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第一章 勇者殺しの勇者
第47話 とあるしあわせな女の子
しおりを挟むニィナは幸せな女の子です。
この日も、家族みんなで晩御飯を食べていました。
「やっぱりお父さんの料理はおいしいなぁ~」
「はははっ、お父さんこれでも料理店の店主だからね」
優しくて料理上手なお父さん。
「ニィナはお父さんの料理が大好きだものね」
優しくて綺麗なお母さん。
「ちょっとニィナ、がっつきすぎ」
ちょっぴり意地悪だけど優しいお姉ちゃん。
「だってだって~。ほんとに美味しいんだもん」
「あらニィナ、口の周りにつけちゃって」
お母さんがニィナの口の周りをハンカチで拭きました。
「あっ、ごめんなさいお母さん」
「いいのよ、ニィナ。ゆっくり食べなさいね」
「はぁーい」
「もう、ニィナったら」
ニィナはこの街のみんなが大好きです。
小さい頃からずっと一緒の大親友、アビィ。
近所の花屋のお兄さん。
教会で女神様に仕えるお仕事をしてるおじいちゃんとおばあちゃん。
誰よりも力持ちでやっぱり優しい船長の叔父さん。
わたしに何でも教えてくれる先生。
ニィナはみんながいるこの街も大好きです。
「あっ、そうだニィナ。今日お父さん、凄いことがあったんだぞ~!」
お父さんがニィナと反対の席で自慢げに話します。
「えっ!? なになに!? もったいぶらないで早く教えてよ!」
「お姉ちゃんにはもう言ったんだけどね。お父さんのお店に勇者様が来たんだ」
「え~~~っ!? あの勇者様が!?」
ニィナは椅子から飛び上がりました。
「ニィナ、興奮し過ぎ~」
「だってだって勇者様だよ~!! うわぁいいなぁわたしも会いたかったぁ」
「ニィナは小さい頃から勇者様が大好きだものね」
「うん!」
勇者様というのは女神様の加護を持った神聖な人達のことです。
その昔、人間は魔人に絶滅の一歩手前まで追い込められてしまいました。
そんな人間を憐れに思った女神様は魔人を退ける聖なる力を持った勇者様を召喚しました。
勇者様はその御力によって魔人を大陸の西に追い詰めて、そこに魔人を封印しました。
それから何千年と経った今でも召喚された勇者様が魔人の封印された地に赴いて封印の結界を破られないように悪い魔人を倒しに行くのです。
「勇者様かっこいいから好きなんだ~」
「勇者様が嫌いな人なんてこの国じゃいないって」
「わたしはシェバイアで一番勇者様が好きなんだもん!」
「はははっ。ニィナは勇者様の歴史とかいっぱい調べてたもんなぁ」
「うん! わたしね、〈光〉のチギラ様が一番好きなの!」
「はいはい、何回も聞いたわよそれ」
〈光〉の勇者チギラ様は四年程前にシェバイアを襲った飛竜の群を追い払った勇者パーティのリーダーです。
チギラ様は〈光〉の名の通り、光を巧みに操る能力を持った勇者様で光の速さで飛竜を追い払ったと言われています。
当時、ニィナが飛竜に襲われそうになった時、ニィナを助けたのがそのチギラ様でした。目の前でニィナのことを救ったチギラ様の横顔を、今でも忘れられないでいました。
「もう、わたしの言うことに水ささないでよ~!」
「別に水さすつもりで言ったんじゃないよ。全く子供なんだから」
「こら、二人とも喧嘩しないの」
「「はぁーい」」
姉妹は二人揃って返事をしました。
「お父さん、そのお店に来た勇者様ってどんな人だったの?」
「そうだなぁ。男の子と女の子の二人だったよ。両方ともお姉ちゃんくらいの歳だったかな」
「えぇっ!? そんなに若いんだね。やっぱり勇者様って凄いなぁ。お姉ちゃんが勇者様とか考えれないよ~」
「ちょっとそれどういう意味ぃ?」
「えっお姉ちゃん勇者様になりたいの?」
「べっ、別になりたくはないよ。魔人怖そうだし」
「わたしはなりたいなぁ。勇者様」
「ニィナならいつかなれるかもしれないわね」
「ほんと!?」
「良い子にしてたらね」
お母さんが優しい笑顔でニィナの頭を撫でました。
「うん! 良い子にしてるよわたし」
「ほんと単純なんだから……」
お姉ちゃんが呟きました。
「でもお父さんいいなぁ~。わたしも勇者様に会いたかった~」
「ニィナも会えるさ。まだこの街にいると思うしね」
「そっか~。明日アビィと勇者様探しに行こうかなぁ」
「そうだな。お父さんお仕事あるから、お姉ちゃん、ニィナとアビィ頼んでもいいかい?」
「うん、いいよー。明日はあたしも暇だし」
「やったぁ。お姉ちゃん大好き!!」
ニィナはお姉ちゃんに抱きつきました。
「こ、こら。いきなり抱きつかないでよ」
「だって~。わたし、幸せだなって」
「どうしたの、急に」
「ふふふっ、おかしな子ね」
「も~~」
ニィナはその晩、すぐに寝付くことが出来ました。
その日もとっても良い夢を見ました。
勇者様に会う夢です。アビィもお姉ちゃんもお母さんもお父さんもいました。
勇者様はもちろん優しくて、お話も面白くて、魔人をばったばったと倒していくのです。
ニィナは幸せな女の子でした。
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