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第2話

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 今から一年前、ソフィアはリチャードと結婚した。


 貴族社会ではありがちな政略結婚だった。

 ソフィアの父とリチャードの父が社交場で意気投合し、共同で資金を出し合ってとある事業を興すことにした。

 二人の結びつきをより強固にし、裏切りを防ぐ為の策がお互いの娘と息子を結婚させることだった。


 そんな事情で、ソフィアとリチャードは結婚し、結婚式を挙げる。


 結婚式自体はつつがく終わり、迎えた初夜。

 ソフィアは今日一日で疲れていたが、眠い目を擦りつつ、リチャードが夫婦の部屋に来るのを待っていた。


 しかし待てど暮らせどリチャードが部屋を訪れることはなく、とうとうソフィアは一睡もしないまま翌朝を迎えた。

 ソフィアはそこで初夜をすっぽかされたと気づいた。


 ソフィアは部屋から出て、朝食を摂る為に、ダイニングに向かう。


 するとそこにはリチャードとメイドが大声で笑い合っていた。

「おはようございます、リチャード様。朝からとても楽しそうですわね。何か余程面白い出来事でもあったのかしら?」

「ちっ、何で来るんだよ……。せっかくエリーと楽しく話していたのに」

「まぁまぁ、リチャード。あなたの奥様になった人なんだからそう邪険にしないのよ。後でまたゆっくりお話ししましょう?」

「そうだな。今度は邪魔が入らない場所でな」

「リチャードの奥様。初めまして! わたしはエリー・メリング。リチャードとは幼馴染で昔から付き合いがあるの。今、メリング男爵家は生活に困っているから、リチャードに頼んでわたしをメイドとして雇ってもらうことにしたの! よろしくお願いします!」

 メイドはソフィアに自己紹介をする。

 エリーはミルクティーのような柔らかい茶髪の髪に、ヘーゼルの瞳の可愛らしい少女だ。


「幼馴染の男爵令嬢がメイド……ですか。リチャード様と節度を持って接するのならあなたを追い出したりはしませんが、そうではないのならハウエル伯爵家の女主人としてあなたを解雇する可能性もありますので胸に留めておいて下さいませ」


 ソフィアの主張は極めて常識的な内容だったが、エリーはわざとらしいくらい大袈裟にリチャードに泣きついた。

 ご丁寧にヘーゼルの瞳には大粒の涙まで浮かべている。


「酷い……! 何でそんなことを言うの! リチャード、奥様がわたしを気に入らないから女主人として解雇するかもって……!」

「いや、今の時点で解雇するとは一言も言っておりませんわ。あくまでリチャードとの距離感が不適切だと感じた場合の話です」

「何てことを言うんだ、ソフィア! お前は所詮ハウエル伯爵家に嫁いで来た人間。屋敷の人間を雇ったり解雇する権限は全て俺にあるんだ! だからお前が何と言おうとエリーをクビにすることは俺が許さない!」 

「……そうですか。では、私はこれで失礼しますわ」


 ソフィアは常識的なことを言っただけなのに、エリーには訳のわからない曲解をされ、さらにリチャードはエリーを庇った一方でソフィアを頭ごなしに怒鳴り、気分が悪くなったので、それ以上二人に何も言うことはなく、立ち去った。

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