28 / 33
Lv.2 濃厚接触ゲーム
10 写真部始動!初日
しおりを挟む
静かになった部室で、圭太はしばらくスマホをいじっていた。喧しい訪問者が居なくなっただけなのに、妙にしんみりしてしまう。
別に部員が増えなくても。
(……なんて、嘘じゃん)
本当はオタク友だちが欲しくて入った部活なのだから。面倒でズルズル放置しているうち、肩書きがついて辞める機会も逃した。我ながら情けない。
圭太は部室の隅に置かれたデジタル一眼レフカメラを持ち出した。ケースの埃を払い電源をつけると、鮮やかな画面が点灯する。バッテリーも満タン、いつでもイケるぜといわんばかりだ。
このまま何もしないのは確かに勿体ない。たまには写真部らしく、活動してやろうではないか。
部員は一名だが、カメラを取り合うことがなくて便利だ。思えば三枝圭太が部長になってから、今日が初めての部活動日。校内写真を撮りまくってカメラの操作練習をすることも、立派な部活動に違いない。
(ウロウロしてたら太一に会えるかもしれないしな)
せっかくのどかな田舎の高校を選んだのだ。圭太は風景撮影がてら校内を散策することにした。カメラだけを首から下げ、中庭へと飛び出した。
いつの間にか五月の新緑に着替えた世界は、どこもかしこも青々と澄み渡っている。こんな美しい景色のどこに凶悪なウイルスが潜んでいるというのだろうか。空を眺めている時くらい、感染症のことなんて忘れて普通に過ごしたい。
誰もいない中庭でそっとマスクを外し、外気をめいっぱい肺に吸い込んだ。生い茂る雑草の香りがどこか懐かしかった。
シャッターを幾度となく押しながら、さくさくと軽快に足音を立てる。向かう先にはグラウンド。サッカー部、野球部、陸上部の姿が見える。ここまできて歩夢に会うのは少し気まずいので、進行方向を九十度変更。グラウンドの横にある、テニスコートへと向かった。たくさんの男女が入り混じって、和気あいあいと楽しそうに打ち合う姿が見えてくる。
テニスなんてまさにリア充形成スポーツ。圭太にはレベルも敷居も高い。だが目当ての人間がそこにいると思うと、足は自然にコートへと近づいてしまう。
「太一、いるかな……」
フェンス越しにコートの中を覗き込んだ瞬間。
「うわ、キモオタの三枝だ」
「何アイツ、カメラなんか持って。盗撮?」
突如、明らかに自分をディスる声が聞こえてきてぎょっとする。
「三枝ってあれか? 三組の。滝沢のおホモだち」
「滝沢と愛し合ってるくせに、テニス部の誰か狙いに来たのかよ、浮気だ浮気」
「ええ、きっしょ。誰だ狙われてる奴。それに勝手に人の写真撮るとか犯罪じゃん。最低最悪だなコイツ」
「えっやだー、そんな人がいるの? どこ、どこ」
「通報するべきじゃないの、そんな変態」
コート上にいる同学年のテニス部男子と目が合った。彼らの近くには女子が数人、こちらを見下ろし侮蔑の表情を浮かべている。
写真部の活動だと反論しかけて、身分証を首から下げ忘れていたことに気づき、慌ててポケットに手を伸ばす。
すると一人の男がフェンス越しに近づいてきて「聞いてんのかよテメエ!」と怒鳴り声を上げた。同時にテニスコート全面に張られたフェンスが、ガッシャンと大きな音を立てる。驚いた圭太の喉はひゅっと詰まり、咄嗟に数歩引き下がった。写真部の活動だと言い返したい。だがうまく言葉が出ない。言い返しても、身分証明書なしに話を聞いてくれそうな雰囲気には感じられなかった。
「えーやばっ、滝沢寝取った奴じゃん。オタクで変態って言われてた子。盗撮とか、キモッ」
「滝沢くん、ホントにあの人と付き合ってるの?」
「騙されてるんじゃない。アイツもアニメ好きって言ってたじゃん、きっと何かのオタクグッズに釣られたんだよ」
女子部員たちのまことしなやかに話すネタが、どこからきた情報なのかさっぱりわからない。それどころかかつて感染症疑惑を疑われた時のそれとそっくりで、吐き気を催しそうになる。
