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未来を生きる 2
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「本当に良一はいつも、面白い発想するよね」
「全くです。巻き込まれた僕にも同情してくださる気は」
「あるわけないよね。お前元々俺の一部なんだろ?」
黒縁眼鏡のブリッジを押し上げ、幸一の後ろでブツクサと一人呟き続ける天使の羽根と髪の色は、以前までのそれとは違っていた。
『俺の守護天使として、何度生まれ変わっても永遠に俺の傍にいろ、二人とも』
『そんでもって俺とセックスできるようになれ。これが俺とお前との誓約だ!』
「そんな性欲まみれなことに誓約使わないでください!」
人間は欲深い生き物。三大欲求には逆らえないというが、あの状況でとんでもない事を言い出した幸一にすっかり気圧されたスーツ天使ことタカユキは、享幸の魂を終焉の空から連れ戻し、咄嗟に己の中に埋め込んだ。
不老不死の天使(タカユキ)の器に人間(享幸)の魂を宿し肉体を具現化した結果、半神半人(デミヒユーマン)の生物に変化した彼は天界の禁忌《寿命操作罪》を犯したとして大罪人の烙印を押され、百年地獄勤務の刑に科されている。黒髪黒翼はその証。
「貴方たちのせいで、僕の神格が堕ちて堕天使ルシファーの眷属になってしまったんですよ。どうしてくれるんです」
「寿命云々の規律の存在、忘れてたくせに」
「ついうっかりです! 幸一の誓約が脅迫じみてて……あんなのパワハラだ」
「だから罪滅ぼしに付き合ってくれるって言ってただろう。俺のことお人好しだって言うけれど、本当は幸一の方がドがつくほどの世話焼き男なんだから。あいつは絶対諦めないし、心強いと思う」
「身体はゴミレベルで弱いですけどね」
「今度こそ車ごときに消し飛ばされないよう、強力な保護魔法みたいなの、かけられないの?」
「この過保護親父が……」
守護天使の能力にも限界があるというのに、享幸は相変わらず推しのためならばと無理難題ばかり要求してくる。そんな彼に天使の身体を半分明け渡せというとんでもない願いを命じてきた幸一といい、二人は似た者同士だ。
半神半人になってしまった今、タカユキは本来の守護能力のほとんどを失っている。百年分の地獄労働を幸一の寿命が尽きるまでに終わらせ、堕天使から守護天使に昇格しなければ、二人もろとも数十年後には消滅してしまう。
幸一は「別にそれでもいいじゃないか。片方だけ残されるよりよっぽどマシ」と笑った。 笑いながらも、守護天使に戻るための地獄労働に付き合ってくれている最中である。あの日のむごい映像を幸一が見てしまったのも、地獄労働ミッション中の事故だ。
「賢者の贈り物という物語、ご存知ですか?」
「知ってるけど。それがどうかした?」
「……いえ、なんでもありません」
本日何度目かわからない溜息をついていると、享幸の方がくすくすと笑ってくる。
「お前もなんだかんだ言ってお人好しだよね。他人とは思えないな」
「……」
軽快に風を切っていた自転車がキュッと止まり、駐輪場に止められる。そこは久しぶりにやってきた市民病院だ。幸一は自転車に鍵をかけると、慣れた手つきでマスクをひっかけた。
「じいちゃんとの勝負、今度こそ俺が勝つからな! 享幸、手出しすんなよ」
「まあ負けるでしょうけど。貴方が勝たない限り、いつまでもあの人成仏しませんからね。そろそろ天界に連れてきてください」
「うるせえわかってら! お前はもうちょっと優しく言えねえのかよ」
「じゃあ俺が代わりに。――勝ったら今日はご褒美にセックスしよう。幸一の好きな後背位からのねじ込み、立ちバックで。ついでに空飛びながら重力無視で腰を揺らしてみたらすっごく気持ちいいかも……」
「……ちょ、それ、お前がヤリたいだけのやつじゃん」
「でも幸一、耳まで真っ赤にしてるみたいだけど? 期待してるんじゃないの、空中セックス」
「う……うるさい。今すぐシたくなるから黙ってろ! んで絶対勝つ」
「やっぱヤりたいんだな」
ガヤを無視して幸一は入院病棟の非常階段を何十段と駆け上がる。すぐ隣に想い人の魂が宿る天使を引き連れて。
「じいちゃん、ただいま。将棋勝負に来たぜ」
堕天使との永遠の愛を手に入れた彼の二度目の人生は、そう悪いものではなさそうだ。
ーーーーーーーおわりーーーーーーーーー
※最後まで読んでくださりありがとうございました。
良一と幸一、享幸とタカユキ。それぞれの転生前や転生後のお話を、これからも書き続けることができるといいなと思っています。ご感想を聞かせていただけると嬉しいです。
なおこの物語は後日談を追記したうえで、近日個人出版させていただきます。
kindle Unlimited無料読み放題対象の作品にしたいため、電子書籍発行日時が決まり次第非公開となりますことをご了承ください。
素敵絵師・咲伯梅壱様にキャラクターデザインを依頼し、メインビジュアルを描き下ろしていただきました!
