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第七章 異変

第三十一話 それぞれの戦い

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「ジーニか!」

 アドスバーンは上空よりエンドの方角をみて閃光を確認した。アドスバーンは今も海で戦闘をしている。疲弊するものの海での戦闘は快勝。

「あちらも派手にやっているようだな。しかしすぐに知らせが来ないのを鑑みると相当な手練れなのだろう」

 エグバンの船を一隻沈めて丘に戻り一息つくアドスバーン。ジーニを心配するものの大丈夫だろうと座り込んだ。

「敵はフェイクの可能性が高いようです」
「・・そうか、あの者の過去は知れない。しかし少しの間でも部下だったものがジーニの妨げになってしまった。あとでジーニには謝らなくてわな」

 ジェイラの言葉にアドスバーンは俯き考える。アドスバーンはフェイクの口車にのった被害者、フェイクの嘘は色々な国に影響を及ぼしている。

「ジーニの帰ってくる場所を守る事でジーニに報いようか」
「そうですね」
「ガイアは所定の位置についたか?」
「ええ」
「では合図を送れ」

 アドスバーンの言葉と共にジェイラが上空へと火の魔法を放った。そしてしばらくすると海が荒れてきた。

「大地を削って波をたてるとは流石ジェイラだ。」

 丘に[アースクエイク]を放ち崩すガイア。丘が落ち、波が発生しているのだ。そしてその波はエグバンの船団を飲み込んでいく。

「我らを見くびるからこういうことになるのだ。馬鹿な将軍を恨め」

 アドスバーンは沈みゆく船団を見てそう吐き捨てた。エグバンのグラーフは撤退してきたカイエンの情報を切って捨てた。そしてカイエンを解雇し自分の部下をあてがい出陣させた。それによって現状の海戦が行われている。

「それでジェイラ。カイエンの雇用は済んだか?」
「はい、双子に行わせました。ついでにファッグも脱獄させて確保いたしました。ファッグの要求は自分の部下達も含めた雇用だったようで全員確保済みです」
「それは僥倖。何とも人望のない国だ。こうも簡単に裏切ってくれるとは」

 アドスバーンはほくそ笑む。エグバンの社会は崩壊しかかっている。ルクスの父エクスは何をしているのかとアドスバーン達も思っているがエクスの情報だけはジェイラやアドスバーンですらわからないのだ。

 今表立って指揮をしているのはグラーフただ一人。愚行の更に愚行を犯しているグラーフ、アドスバーン達に勝てる見込みはない。

「エクスは城にいるのではないのか?」
「それもわかりません。しかし潰すには今かと」
「しかしな..」
「アドスバーン様!あちらには極大魔法があります。最大の攻撃はあっても最強の防御はないのです」

 ジェイラは焦っている。窮地立ったものは身に炎を宿し迫る、と言葉があるように窮地に立つ者は何をするかわからないのだ。特に今回の海戦を指揮しているような愚者ではその鼠になる可能性はでかい。

「わかっている....双子に連絡しろ。接岸できる浜辺を確保しろと」
「わかりました」

 エグバンとの戦争は激化の糸を手繰り寄せていく。







 ダインズの閃光を横目にサラとボルケーノは対峙していた。

「しつこいわね」
「グルルルル」

 歯をむき出しにして獣のような声を上げるボルケーノ。今や彼に理性はない。妻子ある身でなぜ彼はフェイクに手を貸すのかそれが不思議でならない。

「あなたの妻と子供は可哀そうね。あなたのような夫を持ってしまったんだから」

 サラは冷たい言葉を投げかける。しかしただ攻めたいわけではない。彼のほんの少し残った理性を呼び起こそうとしているのだ。

「心配しないで、あなたを倒した後にすぐ二人も送ってあげる」
「グルルルル....サせルカ、オレはまけなイ」

 歪な言葉をつなげるボルケーノ、やはりまだ理性を残していたのだ。サラは勝機を見出して笑みを浮かべた。

「妻や子供には優しくできるのね。でもダメよ、私にも守りたいものがあるんだから!」

 ボルケーノは四足の獣のように構えてサラに飛びついた。サラは剣でそれを受けてじりじりと後方へと下がる。

 ジーニ達の戦闘で大地は裂けていた。サラは崖に追い込まれ今にも落ちそうになっている。

 とその時、子供の声がどこからか聞こえてきた。

「私は幻聴を聞いているの?」
「バブ~」
「ダダダ?」

 その声の方を見るとそこには空をハイハイで飛んでいる子供が二人、サラは目を擦るがそれは幻覚ではなかった。

「だオす!」
「きゃ!」

 その隙を見逃さなかったボルケーノ、攻撃を受けたサラは崖から放り出された、レイはサラを受け止める。

「バブ!」
「あなた達はジーニの兄妹?」

 サラはライとレイを知らない。噂は知っていたが自分の目で確認は取れていなかった。サラは真ん丸になった目でライとレイを見て呆然としている。

「何て力強いマナかしら...」
(安心してください。私達が守ります)
「え!声が?」
(私の念話です。あなたの名前は?)
「私はサラよ...」
(そうなんですね。ではサラさんは安全な所で見ていてください)

 レイはサラを戦闘のない大地へと降ろす。サラは唖然として棒立ちである。

「バブ!」
(ライお兄ちゃんいくよ~)

 ライとレイは二人でボルケーノと対峙する。


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