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第五章 兄妹の絆

第七話 ジャンヌ達大暴れ

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「ダ~ダ~」

 ジャンヌとライとレイはニクライの屋敷に忍び込んだ。忍んだというよりは制圧に近いものだが。なんせ屋敷の外で警備していた兵士たちは静かに気絶していったのだから。

 ある者は腹部への頭突きで、またある者は兄妹達に伝わる技の腹による窒息で、またある者は男性特有の急所への頭突きである。言葉にならない悲鳴を上げて屠られて行く彼らは死ぬよりも苦しい痛みに襲われていた。

 そして屋敷に入ると目に入る人を次々に気絶させていき屋敷の中に敵がいなくなるとのんびりと屋敷を探索し始めた。

「ダ~ダ~ダ~」
「バブ!バブバブ!」

 ライが何かを見つけたみたい行ってみよう。

「アウ....」

 ライが何かを見つけた部屋に入るとニクライの陣で助ける約束したワグモの妻子と思われる人達が横たわっていた。

 妻の体には乱暴されたあとがありジャンヌは憤っていく。命には別条はないようだが子供の前で乱暴にしたと思うとこの屋敷ごと滅ぼしてしまおうかとジャンヌは怒りで身を焦がす。

「アイアイ!」
「ブ~」

 レイに諭されてジャンヌは何とか気を取り戻す。そしてこんなこともあろうかと学んでおいた[ヒール]を唱えていく。ジーニ程ではないが回復力の多い[ヒール]は十二分に妻子を癒していく。

「うっ、あなた達は...」

 妻だと思われる人の方が先に起き上がりジャンヌ達を見やる。そして涙を流した。

「こんな子供達まで誘拐するなんて何て可哀そうに...うっうっ」

 何か誤解しているようなのでジャンヌ達は妻子が入れられている鉄の檻を捻じ曲げる。

「ええ!!」
「アイ!」

 驚いている女性にジャンヌはワグモからもらっていた手紙を女性に渡す。驚き戸惑っている女性だったが手紙を読んでいくうちに安心したのかその場に座り込んで自分の子供の頭を撫で始めた。

「ありがとうございます。ワグモも助けていただいたそうで。私はワグモの妻のフラといいます」

 フラと名乗ったこの女性はワグモさんの妻で間違いないみたいだ。驚いたことにフラは人族である。子供は犬耳がある、なので獣人なのだろう。

「アイアイ!」

 フラについてくるようにとジェスチャーを送るとフラは子供を抱いて一番後ろのレイとその前を歩くライの間にはいった。

 屋敷中に倒れる男達を見て怪訝な顔を向けるフラ。今にも死んでしまいそうだったフラ達はこの人達に酷い事されていたことが伺えた。

「少し寄りたいところがるのだけど。私達ずっと何も食べてなくて...」

 すまなそうにフラがそう言うとレイが収納空間から軽いパンなんかを取り出してフラに渡す。

「ん、お母さん....」
「起きたのね。ワフラ、ご飯を頂いたわよ。食べましょう」

 ワフラちゃんはとても喜んでパンを食べていく。ジャンヌ達を見て少し驚いたみたいだけどそれよりも食べ物が食べられる幸せには勝てずにモグモグと口いっぱいに頬張っていく。

「ありがとうございます」

 涙ながらにフラはお礼を言う。ジャンヌは謙遜して首を横に振るが照れているのか頬が少し赤くなっている。ライとレイに少しからかわれている。その姿はとても口が緩む光景である。

 ジャンヌ達はひとまず二人を我獣の町に預けるとワグモの所へと戻っていく。フラも我獣出身の人だったのが功を奏した。

「こんなに早く!」

 犬の獣人ワグモは驚いた。ジャンヌ達と分かれてからまだ一日も経っていないのに、ジャンヌはワグモの妻子のフラとワフラを助けたというのだから驚くのも無理はない。

「アイアイ!」
「流石は天使様方....盗賊達はどうするのですか?中には生きていく為に仕方なくやっている人もいるので出来れば....」

 ワグモは自分の妻や子供を人質にされたにもかかわらず彼らの中には仕方なくやった人もいると諭す。ジャンヌはその姿がジーニと重なり盗賊の事も考えないといけないと思い始めた。

 こういう時は大将を取ってから話し合った方がいいと思うジャンヌはニクライを捉えに動き出すことにした。



「チィ、まさか迷いの森にあんな魔物がいたとは...」
「獣人のおかげで今までは会わなかったようですね」

 ニクライとカンザスが話し合っている。元執事のカンザス、彼は盗賊達を集める手助けをしていたので今までいなかったようだ。今はカンザスの部下に頼んで盗賊達を集めている。

 あんな混乱が起きたにもかかわらず彼らは我獣を攻める事をやめない。ニクライはアルサレムでもプライドを傷つけられ更に獣人にまで舐められては我慢できないのだ。仮にも元侯爵の貴族なのである。その貴族という立場を使って少しでも平民たちを助ける方向に使っていれば今のような状態にはならなかったのに。とても残念である。

「カンザス!まだ集まらないのか?」
「もう集まっています。今斥候が街を見に行っている所です」
 
 着々と我獣攻略の作戦を考えていくニクライとカンザス。しかしその作戦の中にはツヴァイの子供達の情報はない。そして更に屋敷に捉えていた人質もいない事も伝わってはいない。

「何だ!?」
「松明を切らすなと言っただろう!どうした」
「カンザス!私を一人にするな!!」

 表の松明の光がなくなった事を疑問に思ってカンザスが天幕から飛び出す。ニクライはジーニの時の事を思い出しガタガタと震え出した。

「暗いの怖いよ、一人は怖いよ」

 ニクライは面白いほどに怯えている。外から聞こえる音は何かが落ちるような人が倒れるような音ばかりで魔法などの爆発音は聞こえない。そしてとうとうニクライのいる天幕の入口が揺れた。

「くるな~[ファイアランス]」

 中級魔法の炎の槍を天幕の入口に放たれた。しかし爆発も手ごたえもなく槍は遠くで爆発をおこす。

「何だ誰もいないか....」
「バブ!!」
「おうわああ~~~~[ファイアボール]」

 ニクライの背後から子供の声が聞こえてニクライは確認もせずに炎の球を放った。その炎により天幕は燃え始める。炎の球は誰にも当たらなかったのだ。

 確かに声がしたのだがとニクライは首を傾げて息を荒げて天幕を後にする。

 外に出たニクライはあの時のような感触に苛まれ気を失っていく。

 ジャンヌのお腹で彼は気を失ったのだ。何とも羨ましい...じゃなかった。何とも恐ろしい。

 ニクライとカンザスは我獣へと連れて行かれる。最強の子供達にそして審査されて奴隷紋を使う事になるだろう。我獣の町は復興したばかりの町なのだ。働き手は多いほどいいのだ。

 彼らは貴重な労働力になっていく。もちろん悪党な盗賊達は全員捕獲して奴隷にしていった。

 ルインズガル大陸の半分以上の盗賊が捕獲出来た事で近隣諸国の町の為にもなったこの出来事は三兄妹の初めての語り継がれる伝説となっていく。

「ツヴァイ様とはどんな方なのだ...一度会ってみたいな」

 モウザは一人呟く。まだあった事が無いという事もあるがあの子供達を育てている人物がどんな人なのかと興味が湧いてきたのだ。確かにジャンヌ達はとても尋常ではない子供達だがツヴァイは育てていないので何も得られないだろう。可哀そうなツヴァイである。

 かくしてジャンヌ達のおかげで盗賊の数は減りルインズガル大陸は更に平和へと突き進んでいく。


 
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