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四冊目 りんごあめと白雪王子 ~絶対恋愛関係にならない二人の最後の夏休み

りんごあめ、ひとつ……③

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 思い出したくもない数カ月前の事件時に聴かされた、光の甘い喘ぎ声を思い出しながら、勝行は神社の厠で一人必死に昂りを抑え込んでいた。

(なんであいつ、あんな色っぽいんだ。ていうかだめだ……なんで俺、こんなしょうもないことで意識してんだ……っ、おかしいだろ……あれは飴だ飴)

 まさか義弟の飴を食べる姿を見ただけで下半身が完勃ちするとは。

 光のことが好きだと自覚したのはほんの数か月前のことだし、その気持ちは本人にもバレてしまっていることだが、まだ向こうはお互いのことを『家族』として好きだとしか思っていないはずである。
 少なくとも、こんな性的な目で光をみているなんて、つゆにも思わないはず。……自分も、そう思っていたはずなのに。

(違う、あいつは弟。親友っ……。キス、したくなるとか……おかしいから……絶対……。あいつの家族設定が変なだけ、だから……)

 必死に精神統一するも、この興奮はそう簡単に収まりそうにない。
 二人っきりの遠出はまずかったかなあと思いながら、勝行は盛大にため息をついて個室の扉に凭れかけた。油断しすぎて、自制心が甘い。

(だめだ……ちょっと……落ち着いてから戻ろう……その方がいい)

 意を決した勝行は、壁から背を離し、洋式便座の陶器部分に向かい合うと、盛る己自身に手をかける。
 あの艶めかしい舌遣いと自慰中のそれが妄想で重なり合うと、一気に切羽詰まった昂りが全身を襲う。

「……っ」

 残暑とはいえまだ蒸す外気に紛れて、切ない吐息が宙を舞った。



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「ねえちょっと……あそこの金髪の男の子さあ……」
「ふわあ……かっこいいねえ」
「美少年じゃん。すっごい色っぽい……てか、飴舐めてるしっ」
「浴衣もなんかカッコイイデザインだな……もしかしてモデルとかじゃね?」
「んー……どっかで見たことあるような……」
「あー、なんか、芸能人っぽくね?」

……

…………

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