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第二節 子どもだけで生きる家 -光 side-
#16 昼下がりのロック・ミュージック 前編
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――ふわあ。欠伸を漏らした途端、電車の通過音がごうごうと鳴り響いた。
点滴治療の終わった光は、一人徒歩で帰路についている。
病院と家、そして中学校に繋がる道は決してややこしくないが、距離はそれなりにある。光は毎日この同じ道の景色を見つめながらマイペースに歩く。
その途中には、光が唯一寄り道する場所がある。くたびれた制服を着たまま、光は小さなスーパーに立ち寄った。
買い物かごを手に取り、店内への自動ドアを開くと、流行りの軽快なポップスナンバーが聴こえてくる。
「~♪」
店内BGMのリズムを指でトントン刻みながら、特売野菜や肉を悩まず放り込む。たまに値引きシールのついた見切り品を見つけると、立ち止まってそれを凝視。眉間に皺を寄せながら、やっぱりやめたと歩き出す。
牛乳。食パン。
カレールー。
納豆に玉ねぎ、値引きシールのついた豚肉。
思い出したかのように数歩戻り、みりん風調味料のペットボトルも入れてレジに並ぶ。
会計レジを済ませるまでの店内滞在時間はわずか5分と快速だ。
通学かばんの中から取り出すは折り畳み式のマイバッグ。何かのおまけでついてきた景品だ。そこへ買った荷物を無造作に詰め込む。次にポケットからイヤホンコードを取り出し、耳にかけた。ジャックが刺さる本体は古ぼけて傷だらけのMDプレイヤーである。再生ボタンを押し、再びかばんに押し込むと、聴こえてくる曲のメロディを口ずさみながらマイバッグを手に提げ、歩き出した。
『ありがとうございました。またお越しくださいませ』
機械的に流れる自動アナウンスが、ドアの向こう側から光を見送る。
見渡す限りの空は快晴。
一日の内で最も陽射しの強い初夏の午後の日光が、まるでスポットライトを浴びせたかのように、その姿を照らし出した。
(うわ……あっつ……まぶしいな)
思わず光は眉間に皺を寄せ、手で太陽光を遮った。
だらしない制服、金髪に緑色のメッシュヘア、ピアスのぶら下がる耳。まるで喧嘩帰りのヤンキーのようだ。陽射しが辛くて目を凝らしながら歩いていると、光と目が合った人間はそそくさと視線を逸らし、逃げるように立ち去って行く。
「あの子なんでこんな昼間っから店うろついてるの」
「高校生……いや、あの制服は中学生」
「授業サボってるのかしら」
訝しみ、蔑むような視線。
否定的な音声。
どれもこれも、何となく気分が滅入る。だから気にしなくていいように、耳から流れる大好きな音楽の世界に浸ることにした。
ドラムとベースが打ち込むリズム。メロディアスなギターの流れに合わせて、ボーカルが伸びやかに聴かせる歌。
知らない曲でもなんでもいい。今自分が歩いているセカイから、何もかも切り離されたい。
光は全神経を、耳元のイヤホンから聴こえてくる音楽だけに集中させた。
このMDプレイヤーは元々親のものだ。もう持ち主はいない。
ボロボロだけどまだ使える。家にあるMDを一緒に何枚かかばんに突っ込んでいて、毎日シャッフル再生。次に何の曲がくるのか分らない、イントロクイズみたいなお楽しみが光は結構気に入っていた。
今聴こえている曲は随分ノリのいい陽気なダンスポップチューンだ。思わず足取りも軽くなる。
何の曲が入っているのかも知らずに聴いているからタイトルなどは分からない。だが聴こえてきたその音楽に自分でタイトルやイメージを連想して遊ぶ。
――ふわあ。欠伸を漏らした途端、電車の通過音がごうごうと鳴り響いた。
点滴治療の終わった光は、一人徒歩で帰路についている。
病院と家、そして中学校に繋がる道は決してややこしくないが、距離はそれなりにある。光は毎日この同じ道の景色を見つめながらマイペースに歩く。
その途中には、光が唯一寄り道する場所がある。くたびれた制服を着たまま、光は小さなスーパーに立ち寄った。
買い物かごを手に取り、店内への自動ドアを開くと、流行りの軽快なポップスナンバーが聴こえてくる。
「~♪」
店内BGMのリズムを指でトントン刻みながら、特売野菜や肉を悩まず放り込む。たまに値引きシールのついた見切り品を見つけると、立ち止まってそれを凝視。眉間に皺を寄せながら、やっぱりやめたと歩き出す。
牛乳。食パン。
カレールー。
納豆に玉ねぎ、値引きシールのついた豚肉。
思い出したかのように数歩戻り、みりん風調味料のペットボトルも入れてレジに並ぶ。
会計レジを済ませるまでの店内滞在時間はわずか5分と快速だ。
通学かばんの中から取り出すは折り畳み式のマイバッグ。何かのおまけでついてきた景品だ。そこへ買った荷物を無造作に詰め込む。次にポケットからイヤホンコードを取り出し、耳にかけた。ジャックが刺さる本体は古ぼけて傷だらけのMDプレイヤーである。再生ボタンを押し、再びかばんに押し込むと、聴こえてくる曲のメロディを口ずさみながらマイバッグを手に提げ、歩き出した。
『ありがとうございました。またお越しくださいませ』
機械的に流れる自動アナウンスが、ドアの向こう側から光を見送る。
見渡す限りの空は快晴。
一日の内で最も陽射しの強い初夏の午後の日光が、まるでスポットライトを浴びせたかのように、その姿を照らし出した。
(うわ……あっつ……まぶしいな)
思わず光は眉間に皺を寄せ、手で太陽光を遮った。
だらしない制服、金髪に緑色のメッシュヘア、ピアスのぶら下がる耳。まるで喧嘩帰りのヤンキーのようだ。陽射しが辛くて目を凝らしながら歩いていると、光と目が合った人間はそそくさと視線を逸らし、逃げるように立ち去って行く。
「あの子なんでこんな昼間っから店うろついてるの」
「高校生……いや、あの制服は中学生」
「授業サボってるのかしら」
訝しみ、蔑むような視線。
否定的な音声。
どれもこれも、何となく気分が滅入る。だから気にしなくていいように、耳から流れる大好きな音楽の世界に浸ることにした。
ドラムとベースが打ち込むリズム。メロディアスなギターの流れに合わせて、ボーカルが伸びやかに聴かせる歌。
知らない曲でもなんでもいい。今自分が歩いているセカイから、何もかも切り離されたい。
光は全神経を、耳元のイヤホンから聴こえてくる音楽だけに集中させた。
このMDプレイヤーは元々親のものだ。もう持ち主はいない。
ボロボロだけどまだ使える。家にあるMDを一緒に何枚かかばんに突っ込んでいて、毎日シャッフル再生。次に何の曲がくるのか分らない、イントロクイズみたいなお楽しみが光は結構気に入っていた。
今聴こえている曲は随分ノリのいい陽気なダンスポップチューンだ。思わず足取りも軽くなる。
何の曲が入っているのかも知らずに聴いているからタイトルなどは分からない。だが聴こえてきたその音楽に自分でタイトルやイメージを連想して遊ぶ。
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