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第2話

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 エリザベートの言葉にアリスはキョトンとする。

「あんたこそ何言ってるのよ? ここは乙女ゲームの世界。私の為の世界なの! 全部私の思いのままになるんだから!」

「現実的に考えてみなさい。あなたの身分は男爵令嬢ですのよ? この国では国王と王太子のみ重婚を許されていてその他の者は如何なる理由があろうと一夫一妻。あなたがここにいる四人全員と結婚するということはあり得ないのです」


 国王と王太子は世継ぎの問題や政治情勢の問題で重婚は認められている。

 重婚はあくまで世継ぎの問題や政治情勢の問題への対策ということで、国王と王太子の個人的な事情ーー好きな女性が二人いてどちらか選べないから両方妻にするいうような事情ーーでの重婚は却下される。


「それはアレックスがどうにかしてくれるわ! そうよね、アレックス?」

「そんなことする訳がないだろう? もし仮に、私とクリスとルディとマルクでお前を共有したとして、子が生まれた場合、一体誰の子なのかわからないという問題がある。髪や瞳の色、顔立ちで判断出来ないこともないが、それだけで判断出来ない場合、確実に自分の子だと言える要素がない。特に私は王太子だから、不確定要素で後継者を据える訳にはいかない。要するに周りに複数の男を侍らせる尻軽女はお断りということだ」

「私もお断りです。四人の男と結婚しようなんて、よくそんな気持ちの悪い発想が出てきましたね。貴族の義務の一つは自分の家の血を次代に繋ぐこと。血統をとても大事にします。だから、貴族社会では身持ちの悪い女性は白い目で見られる。……ああ、失礼。そういう点では既にあなたは身持ちの悪い女性として烙印を押されていますね。これから先、大変でしょうが、頑張って下さいね」

(……あれ? 彼女が好きで逆ハーレムに参加していた訳ではないの……? もしかして、これ、私が彼女に注意しに行く必要はなかった……?)


「クリスってば辛辣~。でも、同感。僕達は目的があって君に近づいただけで、別に君に惚れたとかそんな理由があってのことじゃない。欲しい情報があって僕達は君に近づいた訳だけど、僕達全員が君に気があると勘違いしている様はとても滑稽だったよ。面白いものをありがとうね~」

 クリストフに続きルディもいつもの緩い口調で毒を吐く。

「俺達はあくまで調査の為に近づいた。そうでなければ君みたいな人に近づこうとも思わない。一瞬だけでも君に気のある素振りをしなければならないなんて物凄い苦行だった」

 アレックスからだけでなく、クリスとルディとマルクからも厳しい言葉を言われたアリスは混乱した。

「え……? 皆、私のことが好きだったんじゃないの!?」

「違う。お前の父親が違法植物を領地で育て、隣の国に流通させているという情報を得て。調査の一環でお前に近づいただけだ。適当にチヤホヤしていれば、此方が知りたかったことは全部話してくれたから助かった」

 違法植物とは、一見普通の植物だが、乾燥させて粉末状にし、食べ物に混ぜ込み、体内に入ると脳に作用して幻覚症状を引き起こすものだ。

 あまりに危険なので、栽培したり、ましてや売ることは固く禁じられている。

 違法植物には中毒性があり、裏ルートで高値で取引されている。


「あなたはもうここでのんびり学園生活を送ることも出来ないでしょう。今、メルダ男爵家ではそれどころではないでしょうからね」

「だね~。今頃騎士団による屋敷内の強制捜査が入ってる頃かな~」

「君のせいで破談になった婚約への賠償金という問題も起きているから、踏んだり蹴ったりな状況だろうな」

「私のせいで破談になった婚約の賠償金……?」

「あなたに骨抜きになってしまった男子生徒の中には、婚約者から見切りをつけられて婚約解消した方が数人いらっしゃいます。男爵令嬢であるあなたが、あなたより上の身分の令嬢の婚約話を壊してしまったのです。それは賠償を請求されても文句は言えませんわ」

「そんなの私には関係ないじゃない!」

「一番悪いのは骨抜きになった男子生徒ですが、あなたが声をかけなければこんな事態にはならなかった。責任の一端はあなたにもあります。知らぬ存ぜぬは通用しませんわ」

「エリーの言う通りだ。知らぬ存ぜぬは通用しない。そして、私達はもうお前に構うことは二度とない。さっさと去れ」


 アレックスは冷たい声色で一方的に告げる。

 アリスはふらふらとした足取りでその場を去って行った。
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