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第二章 信仰と差別

第二話 巫女

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「ん、メリア様調べてきました」
「ララ、ご苦労様」

 黒いフードに黒いローブのララさんが帰ってきた。どうやら情報を仕入れられたようだ。

「ん、調べるまでもなかったよ。それも複数の人の情報、被害があったのはあそこだけじゃなかったみたい。今まで王様までいかなかったのが不思議なくらいというより兵士が買収されてたけどね」
「そう・・・」

 メリアは悲しい顔でララの報告に答えた。まさか兵士達まで腐っていたとは思っていなかったのだろう。しかしそうなるとツヴァイお父様がいない今少しこちらの分が悪い。

 貴族とはいえ女のお母様の発言力は弱い。当たり前のように男よりも女の発言力が弱くなっている。日本でも昔はそうだったみたいだしね。それは仕方ない。なので絶対的な証拠が必要になるわけだけど。

「ん、証拠はないけど証言は山ほどあったよ」

 ただお金を奪うだけなので証拠は残らないよね。

「これは次やる店を張り込むしかないわね」
「ん、大体わかってるよ」

 ララさんの調べである店が持ち上がる。そして次の日そのお店に外套を被った客が5人入り込むのだった。





 ジーニ達が店に張り込んでいる頃。アルス王子がアルサレム付近まで帰ってきていた。

「アルス様、ツヴァイ様が言ったようにアルサレムは無事なようです」
「ああ、よかった。だがまさかツヴァイ様がアステリアの国王になるとは・・」
「ええ、私も信じられませんでした」

 アルス王子はアステリアへ向かうツヴァイの一行とすれ違い少し話したようだった。そしてアステリア王国の話を聞き唖然としたそうだ。エルエスもその話を聞き胸を撫でおろしたとか。

「しかし、アルサレムの武力は大分減らされた形になってしまったな」
「ええ。私やクァンタム、それにアルス様の3人になってしまいましたね」

 アルス王子とエルエスが心配している。確かに強者と言われる者達は今言われた3人なのだが、この3人に並ぶものはいないものの下に連なる者達は多くいる。アルサレムの強みは数である。当分は心配ないだろう。

「アルス様!前方にオークの群れが!」
「何!!」

 アルサレムへの街道をオークの群れが横断していた。オークの群れは何かを追いかけるように横断し道を外れていく。

「何か追われているようです」
「民か!?全員抜剣!男を見せろ!」

「「「「「応っ!!」」」」」

 アルス王子はオークの群れに追われているであろう者を救うために動き出した。オークの群れはアルス王子の軍よりはるかに少ない。5000に対して500と10分の一である。勝敗はすぐに決まった。

「アルス様!追われていた方々をお連れしました」

 兵士が連れてきた一行は侍女と僧侶の服を着た女だった。そして兵士がエルエスに耳打ちするこの人達の正体は。

「信仰強国の巫女!」
「・・・・」
「取りあえず代わりの服を用意して差し上げろ」

 彼女らは自分達を信仰強国シュミットの巫女とその侍女だと言った。オークに襲われた為護衛に逃がしてもらったらしい。護衛のいたエリアを捜索すると無残なものが散乱しとても見れたものではなかった。

 あと少しの所で彼女達も同じ末路だったのだろう。服は所々破けかろうじて肌を隠せている状況だった。

「ありがとうございます。あのもしかして・・・あなた様はアルス様では?」
「え?確かに私がアルスですが・・」
「そう・・・ですか」

 巫女はアルス様ではと行った時は明るく希望を見たような顔で見たもののアルスがそうだと答えると希望を失ったように俯いてしまった。

「巫女様・・・申し訳ありません。巫女様は襲われたショックで」
「ええ、わかっていますよ。もうすぐアルサレムへ着きますから」

 巫女は俯いたままアルス王子の馬に乗るのだった。

「信仰強国シュミット。何故巫女だけがここに?」

 アルス王子は呟いた。

 この巫女が起こす風は追い風か向かい風か。



 


