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二冊目 腐女子泣かせのアイドル ~WINGSのライブ潜入レポ
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「おやっさんのライブハウスが急に女子だらけになるのは、あの高校生がマイク持った時だって聞いてたけど、わっかりやすい現象だな……」
後ろのバーカウンターで接客しているスタッフにそんな愚痴をこぼすのは、同じく本日のゲリラライブに出演することが決まっていた中堅ロックバンドの男性ボーカリストだ。今日のトリを任されているらしく、まだ出番までたっぷり時間があるので、彼は自分の前座バンドをのんびり鑑賞していた。
「ただのアイドルじゃねーかよ」
「まあまあ、あれは本物の王子だからしょうがない」
笑いながらこのライブハウスのオーナーがノンアルコールドリンクを差し出すと、男はこんな飲み物こそ子どものアイドルソングにぴったりだな、と皮肉な笑みを零した。
「お前、今から酒焼けした喉で歌うつもりか」
「はっ。こんなんの後とか、やる気失せるし。どうせ金持ちの優等生とか、何一つ苦労してないような奴なんざ、おままごとみたいに歌ってるだけだろ」
「ああ、お前はそういえば、WINGSの曲聴いたことなかったっけ」
「ねーよ、あいつら噂には聞いてたけど、マジあの見た目からしてチャラくていけすかねえ。何考えてんのオーナー。ここのライブハウスは、ガチで音楽やってる俺らみたいな人間しかステージに立たせないんじゃなかったのか」
「まあ、確かにうちのライブハウスでは異色だな。でもまあ、聴いてみな。その感想、一変するから」
「は?」
どういうことだ、と聞き返す前に言葉は爆音にかき消された。
「いくよ!」
「きゃああっ」
前列を百人近い女子に埋め尽くしたステージの向こうから、軽やかで楽し気なピアノのグリッサンドが飛び跳ねる。疾走感溢れる爽やかなメロディに、甘ったるいクセのある歌声。
「なんだ、やっぱお子様……」
「ただ音を叩きつけるだけの爆速ロックと違って、あいつらの曲は丁寧なんだよな、子どもとは思えん」
「……」
音楽が好きなんだろうな、という気持ちはワンフレーズでビリビリと伝わってくる。それはバンドマン同士だからこそ共感しあえる暗黙の空気だ。
「光はとにかく自分らの奏でる音にトリップしちまうけど、めちゃくちゃ楽しそうで可愛いだろ。あー、光ってのはあのシンセの金髪な。あいつが困った野郎で、すぐ遊びだすんだ」
「遊びだす……?」
「ああ、ほら」
きゃあああっ、とひと際高い歓声が跳ね上がると同時に、ソロかと言わんばかりにピアノだらけの高速ポップサウンドが流れ始める。ギターがまったく追いつかないし、リズム隊はさっきから同じフレーズを延々繰り出すばかりだ。
「は? なんだ、このめちゃくちゃな」
言い終わるや否や、ピアノの独奏ならぬ独走をまるっと引き継ぐかのように、白いスーツの少年がストラトキャスターを華麗にかき鳴らす。それは見事なまでに艶やかな即興スコアを演じ、暴れ狂うピアノを包み込む連携リレーのようなデュエットに変更してしまった。彼はそんな神業的な演奏を流しながらも、キーボードに向き合ってマイク越しに文句を零す。
「ヒカル! またお前は勝手に暴走しやがってぇ!」
「ははっ、カツユキ、歌!」
「言われなくても……っ」
「おやっさんのライブハウスが急に女子だらけになるのは、あの高校生がマイク持った時だって聞いてたけど、わっかりやすい現象だな……」
後ろのバーカウンターで接客しているスタッフにそんな愚痴をこぼすのは、同じく本日のゲリラライブに出演することが決まっていた中堅ロックバンドの男性ボーカリストだ。今日のトリを任されているらしく、まだ出番までたっぷり時間があるので、彼は自分の前座バンドをのんびり鑑賞していた。
「ただのアイドルじゃねーかよ」
「まあまあ、あれは本物の王子だからしょうがない」
笑いながらこのライブハウスのオーナーがノンアルコールドリンクを差し出すと、男はこんな飲み物こそ子どものアイドルソングにぴったりだな、と皮肉な笑みを零した。
「お前、今から酒焼けした喉で歌うつもりか」
「はっ。こんなんの後とか、やる気失せるし。どうせ金持ちの優等生とか、何一つ苦労してないような奴なんざ、おままごとみたいに歌ってるだけだろ」
「ああ、お前はそういえば、WINGSの曲聴いたことなかったっけ」
「ねーよ、あいつら噂には聞いてたけど、マジあの見た目からしてチャラくていけすかねえ。何考えてんのオーナー。ここのライブハウスは、ガチで音楽やってる俺らみたいな人間しかステージに立たせないんじゃなかったのか」
「まあ、確かにうちのライブハウスでは異色だな。でもまあ、聴いてみな。その感想、一変するから」
「は?」
どういうことだ、と聞き返す前に言葉は爆音にかき消された。
「いくよ!」
「きゃああっ」
前列を百人近い女子に埋め尽くしたステージの向こうから、軽やかで楽し気なピアノのグリッサンドが飛び跳ねる。疾走感溢れる爽やかなメロディに、甘ったるいクセのある歌声。
「なんだ、やっぱお子様……」
「ただ音を叩きつけるだけの爆速ロックと違って、あいつらの曲は丁寧なんだよな、子どもとは思えん」
「……」
音楽が好きなんだろうな、という気持ちはワンフレーズでビリビリと伝わってくる。それはバンドマン同士だからこそ共感しあえる暗黙の空気だ。
「光はとにかく自分らの奏でる音にトリップしちまうけど、めちゃくちゃ楽しそうで可愛いだろ。あー、光ってのはあのシンセの金髪な。あいつが困った野郎で、すぐ遊びだすんだ」
「遊びだす……?」
「ああ、ほら」
きゃあああっ、とひと際高い歓声が跳ね上がると同時に、ソロかと言わんばかりにピアノだらけの高速ポップサウンドが流れ始める。ギターがまったく追いつかないし、リズム隊はさっきから同じフレーズを延々繰り出すばかりだ。
「は? なんだ、このめちゃくちゃな」
言い終わるや否や、ピアノの独奏ならぬ独走をまるっと引き継ぐかのように、白いスーツの少年がストラトキャスターを華麗にかき鳴らす。それは見事なまでに艶やかな即興スコアを演じ、暴れ狂うピアノを包み込む連携リレーのようなデュエットに変更してしまった。彼はそんな神業的な演奏を流しながらも、キーボードに向き合ってマイク越しに文句を零す。
「ヒカル! またお前は勝手に暴走しやがってぇ!」
「ははっ、カツユキ、歌!」
「言われなくても……っ」
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