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六冊目 ハロウィンナイト ~おれたちの推しインキュバスをオオカミから全力で守る会~

……⑨ ♡

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(もうハロウィンなんかいやだ……!)
インキュバス? それがどうした、俺が何だってんだ。恰好が似合わないなら最初からそう言ってくれよ。着たら皆が喜ぶと思って、わがまま言わないで頑張ったのに……。

『ちゃんとこのコスプレすれば、給料も倍はずむし、もしかしたら勝行の可愛いが見られるかもしれないわよ♡』

などと唆されて、プロデューサー・置鮎保の言う通りに頑張った自分が短絡すぎた。そんな甘い条件ではなかったんだ、この仕事ミッションは。勝行に内緒で、金と女装に釣られた俺がバカだったんだ――…………
ちくしょう。


**
「お前はバカか?」
「なんでだよ!」
「なんのためにこの首輪つけたんだか……」

男性トイレの中で、互いの怒り声が反響した。
盛大な溜息をつきながら、勝行が半べそ顔の光に手を差し伸べる。ほっとしてその手を取るも、すっかり腰が抜けてしまったのか、うまく立てなかった。股間を抑えながら間抜けな姿でぼやく。

「立てねえ……」
「何やってるんだよ」
「だからファスナーが! 開かねーんだってば!」
「ああそれ、本当だったの。……泣くなよ」
「なっ、泣いてねえ!」
「こっちにおいで」

引きずるようにトイレの個室へと促され、二人で中に入る。
「触るよ」と言いながら勝行が丁寧に噛んだ布を引き抜いてくれた。ようやくファスナーを全開することに成功すると、解放された光のそれはしなびた姿からゆるりと勃ち上がった。
我慢汁を大量に零していた下着はぐっしょり湿っており、一気にもわっとした空気が立ち込める。

「うわ……なにこれ、えっろ……」
「ひぅ……うっせえ……見るなぁ……」

泣いてない、と言いながらも、完全に鼻をすすり上げながら、光は勝行の手の中でされるがままになっていた。やっと苦しい状態から解放されたものの、色んな意味で心も身体も爆発寸前だ。

「……なあ、なんでこんなになってんの? さっきの狼のせい?」

あの男のせいだなんて思いたくない。光はふるふる首を振った。

「ちが……か……勝行が……」
「俺が?」
「スカート……可愛かった、から……」
「ふうん……? 人に散々服なんてどうでもいいって言っておきながら、お前は俺のコスプレ姿をオカズにしてたわけ」
「う……」

――しまった、違う方の地雷を踏んでしまった。
真実を語れば語るほど、勝行の機嫌はどんどん悪くなっていく。

「しかも知らない男にこんなもの触らせてるとか……ふざけんな、変態」
「ち、ちがっ……ファスナー、下ろすの、手伝ってって言っただけで。ひ、ぁあっ」

光の言い訳を聞くや否や、勝行の指は腫れたその竿を擦り上げて根っこをぎゅう、と締め付けた。

「やめっ……はな……はなせぇ」
「飼い主間違えてんじゃねえ……もう一度調教し直さなきゃダメか?」

低く響く声が耳元の空気を震わせ、ぞわり悪寒が走った。よもや再び人格チェンジのスイッチを入れてしまったか。

「帰りが遅いと思って様子を見に来たら案の定……。貞操観念の低いバカな淫魔にはどんな仕置きが一番効くんだ」

再び溜息を零されて、ひどく惨めな気分になる。光は必死に勝行の腕を掴んで途切れる涙声を紡いだ。

「だってあいつ……スタッフって……名札、ついてた……助けてくれると思っ」
「あのな? 今日ここにいる奴は全員狼なんだぞ。スタッフも客も、男も女も関係ない。こんな色気丸出し衣装のお前を、みんながどれだけいかがわしい目でじろじろ見てるか気づかないのかよ。危機感なさすぎだ、バカ」
「そんなの……わかんねぇよ……っ」