 早馬がアルス王子達より先に帰還を知らせる。アルサレムではアルス王子の帰還を祝うのだった。

「平和の王子アルス様が帰還なさるぞ」
「アルス王子のおかげで戦争は終わったのね」
「アルス王子ばんざーい」

 そんな声が方々から聞こえてくる。そしてジーニ達が張り込んでいる店にもその話題が入りお店の主人達を喜んでいる。

「王子様が無事に帰ってくるんだって~」
「ああ、素晴らしい事だ。平和をもたらしてくれたアルス王子をお迎えしなくちゃな」

 店を切り盛りしながら猫の獣人の親子が話している。ニャンナちゃんとそのお父さんはとてもいい笑顔でアルス王子のお帰りを話していた。

「とてもいい人達ね。自分達は貴族に蔑まれているのに」
「ええ、とても。あの人達の為にも今回で終わりにしてあげましょう」

  ジーニ達は外套のフードを深く被り今か今かと待っている。

 そしてその時、店の扉が開いた。

「いらっしゃ・・・・いませ」
「おじゃまするよ」

 ひょろっとした貴族とその取り巻きが店に入るとニャンナのお父さんが迎えたがさっきまでの笑顔が歪んだ。店のお客さんまで静かに顔を歪ましている。

「来ましたね」
「ええ、作戦通りに」
「ん」

 僕たちは頷き、その時をまつ。

「ネマー様今日はどんなご用で?」
「何だ?用が無きゃ来ちゃいけないのか?」
「ははは、いいんだよ。それよりも食べ物を食べさせてくれる店だろ。ここは」
「あ、はい」

 ネマーと言われた貴族達はドカッと開いている席へ座った。行儀悪く机に脚を乗せる。

「今日のおすすめを」
「畏まりました」

 ニャンナのお父さんはお辞儀をして厨房へと入っていく。店のお客さんはみんなネマー達を見ているがネマー達はその視線を無視して料理をまった。

「ネマー何て聞いたことないわね」
「メリア様でも知らない貴族はいるのですか?」
「大体は把握しているけど、少なくとも上級貴族ではないようね」

 メリアお母様は顎に手を当てて考えこんでいる。シリカさんの質問を考えたのだが思いあたらないようだった。

 ニャンナのお父さんが料理を持ち、ネマーの机へと運び届ける。

「おまたせしました」
「ああ、ご苦労、いい匂いだね。この料理は何だい?」
「こちらはダブルヘッドベアの煮込みです」

 何だか聞いたことある魔物だけど、とても美味しいと聞いたことがあるぞ。筋が固いのだが筋だけを炒めてから茹でるといい出汁がでるとか言ってたな~。焼いたダブルヘッドベアの肉にその出汁で作ったソースをかけるとそれはもう美味しいを通り越してう~ま~い~ぞ~!!っと口から光を出してしまうほど美味しいらしい、その時、額に味王と出るとか何とか。と冗談はさておき。

「では一口・・・・・何だこれは」
「どうかなさいましたか?」
「どうかなさいましたかじゃねえだろ」

 一口肉を食べたネマーは顔を歪める。だが額には味王と出ている。噂は本当だったか。だがうまいのを隠してネマーは演技をつづげる、そしてそれに合わせて取り巻きが吠えた。それに怯えたニャンナのお父さんは戸惑っている。

「この店は客に犬の餌を食わせるのか!」

 ネマーはそう言い放った。そして机の上の料理をぶちまける。少し勿体ないと言った様子だったがそこはこういう事のプロなのだろう、手を震わせながらやっていた。お残しは許しまへんで、と僕は飛び出しそうになったが我慢した。