結局太一を探すこともできず、圭太は逃げるようにその場を離れた。
別に部員が増えなくても。
(……なんて、嘘じゃん)
本当はオタク友だちが欲しくて入った部活なのだから。面倒でズルズル放置しているうち、肩書きがついて辞める機会も逃した。我ながら情けない。
圭太は部室の隅に置かれたデジタル一眼レフカメラを持ち出した。ケースの埃を払い電源をつけると、鮮やかな画面が点灯する。バッテリーも満タン、いつでもイケるぜといわんばかりだ。
このまま何もしないのは確かに勿体ない。たまには写真部らしく、活動してやろうではないか。
部員は一名だが、カメラを取り合うことがなくて便利だ。思えば三枝圭太が部長になってから、今日が初めての部活動日。校内写真を撮りまくってカメラの操作練習をすることも、立派な部活動に違いない。
(ウロウロしてたら太一に会えるかもしれないしな)
せっかくのどかな田舎の高校を選んだのだ。圭太は風景撮影がてら校内を散策することにした。カメラだけを首から下げ、中庭へと飛び出した。
いつの間にか五月の新緑に着替えた世界は、どこもかしこも青々と澄み渡っている。こんな美しい景色のどこに凶悪なウイルスが潜んでいるというのだろうか。空を眺めている時くらい、感染症のことなんて忘れて普通に過ごしたい。
誰もいない中庭でそっとマスクを外し、外気をめいっぱい肺に吸い込んだ。生い茂る雑草の香りがどこか懐かしかった。
シャッターを幾度となく押しながら、さくさくと軽快に足音を立てる。向かう先にはグラウンド。サッカー部、野球部、陸上部の姿が見える。ここまできて歩夢に会うのは少し気まずいので、進行方向を九十度変更。グラウンドの横にある、テニスコートへと向かった。たくさんの男女が入り混じって、和気あいあいと楽しそうに打ち合う姿が見えてくる。
テニスなんてまさにリア充形成スポーツ。圭太にはレベルも敷居も高い。だが目当ての人間がそこにいると思うと、足は自然にコートへと近づいてしまう。
「太一、いるかな……」
フェンス越しにコートの中を覗き込んだ瞬間。
「うわ、キモオタの三枝だ」
「何アイツ、カメラなんか持って。盗撮?」
突如、明らかに自分をディスる声が聞こえてきてぎょっとする。
「三枝ってあれか? 三組の。滝沢のおホモだち」
「滝沢と愛し合ってるくせに、テニス部の誰か狙いに来たのかよ、浮気だ浮気」
「ええ、きっしょ。誰だ狙われてる奴。それに勝手に人の写真撮るとか犯罪じゃん。最低最悪だなコイツ」
「えっやだー、そんな人がいるの? どこ、どこ」
「通報するべきじゃないの、そんな変態」
コート上にいる同学年のテニス部男子と目が合った。彼らの近くには女子が数人、こちらを見下ろし侮蔑の表情を浮かべている。
写真部の活動だと反論しかけて、身分証を首から下げ忘れていたことに気づき、慌ててポケットに手を伸ばす。
すると一人の男がフェンス越しに近づいてきて「聞いてんのかよテメエ!」と怒鳴り声を上げた。同時にテニスコート全面に張られたフェンスが、ガッシャンと大きな音を立てる。驚いた圭太の喉はひゅっと詰まり、咄嗟に数歩引き下がった。写真部の活動だと言い返したい。だがうまく言葉が出ない。言い返しても、身分証明書なしに話を聞いてくれそうな雰囲気には感じられなかった。
「えーやばっ、滝沢寝取った奴じゃん。オタクで変態って言われてた子。盗撮とか、キモッ」
「滝沢くん、ホントにあの人と付き合ってるの?」
「騙されてるんじゃない。アイツもアニメ好きって言ってたじゃん、きっと何かのオタクグッズに釣られたんだよ」
女子部員たちのまことしなやかに話すネタが、どこからきた情報なのかさっぱりわからない。それどころかかつて感染症疑惑を疑われた時のそれとそっくりで、吐き気を催しそうになる。
結局太一を探すこともできず、圭太は逃げるようにその場を離れた。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる