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二冊目 腐女子泣かせのアイドル ~WINGSのライブ潜入レポ
……⑤
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金髪少年は楽し気にピアノを撫でまわし、続きをボーカルに託しきって笑顔でピアノから指を離した。瞬間、ハイトーンの通る声だけが空間に響き、力溢れるサビをしっとりと歌い上げる。すべて計算しつくされた余興なのか、ありえないほどの偶然のタイミングなのかは誰にもわからない。
けれどその絶妙な音楽空間に、来場客のすべてが心奪われ取り込まれていた。
闇を溶かすように舞う君のメロディ
明日の僕に聴かせるため行こう
終わらせはしない
終わることのない 僕らの
気持ちよく高音ファルセットを響かせたボーカルの後ろで、ピアノが再びその音を彩るように巡る。さっきまでとは違って、優しい調べで、いとおしそうにゆったりと。
静かに終わる最後の余韻に客席が酔いしれる刹那のひと時を入れたかと思いきや、
「レディ……ゴー!」
と笑顔を零し、再び次なる曲へとつながるピアノソロを奏で始める。メドレーのように続くステージ演出に合わせて、普通のライブハウスでは早々見られることもない、カラフルなサイリウムライトも天高く掲げられ、二人の名を呼ぶファンコールがあちこちで響き渡った。
アイドル顔負けの可愛い笑顔を振りまきながら、二曲連続で歌い切ったカツユキは汗だくの襟元をばたつかせてファンコールに答える。
「ありがとう! 次の曲……歌う前に水のませて!」
「おー、じゃあ待ってる間に遊ぶっ」
言うや否や、即興の間繋ぎ曲を鍵盤だけで演奏し始めるヒカルの後ろで、「こらピアノぉ!」と笑いながら、バックバンドのドラムがだだだんと連動して主張してくる。その前に立つベースもセカンドギターも殴るようにリズムを流しながら、ピアノの暴走曲に次々便乗していく。あっという間に始まる自由曲は、なんという名前の曲なのかもわからないが、明らかに即興のセッションが唐突に繰り広げられているのがわかる。それは無茶を通り越して、何よりも楽し気だ。
カツユキは、そんな大人組VSヒカルの大暴走セッションの中で優雅に水を呷り、リズムに乗ってバックバンドのジャム演奏を眺めている。
「なんだあれ……」
「な、面白いやつらだろ。ああやって、毎回違うパフォーマンスするんだ」
「はあ? 毎回違う……?」
「まあ、ドラムの久我もベースの須藤もいい年して負けず嫌いだからなあ。ヒカルの暴走にすぐ乗っかる。あいつら遊びすぎだ」
「じゃあ、毎回ジャムセッションなのかよ。これ本番ライブなのに?」
「ああそうだな。でもなぜか、どんなに暴れててもあのボーカルギターの王子様が最後に全部うまいことサクッとまとめやがるんだ。あんな肝っ玉座った王様高校生、他にいねえぞ?」
だから聴いてても演奏してても楽しいんだ。何より、ステージの上であんなに自由に遊ばれちゃな。うちの客も、バックメンバーもそうさ。
オーナーは屈託なく笑いながらそう言うと、まったく減らない男のノンアルコールのグラスをピンとはじいて大声をあげた。
「お前んとこのバンドも、パフォーマンスであいつらと対決してみたらどうだ」
冗談じゃない、と振り返った男はぐいとグラスの中身を一飲みすると、空のそれをカウンターに叩きつけた。
「オーナー、楽屋借りるぞ。音出ししてくる」
「お。おう、好きにしな」
すっかり対抗意識に火をつけてしまったらしい。男は苦虫を噛み潰したような厳しい顔をしたまま、どかどかとフロアを去っていく。その後ろ姿を眺めながら、オーナーはもったいないなと呟いた。
――このあとがより一層面白くて、女子ファンにダントツ人気の理由なのに。
「きゃああああああ」
「やだああああありがとおお!」
「ヒカル、さいこー!」
「もっとラブラブしてえええ」
一気に黄色い声が会場中にこだまする。
「ああ、ほら……って見てないか。あいつ、足早いな」