「あ~、ひどい・・・」
「それでどうしてくれるんだ?」
「え?」

 ぶちまけられた事で声をもらしたニャンナのお父さんにネマーは言いがかりをつける。

「この私にこのようなまずい物を食べさしたんだ。それ相応の対価を払ってもらうぞ」
「そんな・・・・この間渡したお金でうちはもういっぱいいっぱい何です。どうかご勘弁を」
「ふむ、ではその子供をいただこうか」
「へへへ」
「ひ、お父さん」

 ネマーの取り巻きがニャンナの手を取り引っ張った。ニャンナは助けを求めるがお父さんは見ている事しかできない。それだけ貴族と平民の間には大きな壁があるのだ。

「ではいただいて行くぞ」

 ネマーを先頭に出ていこうと扉に手を掛ける。そして店の外に出ようとしたその時、

「おっと、どこに行かれるのですか?」

 外から入ってきたセバスがネマー達を押しとどめる。そして挟み込むように僕たちも動き出した。

「な!、なんだお前達は」
「おや?私を見た事がないのですか?おかしいですね」
「では私を見た事は?」

 セバスを見た事がないというネマーにメリアお母様がフードを取り質問をした。

「誰だ?」

 ネマーはわからなかった。英雄伯であった、ツヴァイお父様はとても有名だけどその妻としてのメリアお母様は貴族でも上級貴族の方々しかあった事はないだろう。だけど下位貴族の人達でも姿は見たことあるはずなのだ。それなのにもかかわらずネマーは首を傾げている。

「私はアステリア家当主ツヴァイの妻、アステリア・メリアです」
「アステリア家!」

 メリアお母様の名乗りで怯んだネマーは不意にニャンナの手を離す。ニャンナはお父さんの所へ駆けていった。

「アステリアの名は知っているようですね。あなたは本当に貴族なんですか?」
「「「・・・・」」」

 メリアお母様の質問にネマー達は青ざめた顔でうつむく。どうやら貴族ではないようですな~。

「どけ!」

 不意にセバスを押しのけ外に出ようとしたネマー達だったけどひょろひょろの体でセバスを退ける事は出来ない!、それに僕が分からないように全員に支援魔法をかけていたのでかなり強化されているからね。これに気付いたのはデシウスとララさんだけだった。

「逃がすわけがないでしょ」
「ちきしょお、離せ」
「あら~どうしたの?」

 丁度いい所に二丁目3姉妹が店の前にやってきた。どうやらこのお店の常連のようだ。やはりうまい飯の店には人が集まるんだよね。お店の人が獣人だろうとそんなの関係ないよ。

「あらあら、この子があの」
「私達も気をつけてたんだけど、丁度よかったわね」
「兵士詰所に行くまで私達がかわいがって、あ、げ、る」
「「サーー」」

 ネマー達の顔から血の気が引いてしまう。二丁目3姉妹はネマー達を挟むように両脇を掴み連れて行ってくれた。二丁目3姉妹にも支援魔法かけといたので逃げられはしないだろう。ちなみに僕のステータスの一割を付加させているのであの二丁目の人達は今このアルサレムの10本の指に入るくらいの強さになっているよ。

「皆さまありがとうございます。まさか貴族じゃなかったなんて」
「いえいえ、私達貴族はいざという時みんなを守らなくてはいけませんからね。これからも美味しい料理を皆さんに提供してくださいね」

 ニャンナのお父さんは深くお辞儀をする。アステリアの名前を出したので緊張しているのだろう。メリアお母様は手を振り謙遜している。

「お姉ちゃん達ありがとうございます」
「ダー」
「赤ちゃんもありがと~」

 ニャンナちゃんは尻尾を振り振りと喜び僕の手をとって喜んだ。その場の緊張はやわらぎ店の雰囲気も柔らかくなっていった。僕はモフモフしたい気持ちを抑えた。あ~あの尻尾をキュって抱きしめたい~。あと耳!耳!をハムハムしたいよん。いや待て僕はロリコンではないというか、あ、そうだ今は僕もショタなので合法なのか・・・えへ。

 ニャンナちゃん達に見送られて外へでると王子帰還パレードが始まった。
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