身体が震えていることに気づいてくれた勝行は、くどい説教を垂れ流しながらも正面から抱きしめてくれる。

「だから誰にも見せたくないって言ったのに……」
「うっ……ふ……ぅんっ……」

独り言のような甘い声と、嗅ぎ慣れた石鹸の香りに包まれながら、光は声を殺して泣いた。みんなが自分を、まるで変なものを見るかのように蔑んでいる気がしたあの視線。その本当の意味を知って、安堵と同時に酷く快楽を貪りたい衝動に駆られる。握られたまま堰き止められている欲望を、早く全部放り出したい。

「こんなにエロい姿晒し出して……俺以外に奉仕するなんて許さないって言っただろ」
「んなの……してねぇ……っ」
「ああそうか。お前淫魔インキュバスだから、えっちなご奉仕を強請ねだる側か? 淫乱すぎて予想つかなかったな」
「んっ……うぁあ、やっ」

ふいに晒されたままの胸の突起を摘ままれ、光は耐えきれず啼き声を漏らした。揉み解される素肌の感触にいいようのない快感が走る。前チェーンを外すと全部が解ける仕様のトップスは、勝行の手により全部するりと剥ぎ取られた。

「あんなきったない手に、ここ触らせてたよな」
「っ、んんーっ」

勝行の指が蕾を強くねじった。痛みを伴う刺激にがくがくと腰を揺らしながら、光は勝行の身体にくったり凭れかかる。

「そんなに気持ちよかったの? 相変わらず乳首弱い……」
「は……ぁ……も……イキたいっ……手ぇはなせ……」
「それじゃお仕置きにならないだろ」
「……もぅ、むり……っ」
「情けないなあ。ご奉仕しなきゃ一生悪戯コースだよ。それでもいいの」
「も、いい……いいからっ、勝行だったら悪戯されてもいいからぁ、イキたいぃっ、今、イキたい……っ」
「ちょ……」
「貸せ……っ」

もう我慢できない。トイレの便器に勝行を押し倒し、正面から馬乗りになった光は勝行のスカートを捲り上げると、巨根が収納されている下着に自分を宛がい、激しく擦り付けた。
若干固くなっているそこは、光の剥き出しの股間に刺激されてあっという間に硬度を増していく。

「あっ……ぅあ、あああ……っ」

後ろの割れ目に愛液と自分の指を幾度となく差し入れ、完全にブチ切れて情欲のままに腰を揺らすその姿は、とんでもなく淫らで圧巻である。

「……やべ……待てって、光……っ」
「止まんね……きもち、いぃっ、あ、ぁあ」
「ったく……」

絶対そんな姿、俺以外の男に見せんなよ。
勝行は愚痴をこぼしながら急いで下着を脱ぎ捨てると、はちきれんばかりに成長した肉棒を光のそれに重ね合わせた。
スカートの中でゴリゴリッと強く亀頭が擦れ合う。せり上がる絶頂に悲鳴を上げながら、光は勢いよく精を噴き飛ばした。

「ふあぁああ……っ」
「こんなとこで淫魔に搾取されるとか、ムカつくんだよ……っ」
「んぁ、スカート汚れ……、っ今動くなっ、ぁああっ」
「帰ったら絶対、お仕置き、だからな……っ」

脱力しかけた光の腰を支えながら、勝行も熱い吐息を個室内に響かせ光の中心に擦りつけた。スカートの中で蠢き合う卑猥な感触がたまらなく淫靡いんびだ。光はうっとりしながらその首にしがみつき、何度も唇を重ねては舌を絡ませ強請った。

「もっと……もっとしてぇ……っ」


**
銀狼のマスクがトイレの隅に落ちたままだった。

「ん、誰のだ?」
拾った男が、あー店長オーナー最推しのインキュバスに手ぇ出してシメられた狼か、と笑い声をあげながら去っていく。
一方その奥の個室では。淫魔に手を出し精も魂もまるっと抜かれそうになったもう一人の狼が、力尽きて気絶した淫魔を抱いたまま盛大な溜息をついていた。

「どうやって帰れと……」

淫魔を狼から全力で守る会、その裏会長が本物の狼であることは誰も知らない。

おしまい♡
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