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六冊目 ハロウィンナイト ~おれたちの推しインキュバスをオオカミから全力で守る会~

……②

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大人たちが二人の関係をネタに笑い飛ばしている間、勝行は悶々と考えこんでいた。
他にも色々無難なコスチュームがあるというのに、どうして今回こんな際どいアダルト系衣装を引いてしまったのか。
正直嫌な予感しかしない。それでなくてもプロデューサーの意向でセクシー担当として売り出されている光だ。ビジュアルが広く世間に知られ、人気急上昇中の彼の色香は、最近異様なほどに破壊力が上がってきているというのに。

(そりゃ俺もちょっとはみてみたいけど……っと、うっかり声に出すところだった危ない)

勝行は知っている。甘い毒のような魅力を持つ彼に惹かれ、隙あらば光に抱かれたい、あるいは抱いてやろうと狙う輩が男女問わず多いことを。
だが当の本人は引き当てた役柄を全然理解していないようで、スタッフとの過去話に夢中だ。

「あー思い出した。勝行は前、悪い魔王みたいな恰好して女を片っ端からナンパしてた」
「ちょ、人聞き悪いな、ナンパなんてしてないよ」

慌てて言い返すと、「よく言う」とジト目でこちらを見つめる光が思いっきり口を尖らせた。

「なんか悪巧みしてそうな顔してさ、カウンターの周りにいた女全員に、『悪戯してほしい?』とか言ってメロメロにさせてたくせに」
「それは――」

わんこ耳が可愛い光に遠慮なく群がる女性ファンをするためにやった過剰サービス――なのだが。

「客が怖いとか、情けないこと言ってたお前を助けてやったのに、なんだその言い草」
「あ、い……いててていてえ! 耳! いたいって! ヤメロ勝行ぃ!」

何の遠慮もせずに耳をめいっぱい抓られ、光は涙を零しながら悶絶する。だがこれも躾の一環。いつもの光景である。


そんな二人のいつものじゃれ合いを見ながら、INFINITYスタッフたちは楽し気な笑いを零す。

「WINGSといえば、犬っころの光と兄貴面した飼い主の勝行……みたいな感じだが、今度の配役はいつもと逆なんだなあ」
「今回ばかりは、WINGSに男の固定客が増えるかもしれねえな」
そんな呑気な世間話をしながら、働く大人たちの手は一寸止まった。

(エロい淫魔インキュバスの光……)
まだ見ぬ衣装姿の彼を妄想しただけで、下半身が血走って熱くなるのがわかる。美少年・光の姿はそれでなくても妙に色っぽくて艶があるのだ。

「それはヤバイな……」
「どう考えてもヤバすぎだろ」
「妄想しただけで一発ヌけるな」
「うわあ……久我さん下品―」
「ダメだダメだ、俺たちが何としてもあいつを守らないと」

当日までの間にスタッフ間ではとある会が結成され、ハロウィンナイトの看板にはしっかり新ルールが追加された。

  >>>可愛い金髪の淫魔はおさわり禁止<<<
 【オレたちのインキュバスをオオカミから全力で守る会】

それは大人たちのなけなしの理性と責任能力が試される時でもあった。

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