「全くです。巻き込まれた僕にも同情してくださる気は」
「あるわけないよね。お前元々俺の一部なんだろ?」
黒縁眼鏡のブリッジを押し上げ、幸一の後ろでブツクサと一人呟き続ける天使の羽根と髪の色は、以前までのそれとは違っていた。
『俺の守護天使として、何度生まれ変わっても永遠に俺の傍にいろ、二人とも』
『そんでもって俺とセックスできるようになれ。これが俺とお前との誓約だ!』
「そんな性欲まみれなことに誓約使わないでください!」
人間は欲深い生き物。三大欲求には逆らえないというが、あの状況でとんでもない事を言い出した幸一にすっかり気圧されたスーツ天使ことタカユキは、享幸の魂を終焉の空から連れ戻し、咄嗟に己の中に埋め込んだ。
不老不死の天使(タカユキ)の器に人間(享幸)の魂を宿し肉体を具現化した結果、半神半人(デミヒユーマン)の生物に変化した彼は天界の禁忌《寿命操作罪》を犯したとして大罪人の烙印を押され、百年地獄勤務の刑に科されている。黒髪黒翼はその証。
「貴方たちのせいで、僕の神格が堕ちて堕天使ルシファーの眷属になってしまったんですよ。どうしてくれるんです」
「寿命云々の規律の存在、忘れてたくせに」
「ついうっかりです! 幸一の誓約が脅迫じみてて……あんなのパワハラだ」
「だから罪滅ぼしに付き合ってくれるって言ってただろう。俺のことお人好しだって言うけれど、本当は幸一の方がドがつくほどの世話焼き男なんだから。あいつは絶対諦めないし、心強いと思う」
「身体はゴミレベルで弱いですけどね」
「今度こそ車ごときに消し飛ばされないよう、強力な保護魔法みたいなの、かけられないの?」
「この過保護親父が……」
守護天使の能力にも限界があるというのに、享幸は相変わらず推しのためならばと無理難題ばかり要求してくる。そんな彼に天使の身体を半分明け渡せというとんでもない願いを命じてきた幸一といい、二人は似た者同士だ。
半神半人になってしまった今、タカユキは本来の守護能力のほとんどを失っている。百年分の地獄労働を幸一の寿命が尽きるまでに終わらせ、堕天使から守護天使に昇格しなければ、二人もろとも数十年後には消滅してしまう。
幸一は「別にそれでもいいじゃないか。片方だけ残されるよりよっぽどマシ」と笑った。 笑いながらも、守護天使に戻るための地獄労働に付き合ってくれている最中である。あの日のむごい映像を幸一が見てしまったのも、地獄労働ミッション中の事故だ。
「賢者の贈り物という物語、ご存知ですか?」
「知ってるけど。それがどうかした?」
「……いえ、なんでもありません」
本日何度目かわからない溜息をついていると、享幸の方がくすくすと笑ってくる。
「お前もなんだかんだ言ってお人好しだよね。他人とは思えないな」
「……」
軽快に風を切っていた自転車がキュッと止まり、駐輪場に止められる。そこは久しぶりにやってきた市民病院だ。幸一は自転車に鍵をかけると、慣れた手つきでマスクをひっかけた。
「じいちゃんとの勝負、今度こそ俺が勝つからな! 享幸、手出しすんなよ」
「まあ負けるでしょうけど。貴方が勝たない限り、いつまでもあの人成仏しませんからね。そろそろ天界に連れてきてください」
「うるせえわかってら! お前はもうちょっと優しく言えねえのかよ」
「じゃあ俺が代わりに。――勝ったら今日はご褒美にセックスしよう。幸一の好きな後背位からのねじ込み、立ちバックで。ついでに空飛びながら重力無視で腰を揺らしてみたらすっごく気持ちいいかも……」
「……ちょ、それ、お前がヤリたいだけのやつじゃん」
「でも幸一、耳まで真っ赤にしてるみたいだけど? 期待してるんじゃないの、空中セックス」
「う……うるさい。今すぐシたくなるから黙ってろ! んで絶対勝つ」
「やっぱヤりたいんだな」
ガヤを無視して幸一は入院病棟の非常階段を何十段と駆け上がる。すぐ隣に想い人の魂が宿る天使を引き連れて。
「じいちゃん、ただいま。将棋勝負に来たぜ」
堕天使との永遠の愛を手に入れた彼の二度目の人生は、そう悪いものではなさそうだ。
ーーーーーーーおわりーーーーーーーーー
※最後まで読んでくださりありがとうございました。
良一と幸一、享幸とタカユキ。それぞれの転生前や転生後のお話を、これからも書き続けることができるといいなと思っています。ご感想を聞かせていただけると嬉しいです。
なおこの物語は後日談を追記したうえで、近日個人出版させていただきます。
kindle Unlimited無料読み放題対象の作品にしたいため、電子書籍発行日時が決まり次第非公開となりますことをご了承ください。
素敵絵師・咲伯梅壱様にキャラクターデザインを依頼し、メインビジュアルを描き下ろしていただきました!
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