しょうがない、と苦笑いしながらオーナーはライブ中のWINGSに視線を戻した。
演奏中にも関わらず、興奮有り余って勝行に頬キスをかます光と、ピアノの傍でギターを鳴らしながら真っ赤な顔をしている勝行の姿が見えた。
けれどその絶妙な音楽空間に、来場客のすべてが心奪われ取り込まれていた。
闇を溶かすように舞う君のメロディ
明日の僕に聴かせるため行こう
終わらせはしない
終わることのない 僕らの
気持ちよく高音ファルセットを響かせたボーカルの後ろで、ピアノが再びその音を彩るように巡る。さっきまでとは違って、優しい調べで、いとおしそうにゆったりと。
静かに終わる最後の余韻に客席が酔いしれる刹那のひと時を入れたかと思いきや、
「レディ……ゴー!」
と笑顔を零し、再び次なる曲へとつながるピアノソロを奏で始める。メドレーのように続くステージ演出に合わせて、普通のライブハウスでは早々見られることもない、カラフルなサイリウムライトも天高く掲げられ、二人の名を呼ぶファンコールがあちこちで響き渡った。
アイドル顔負けの可愛い笑顔を振りまきながら、二曲連続で歌い切ったカツユキは汗だくの襟元をばたつかせてファンコールに答える。
「ありがとう! 次の曲……歌う前に水のませて!」
「おー、じゃあ待ってる間に遊ぶっ」
言うや否や、即興の間繋ぎ曲を鍵盤だけで演奏し始めるヒカルの後ろで、「こらピアノぉ!」と笑いながら、バックバンドのドラムがだだだんと連動して主張してくる。その前に立つベースもセカンドギターも殴るようにリズムを流しながら、ピアノの暴走曲に次々便乗していく。あっという間に始まる自由曲は、なんという名前の曲なのかもわからないが、明らかに即興のセッションが唐突に繰り広げられているのがわかる。それは無茶を通り越して、何よりも楽し気だ。
カツユキは、そんな大人組VSヒカルの大暴走セッションの中で優雅に水を呷り、リズムに乗ってバックバンドのジャム演奏を眺めている。
「なんだあれ……」
「な、面白いやつらだろ。ああやって、毎回違うパフォーマンスするんだ」
「はあ? 毎回違う……?」
「まあ、ドラムの久我もベースの須藤もいい年して負けず嫌いだからなあ。ヒカルの暴走にすぐ乗っかる。あいつら遊びすぎだ」
「じゃあ、毎回ジャムセッションなのかよ。これ本番ライブなのに?」
「ああそうだな。でもなぜか、どんなに暴れててもあのボーカルギターの王子様が最後に全部うまいことサクッとまとめやがるんだ。あんな肝っ玉座った王様高校生、他にいねえぞ?」
だから聴いてても演奏してても楽しいんだ。何より、ステージの上であんなに自由に遊ばれちゃな。うちの客も、バックメンバーもそうさ。
オーナーは屈託なく笑いながらそう言うと、まったく減らない男のノンアルコールのグラスをピンとはじいて大声をあげた。
「お前んとこのバンドも、パフォーマンスであいつらと対決してみたらどうだ」
冗談じゃない、と振り返った男はぐいとグラスの中身を一飲みすると、空のそれをカウンターに叩きつけた。
「オーナー、楽屋借りるぞ。音出ししてくる」
「お。おう、好きにしな」
すっかり対抗意識に火をつけてしまったらしい。男は苦虫を噛み潰したような厳しい顔をしたまま、どかどかとフロアを去っていく。その後ろ姿を眺めながら、オーナーはもったいないなと呟いた。
――このあとがより一層面白くて、女子ファンにダントツ人気の理由なのに。
「きゃああああああ」
「やだああああありがとおお!」
「ヒカル、さいこー!」
「もっとラブラブしてえええ」
一気に黄色い声が会場中にこだまする。
「ああ、ほら……って見てないか。あいつ、足早いな」
しょうがない、と苦笑いしながらオーナーはライブ中のWINGSに視線を戻した。
演奏中にも関わらず、興奮有り余って勝行に頬キスをかます光と、ピアノの傍でギターを鳴らしながら真っ赤な顔をしている勝行の姿が見えた。
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