2 / 3
第2話
しおりを挟む
今から一年前、ソフィアはリチャードと結婚した。
貴族社会ではありがちな政略結婚だった。
ソフィアの父とリチャードの父が社交場で意気投合し、共同で資金を出し合ってとある事業を興すことにした。
二人の結びつきをより強固にし、裏切りを防ぐ為の策がお互いの娘と息子を結婚させることだった。
そんな事情で、ソフィアとリチャードは結婚し、結婚式を挙げる。
結婚式自体は恙く終わり、迎えた初夜。
ソフィアは今日一日で疲れていたが、眠い目を擦りつつ、リチャードが夫婦の部屋に来るのを待っていた。
しかし待てど暮らせどリチャードが部屋を訪れることはなく、とうとうソフィアは一睡もしないまま翌朝を迎えた。
ソフィアはそこで初夜をすっぽかされたと気づいた。
ソフィアは部屋から出て、朝食を摂る為に、ダイニングに向かう。
するとそこにはリチャードとメイドが大声で笑い合っていた。
「おはようございます、リチャード様。朝からとても楽しそうですわね。何か余程面白い出来事でもあったのかしら?」
「ちっ、何で来るんだよ……。せっかくエリーと楽しく話していたのに」
「まぁまぁ、リチャード。あなたの奥様になった人なんだからそう邪険にしないのよ。後でまたゆっくりお話ししましょう?」
「そうだな。今度は邪魔が入らない場所でな」
「リチャードの奥様。初めまして! わたしはエリー・メリング。リチャードとは幼馴染で昔から付き合いがあるの。今、メリング男爵家は生活に困っているから、リチャードに頼んでわたしをメイドとして雇ってもらうことにしたの! よろしくお願いします!」
メイドはソフィアに自己紹介をする。
エリーはミルクティーのような柔らかい茶髪の髪に、ヘーゼルの瞳の可愛らしい少女だ。
「幼馴染の男爵令嬢がメイド……ですか。リチャード様と節度を持って接するのならあなたを追い出したりはしませんが、そうではないのならハウエル伯爵家の女主人としてあなたを解雇する可能性もありますので胸に留めておいて下さいませ」
ソフィアの主張は極めて常識的な内容だったが、エリーはわざとらしいくらい大袈裟にリチャードに泣きついた。
ご丁寧にヘーゼルの瞳には大粒の涙まで浮かべている。
「酷い……! 何でそんなことを言うの! リチャード、奥様がわたしを気に入らないから女主人として解雇するかもって……!」
「いや、今の時点で解雇するとは一言も言っておりませんわ。あくまでリチャードとの距離感が不適切だと感じた場合の話です」
「何てことを言うんだ、ソフィア! お前は所詮ハウエル伯爵家に嫁いで来た人間。屋敷の人間を雇ったり解雇する権限は全て俺にあるんだ! だからお前が何と言おうとエリーをクビにすることは俺が許さない!」
「……そうですか。では、私はこれで失礼しますわ」
ソフィアは常識的なことを言っただけなのに、エリーには訳のわからない曲解をされ、さらにリチャードはエリーを庇った一方でソフィアを頭ごなしに怒鳴り、気分が悪くなったので、それ以上二人に何も言うことはなく、立ち去った。
貴族社会ではありがちな政略結婚だった。
ソフィアの父とリチャードの父が社交場で意気投合し、共同で資金を出し合ってとある事業を興すことにした。
二人の結びつきをより強固にし、裏切りを防ぐ為の策がお互いの娘と息子を結婚させることだった。
そんな事情で、ソフィアとリチャードは結婚し、結婚式を挙げる。
結婚式自体は恙く終わり、迎えた初夜。
ソフィアは今日一日で疲れていたが、眠い目を擦りつつ、リチャードが夫婦の部屋に来るのを待っていた。
しかし待てど暮らせどリチャードが部屋を訪れることはなく、とうとうソフィアは一睡もしないまま翌朝を迎えた。
ソフィアはそこで初夜をすっぽかされたと気づいた。
ソフィアは部屋から出て、朝食を摂る為に、ダイニングに向かう。
するとそこにはリチャードとメイドが大声で笑い合っていた。
「おはようございます、リチャード様。朝からとても楽しそうですわね。何か余程面白い出来事でもあったのかしら?」
「ちっ、何で来るんだよ……。せっかくエリーと楽しく話していたのに」
「まぁまぁ、リチャード。あなたの奥様になった人なんだからそう邪険にしないのよ。後でまたゆっくりお話ししましょう?」
「そうだな。今度は邪魔が入らない場所でな」
「リチャードの奥様。初めまして! わたしはエリー・メリング。リチャードとは幼馴染で昔から付き合いがあるの。今、メリング男爵家は生活に困っているから、リチャードに頼んでわたしをメイドとして雇ってもらうことにしたの! よろしくお願いします!」
メイドはソフィアに自己紹介をする。
エリーはミルクティーのような柔らかい茶髪の髪に、ヘーゼルの瞳の可愛らしい少女だ。
「幼馴染の男爵令嬢がメイド……ですか。リチャード様と節度を持って接するのならあなたを追い出したりはしませんが、そうではないのならハウエル伯爵家の女主人としてあなたを解雇する可能性もありますので胸に留めておいて下さいませ」
ソフィアの主張は極めて常識的な内容だったが、エリーはわざとらしいくらい大袈裟にリチャードに泣きついた。
ご丁寧にヘーゼルの瞳には大粒の涙まで浮かべている。
「酷い……! 何でそんなことを言うの! リチャード、奥様がわたしを気に入らないから女主人として解雇するかもって……!」
「いや、今の時点で解雇するとは一言も言っておりませんわ。あくまでリチャードとの距離感が不適切だと感じた場合の話です」
「何てことを言うんだ、ソフィア! お前は所詮ハウエル伯爵家に嫁いで来た人間。屋敷の人間を雇ったり解雇する権限は全て俺にあるんだ! だからお前が何と言おうとエリーをクビにすることは俺が許さない!」
「……そうですか。では、私はこれで失礼しますわ」
ソフィアは常識的なことを言っただけなのに、エリーには訳のわからない曲解をされ、さらにリチャードはエリーを庇った一方でソフィアを頭ごなしに怒鳴り、気分が悪くなったので、それ以上二人に何も言うことはなく、立ち去った。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
本当に愛しているのは彼女だと、旦那様が愛人を屋敷に連れてきました
小倉みち
恋愛
元子爵令嬢アンリには、夫がいる。
現国王の甥である、ダニエル・ベルガルド公爵。
彼と彼女が婚約するまでには、1つのドラマがあった。
