物を寄せ付けないようにする効果があるとかそういうことなんだろう。まだ、この世界の常識が分からないから話の内容でくみ取らないといけないな。

「聖水の効かない大型の魔物が出るかもしれないから警戒は必要だ。みんな、目視での確認はしっかりしてくれ」

「アイ!」

 お父さんが声をあげると僕は元気に返事をした。

「今回は不発かな」

「ん? そうでもないぞ。ほら」

「お? トロールか?」

 グッツさんの呟きにお父さんが指さして答える。
 指さす方向を見ると5メートル程のゴブリンのような異形の人が立ってる。目視で何とか見えるくらいの距離だ。

「一体か、どうする?」

「そうだな……ジーニアスやってみるか?」

「アウ?」

 グッツさんがお父さんに話すとお父さんは僕を見つめて声をあげた。思わず首を傾げるとグッツさんが驚いてる。

「おいおいおいおい。どういうことだ?」

「グッツ、まあ見てなって。どうだ? やれそうか?」

 グッツさんがお父さんに詰め寄る。それでも意見を変えないお父さんは僕へと視線を向ける。
 期待してくれるならやってみようかな。試したいこともあるしね。

「ジーニ。お母さんも手伝うわ」

「アウアウ」

「え? いいってこと? でも……」

「エリアス。我が子を信じてみよう」

「ん……」

 お母さんが手伝ってくれようとしたけど首を振って断る。お父さんに諭されて抱き合う二人。二人の期待に応えないと。

「ダブダブダブ~。【バイバ~バブ~ブ】」

「「「!?」」」

 詠唱はほとんど言葉になっていないけど、何とか魔法が形になる。お母さんから借りてる杖から炎の竜巻が現れてトロールと周辺を焼き尽くした。
 お父さんたちは驚きすぎて口が開きっぱなしになってる。魔法が英語になってるからどこまでできるか試してみたんだけど、やり過ぎたかな? ファイアストームじゃなくて、ファイアボルトとかにしておけばよかったかな?

「おい、おいおいおいおいおい! 聖属性だけじゃなくて火もかよ!?」

「は、ははは。ってそこじゃねえよ!? まだうちの子は0歳だぞ! すっげぇ天才だぞ!」

 グッツさんはブレッシングのことを知ってるみたいな口ぶり、声を荒らげるとお父さんは別の意味で声を荒らげる。すぐに僕へと駆け寄ってきて抱き上げると思いっきり上空へと放り投げる。

「はははは! 俺とエリアスの子はちょうてんさ~い!」

「ちょっとジーク! 危ないわ!」

「大丈夫だ。ちゃんと受け止める。そんなことよりもトロールの魔石を拾いに行くぞ」

 お父さんは盛大に喜んで落ちてきた僕を受け止めるとトロールの魔石へと走る。凄い速さで走るものだから僕は楽しくなっちゃった。

「おお! 人の頭よりも大きな魔石だ。これなら魔法使いの杖が買えるな」

「ふふ、そうね。ジーニの杖も買ってあげないとね」

 お父さんは魔石を鷲掴みにして話す。お母さんも喜んで肯定してる。

「おいおい。二人共、そんな悠長にしてていいのかよ。親ばかなジークに同意するわけじゃねえけど、ジーニは天才だぞ。神童と言ってもいい。それでもまだ子供だろ? 魔法の師匠を雇わないと危ないんじゃないか?」

 グッツさんが呆れながらも忠告してくれる。すっごい褒めてくれるものだから照れちゃうな~。

「一理ある……が! 杖が先だ」

「そうね! ジーニは優しいよいこだもの。魔法をいっぱい使えるようにしてからでも大丈夫!」

「……はぁ~。エリアスさんも親バカだったのな」

 お父さんとお母さんが微笑んで話すとグッツさんが呆れて声を漏らした。
 見た目は子供でも中身は大人の僕だから大丈夫。悪い人以外には使わない。

「しかし、凄い焼け野原……まだ熱気がのこってるぞ」

 周辺を見て呟くグッツさん。そんなのお構いなしに僕を抱き上げて村へと帰路にたつお父さんとお母さん。
 とりあえず魔物退治は無事に終わったみたい。トロール一体で終わりか~。もっと倒したかったな~。
 そんな感想を持ちながら家に帰って試練をこなす。力の秘薬はもういらないんじゃないかと思っていたんだけど、もらえるものはもらっておく。
 代わり映えのしない毎日を過ごして一週間が過ぎる。
 いつも通りの朝を迎えると村が少し騒がしくなった。

「魔物の群れがこっちに向かってるだって!?」

 司祭様が騎士団を連れて帰ってきたみたい。その人達が群れが出たと伝えてくれる。

「村の者達はすぐに退避の準備をしろ。では私達は司祭を連れて王都で防衛の準備に入る」

 騎士団は30名くらいですぐに村を出ていく。30名の騎士が尻尾を巻いて逃げてる……それだけすごい群れってことか。司祭様は最後にブレッシングをかけていってくれたけど、気やすめにしかならないな。

「村を捨てないといけないの?」

「……ああ、仕方ない。でも、丁度いい」

「え?」

「ジーニの杖を買うって言っただろ? 王都に行けばいいものが安く買えるかもしれない」

 お母さんが心配そうに告げるとお父さんが微笑んで答える。僕の杖よりも暮らしを安定させることに使ってほしいな。家もなくなっちゃうかもしれないじゃないか。

「……そ、そうね。ジーニの杖を買ってあげなくちゃ」

「ブ~!」

「ジーニどうしたの?」

「アイアイ! ブブブ~!」

 お母さんが俯いて呟く、そんな悲しい顔をされて杖を買ってもらっても嬉しくない! 僕は抗議の声をあげる。

「優しい子だなジーニアスは。だが却下だ」

 僕の言いたいことが分かるお父さん。嬉しそうに涙を拭うと僕を抱き上げる。

「これは先行投資だ! 天才のジーニアスへのな」

「バブ?」

「心配するな。王都に行ったら俺が思いっきり稼いでやる。冒険者に戻れば一瞬で稼げる」

 ニカッと笑って僕を心配させないように告げるお父さん。冒険者か……やっぱりそんな職業があるんだな。ゴブリンもグールも一瞬で倒しちゃうお父さん。心配するのもおこがましいかな。

「じゃ、すぐに準備するわね」

「ああ、新しい暮らしが王都で待ってる」

 こうして僕らは生まれ故郷を手放すことになった。魔物の群れ、どれほどの規模なんだろうか?
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