ダニエルは当初、平民の女性と恋仲にあった。
しかし彼女と彼の身分差はあまりにも大きく、彼は両親や国王から交際を猛反対され、2人は彼らによって無理やり別れさせられてしまった。
そのダニエルと女性を引き剥がすために、アンリはダニエルと婚約することになったのだ。
その後、ダニエルとアンリの婚約はスムーズに維持され、学園を卒業後、すぐに結婚。
しかし結婚初夜、彼女に向かってダニエルは、
「君を愛することは出来ない。本当に愛しているのは、別れた彼女だ」
そう言って、平民の女性を屋敷に招き入れたのだ。
実は彼女と彼は、別れた後も裏で通じ合っており、密かに愛を温めていた。
お腹の中に子どももいるという。
「君は表向きの妻としていてくれ。彼女の子どもも、君との子どもとして育てる。だが、この先一生、君を見ることはないだろう。僕の心は、彼女だけのものだ」
……そうおっしゃっていましたよね?
なのにどうして突然、
「君のことも、ちゃんと見ようと思う」
なんて言い出したんですか?
冗談キツいんですけど。
手のひら返しが凄すぎて引くんですけど
マルローネ
恋愛
男爵令嬢のエリナは侯爵令息のクラウドに婚約破棄をされてしまった。
地位が低すぎるというのがその理由だったのだ。
悲しみに暮れたエリナは新しい恋に生きることを誓った。
新しい相手も見つかった時、侯爵令息のクラウドが急に手のひらを返し始める。
その理由はエリナの父親の地位が急に上がったのが原因だったのだが……。
すべてが嫌になったので死んだふりをしたら、いつの間にか全部解決していました
小倉みち
恋愛
公爵令嬢へテーゼは、苦労人だった。
周囲の人々は、なぜか彼女にひたすら迷惑をかけまくる。
婚約者の第二王子は数々の問題を引き起こし、挙句の果てに彼女の妹のフィリアと浮気をする。
家族は家族で、せっかく祖父の遺してくれた遺産を湯水のように使い、豪遊する。
どう考えても彼らが悪いのに、へテーゼの味方はゼロ。
代わりに、彼らの味方をする者は大勢。
へテーゼは、彼らの尻拭いをするために毎日奔走していた。
そんなある日、ふと思った。
もう嫌だ。
すべてが嫌になった。
何もかも投げ出したくなった彼女は、仲の良い妖精たちの力を使って、身体から魂を抜き取ってもらう。
表向き、へテーゼが「死んだ」ことにしようと考えたのだ。
当然そんなことは露知らず、完全にへテーゼが死んでしまったと慌てる人々。
誰が悪い、これからどうするのか揉めるうちに、自爆していく連中もいれば、人知れず彼女を想っていた者の復讐によって失脚していく連中も現れる。
こうして彼女が手を出すまでもなく、すべての問題は綺麗さっぱり解決していき――。
夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~
小倉みち
恋愛
元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。
激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。
貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。
しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。
ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。
ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。
――そこで見たものは。
ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。
「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」
「ティアナに悪いから」
「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」
そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。
ショックだった。
ずっと信じてきた夫と親友の不貞。
しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。
私さえいなければ。
私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。
ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。
だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。
元夫に何故か絡まれたのですが、今更ですか?
もふっとしたクリームパン
恋愛
あらすじ:主催した夜会にて、途中疲れたから夫と別れて一人テラスへと移動。そこへ誰かに声を掛けられて、振り返ればその相手は…。
*ふわっとした世界観で書いてます。*よくある何番煎じのざまぁ話です。*カクヨム様でも公開。
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
あなたの婚約者は、わたしではなかったのですか?
りこりー
恋愛
公爵令嬢であるオリヴィア・ブリ―ゲルには幼い頃からずっと慕っていた婚約者がいた。
彼の名はジークヴァルト・ハイノ・ヴィルフェルト。
この国の第一王子であり、王太子。
二人は幼い頃から仲が良かった。
しかしオリヴィアは体調を崩してしまう。
過保護な両親に説得され、オリヴィアは暫くの間領地で休養を取ることになった。
ジークと会えなくなり寂しい思いをしてしまうが我慢した。
二か月後、オリヴィアは王都にあるタウンハウスに戻って来る。
学園に復帰すると、大好きだったジークの傍には男爵令嬢の姿があって……。
***** *****
短編の練習作品です。
上手く纏められるか不安ですが、読んで下さりありがとうございます!
エールありがとうございます。励みになります!
hot入り、ありがとうございます!
***** *****
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる