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序・甲 巨人/巨獣/最後の光波熱線
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比丘たちよ、それら貪と瞋に打ち勝って、生と死の彼岸に至る者となれ。
パーリ仏典相応部六処相応
ここで負けて死ぬというのなら、それでも良かった。
三方を自然の要塞たる山々に囲まれたカグラ特別行政区の夜、巨獣と巨人の死闘があった。
《巨獣》という生物がいる。
正式名称は超自然発生巨大不明獣型生物。全高およそ二八メートルから一二〇メートル、その巨躯は未知の生体鉱物で構成され、平均移動速度は時速十三キロ程度だが経路に齎す破壊は天災そのもの。個体によっては特殊な攻撃能力を有している。破格の外皮硬度と途方もない膂力と恐るべき破壊力を内包し、巨獣はその圧倒的な暴力を惜しげもなく解放する。
三千万年前から地球に存在する、人知を超えた準完全生物である。
2024年7月10日。
その夜、塔の都・カグラ特別行政区に一体の巨獣が既に上陸していた。
沖合を巡回中の観測船が撃沈された――内閣情報集約センターから第1報を受けていた。
水上/潜水形態で陸地を目指していた巨獣に対し、イージス艦による砲雷撃戦が展開されたが効果は認められず。対艦ミサイルも効果なし。
続いてカグラ基地から緊急発進した要撃機二機がJDAMを用いた空爆を実施するが、進行を止められず。
そして現在、浜辺を越えて市街地を蹂躙している巨獣の姿を防災庁のヘリが捉えていた。ヘリテレから伝送された空撮映像で巨獣を確認している防災庁カグラ局合同庁舎第4号館の地下危機管理センターオペレーションルームは、騒然の坩堝と化していた。
同・幹部会議室の正面スクリーンで同じ映像を見据える局長は、傍らに座る副長に問う。
「勝利の塔が最終の発射態勢に入るまで、どのくらい掛かるの?」
「あと一時間は掛かる見込みです」
「待てないわね。被害が尋常でなく拡大している」
「仰る通りです。巨獣使いの緊参チームに参集指示が出ていますが……」
「内閣危機管理監は彼等に期待し過ぎね。そこら辺の巨獣使いで対処可能なら、もうとっくにケリをつけて、今頃私は報告書を書いてるわよ」
巨獣の猛烈な進行によって建物や電柱や道路標識は呆気なく倒壊し、電線共同溝が崩落した事で街は段階的な停電に見舞われ夜の闇に沈んだ。停電の際に一瞬だけ迸るスパークが夜闇に爪痕を残して消えた。もはや光源は火災の照り返しと月光と高層ビルの屋上で灯る赤色航空障害灯だけであり、そのLED式の明滅が不気味な火の玉に見える。
通常兵器による砲爆撃では巨獣を斃せない。だが、まだ打つ手立てはある。
即効性の高い確実な対策手段を取れる人物がいるとすれば――
局長は赤電話を手に取り、とある人物の応答を待つ。
その相手とは、巨獣大国たる日本の国防を担う人物である。
『すみません。降下ポイントをちょっとズラしてもらって、今走って……現場に向かって……ます……!』
「米国の再使用型宇宙往還機の着陸艇を無理やり降ろせば、もはや着弾すると言った方が適切でしょうね。人口密集地を避けた結果でしょ、機転の利いた判断だわ。流石ね」
『防災公園の管理担当者には……怒られるでしょう、けどねっ……』
返答には風切り音が混じり、市街地の屋上を跳び渡りながら目標に接近している。彼の体内に注入されたナノマシンのGPSで位置情報を追跡しているが、現在位置を示す光点が風もかくやな速度で移動している。そんな芸当が出来るのは世界広しと言えども、一人しかいない。
『……っと、目標を視認しました。あれは…………』
「君の目にはどう見える?」
『――巨獣が聞こえる……。……たぶんレベルⅢかもしれない』
息せき切って立ち止まる彼の声には愕然とした色がある。事態は危急存亡で絶望的だと判断し、局長は即決する。
「機甲科の射撃は即刻中止、一時退却させて。特科は待機維持、指示を待つように。住民の救護と避難誘導を優先、急がせて。彼を戦域に投入しても、足元を気にしていたら戦えない」
続いて赤電話越しに注意事項を伝える。
「市街地中心部の住民避難完了の報告を受けてないわ。でも沿岸部の第1指定区域内は、貴方が今いる地点から南西方向にかけてなら問題なしよ。いざとなったら徹底的にやって」
『本当ですか? 間違いありませんか』
「私は現場の判断を信じるだけよ」
間。
『あの巨獣は未知数です。長期戦だと不利になる。一か八かですけど、一気に決めます』
「自走榴弾砲の弾着に合わせて光線で仕留める、つまり速攻ね? 間接射撃の秒読みは射撃指揮所通信員の無線を聞いて」
『……周波数合わせました。では――往きます』
瞬間、閃光と響音が世界を震わせた。
巨獣の進撃で燃え盛る人口密集地に、それは現れた。
彼こそが、この世で唯一無二の巨人に変身できる個体――幻獣。
《河鹿家》という名家がある。
江戸時代から存在する武家であり、巨大化能力を獲得/継承する事で当時から朝廷や幕府に一目置かれていた家系である。
歴代で六体もの幻獣が輩出され、その中で彼は六代目――つまり当代当主だった。
身の丈四〇メートルの巨人は、轟々と荒ぶる火炎を物ともせず直立している。炎の照り返しでオレンジ色に見える煙が濛々と立ち込める只中で、その体表は異様な色彩を放つ。体色は白地に青いラインが走る模様で縁取られ、頭部は黒いバイザーに覆われ素顔は隠されている。
対して巨獣は巨人に匹敵する程の巨躯、地を踏み砕く二足歩行形態、闇を塗り固めたような漆黒の胴は漆の如き光沢を帯び、身体構造は神話上の龍にも似ている。
火災旋風に追われるように人々が逃げ惑う街中で、二体の巨大生物が対峙している。
巨獣には脅威度に応じた位階が設定されている。レベルⅠであれば木端の巨獣使いで撃破できる。レベルⅡであれば巨人が対応する。ではレベルⅢの場合はどうするか。
レベルⅢの巨獣と相対するのは、巨人にとっても初めての経験だった。
巨人の有する戦闘能力は戦略級であり、他の通常兵力を圧倒的に上回る。
しかし他の尋常の巨獣を遥かに凌ぐ巨人であってさえ、彼我の戦力差は未知数で、ともすれば絶望的な程のもの。
歴代の巨人達でもレベルⅢの巨獣を撃破したという公式記録は残されていない、この四〇〇年間で。
果たして、勝てる見込みがあるのか。
だが、戦った。
それこそが巨人の、彼が現世に産まれ落ちた時から定められた使命だから。
『弾着10秒……8……7……6……5……4……3……弾着、今!』
次の瞬間、特科が一斉に群射した弾丸が放物線を描いて巨獣の頭部に降り注ぐ。巨獣に直撃する寸前に頭上で同時に爆発を起こし、衝撃と破片が容赦なく巨獣を襲う。爆炎に呑まれた巨獣の視界が立ち込める黒煙で束の間だけ不明瞭になった――その瞬間を逃さない。
巨人は素早く射撃態勢に移行する。防御の水平、攻撃の垂直。左手を垂直に構え、右手を水平に添える。さながら左手は銃身、右手はまるで銃身を支える為の二脚。
巨獣にとって榴弾は路傍の石にも満たぬ些事に過ぎないだろうが、それ故に囮として機能する。その一手先の射撃こそ本命に他ならない。
巨人の体内で規格外の獣力が漲る。左手に収束していく獣力の余剰分が周囲の空間を歪ませ、陽炎のように揺らめく。
射撃点に一極集中させた獣力は解放の時を待ちわびて、青白いスパークを夜闇に刻みつける。
巨人が単騎で有する最強の攻撃能力――未だかつて人類が実用化できていない熱光学兵器。一撃で巨獣を屠る事に最適化された巨人にとって最後の切り札。それを初手でぶち込む。出し惜しみなど絶対にしない。発射してしまえば最後、巨体故に緩慢な動作しかできぬ巨獣に回避など不可能。いかに堅牢な外皮でも容易く焼き切り、異常な熱量と驚異的な貫通力の前では如何なる防御も意味を為さない。
彼の必殺技は、亜光速の速度域で精密に狙撃する荷電粒子砲である。
――吹っ飛べ。
発射、
大気をプラズマ化させる雷霆が闇を貫き、弾体と化した荷電粒子が放つ閃光が炎の照り返しすら上回り、周辺を真昼のように眩く照らし出す。瞬き一度にも満たぬ刹那の間に彼我の距離を消し飛ばし、狙い違わず巨獣に命中した。
甚大なる衝撃を受けた巨獣は、それでもなお強靭な脚部で地を噛み、堪えた。
が、それも一瞬だった。
如何なる物質だろうと耐えられぬ光線が真正面から直撃したのだ、その巨体は凄まじい勢いで吹っ飛ばされていく。
巨獣の体表で弾けた粒子が瀑布のように飛散し、周囲の建物を触れたそばから行き掛けの駄賃とばかりに融解させる。射線上に聳える超高層ビルは吹き飛ばされる巨獣によって千枚通しで突かれた紙の如く破砕され、崩落するより早く光線の熱波で飴細工のように溶解していく。
超高速で押し飛ばされていく巨獣の表皮は瞬く間に貫かれ、赤熱化する間もなく蒸発する。途轍もない熱量で副次的に発生した爆発が幾度も巨獣の筋繊維を破壊し、巨獣は悲鳴じみた絶叫を夜に投げながら、ついに海岸線まで行き着く。
呆気なく防波堤を砕き、爆発的な水飛沫を上げながら海を裂き、悶える事さえ許されない巨獣を睨みながら彼は決断する。
――爆ぜろ。
光線の出力を際限なく上げていく。想像を絶する威力に達した粒子は、途方もないギガジュールの熱量で周囲のイオン濃度を高める。きぃぃんと甲高い発射音が木霊する。
もはや巨獣の体躯は負荷限界を超え、そして、
大爆発。
激甚な衝撃波が海面を蹴散らし、亡骸と化す巨獣の全壊した躰が倒れる。
結果として、海面を砕く巨大質量と爆発が局所的な津波を巻き起こす。膨大な海水が時速数十キロの速度で海岸線に迫る。
巨人が史上初めてレベルⅢの巨獣を撃滅した瞬間だった。
パーリ仏典相応部六処相応
ここで負けて死ぬというのなら、それでも良かった。
三方を自然の要塞たる山々に囲まれたカグラ特別行政区の夜、巨獣と巨人の死闘があった。
《巨獣》という生物がいる。
正式名称は超自然発生巨大不明獣型生物。全高およそ二八メートルから一二〇メートル、その巨躯は未知の生体鉱物で構成され、平均移動速度は時速十三キロ程度だが経路に齎す破壊は天災そのもの。個体によっては特殊な攻撃能力を有している。破格の外皮硬度と途方もない膂力と恐るべき破壊力を内包し、巨獣はその圧倒的な暴力を惜しげもなく解放する。
三千万年前から地球に存在する、人知を超えた準完全生物である。
2024年7月10日。
その夜、塔の都・カグラ特別行政区に一体の巨獣が既に上陸していた。
沖合を巡回中の観測船が撃沈された――内閣情報集約センターから第1報を受けていた。
水上/潜水形態で陸地を目指していた巨獣に対し、イージス艦による砲雷撃戦が展開されたが効果は認められず。対艦ミサイルも効果なし。
続いてカグラ基地から緊急発進した要撃機二機がJDAMを用いた空爆を実施するが、進行を止められず。
そして現在、浜辺を越えて市街地を蹂躙している巨獣の姿を防災庁のヘリが捉えていた。ヘリテレから伝送された空撮映像で巨獣を確認している防災庁カグラ局合同庁舎第4号館の地下危機管理センターオペレーションルームは、騒然の坩堝と化していた。
同・幹部会議室の正面スクリーンで同じ映像を見据える局長は、傍らに座る副長に問う。
「勝利の塔が最終の発射態勢に入るまで、どのくらい掛かるの?」
「あと一時間は掛かる見込みです」
「待てないわね。被害が尋常でなく拡大している」
「仰る通りです。巨獣使いの緊参チームに参集指示が出ていますが……」
「内閣危機管理監は彼等に期待し過ぎね。そこら辺の巨獣使いで対処可能なら、もうとっくにケリをつけて、今頃私は報告書を書いてるわよ」
巨獣の猛烈な進行によって建物や電柱や道路標識は呆気なく倒壊し、電線共同溝が崩落した事で街は段階的な停電に見舞われ夜の闇に沈んだ。停電の際に一瞬だけ迸るスパークが夜闇に爪痕を残して消えた。もはや光源は火災の照り返しと月光と高層ビルの屋上で灯る赤色航空障害灯だけであり、そのLED式の明滅が不気味な火の玉に見える。
通常兵器による砲爆撃では巨獣を斃せない。だが、まだ打つ手立てはある。
即効性の高い確実な対策手段を取れる人物がいるとすれば――
局長は赤電話を手に取り、とある人物の応答を待つ。
その相手とは、巨獣大国たる日本の国防を担う人物である。
『すみません。降下ポイントをちょっとズラしてもらって、今走って……現場に向かって……ます……!』
「米国の再使用型宇宙往還機の着陸艇を無理やり降ろせば、もはや着弾すると言った方が適切でしょうね。人口密集地を避けた結果でしょ、機転の利いた判断だわ。流石ね」
『防災公園の管理担当者には……怒られるでしょう、けどねっ……』
返答には風切り音が混じり、市街地の屋上を跳び渡りながら目標に接近している。彼の体内に注入されたナノマシンのGPSで位置情報を追跡しているが、現在位置を示す光点が風もかくやな速度で移動している。そんな芸当が出来るのは世界広しと言えども、一人しかいない。
『……っと、目標を視認しました。あれは…………』
「君の目にはどう見える?」
『――巨獣が聞こえる……。……たぶんレベルⅢかもしれない』
息せき切って立ち止まる彼の声には愕然とした色がある。事態は危急存亡で絶望的だと判断し、局長は即決する。
「機甲科の射撃は即刻中止、一時退却させて。特科は待機維持、指示を待つように。住民の救護と避難誘導を優先、急がせて。彼を戦域に投入しても、足元を気にしていたら戦えない」
続いて赤電話越しに注意事項を伝える。
「市街地中心部の住民避難完了の報告を受けてないわ。でも沿岸部の第1指定区域内は、貴方が今いる地点から南西方向にかけてなら問題なしよ。いざとなったら徹底的にやって」
『本当ですか? 間違いありませんか』
「私は現場の判断を信じるだけよ」
間。
『あの巨獣は未知数です。長期戦だと不利になる。一か八かですけど、一気に決めます』
「自走榴弾砲の弾着に合わせて光線で仕留める、つまり速攻ね? 間接射撃の秒読みは射撃指揮所通信員の無線を聞いて」
『……周波数合わせました。では――往きます』
瞬間、閃光と響音が世界を震わせた。
巨獣の進撃で燃え盛る人口密集地に、それは現れた。
彼こそが、この世で唯一無二の巨人に変身できる個体――幻獣。
《河鹿家》という名家がある。
江戸時代から存在する武家であり、巨大化能力を獲得/継承する事で当時から朝廷や幕府に一目置かれていた家系である。
歴代で六体もの幻獣が輩出され、その中で彼は六代目――つまり当代当主だった。
身の丈四〇メートルの巨人は、轟々と荒ぶる火炎を物ともせず直立している。炎の照り返しでオレンジ色に見える煙が濛々と立ち込める只中で、その体表は異様な色彩を放つ。体色は白地に青いラインが走る模様で縁取られ、頭部は黒いバイザーに覆われ素顔は隠されている。
対して巨獣は巨人に匹敵する程の巨躯、地を踏み砕く二足歩行形態、闇を塗り固めたような漆黒の胴は漆の如き光沢を帯び、身体構造は神話上の龍にも似ている。
火災旋風に追われるように人々が逃げ惑う街中で、二体の巨大生物が対峙している。
巨獣には脅威度に応じた位階が設定されている。レベルⅠであれば木端の巨獣使いで撃破できる。レベルⅡであれば巨人が対応する。ではレベルⅢの場合はどうするか。
レベルⅢの巨獣と相対するのは、巨人にとっても初めての経験だった。
巨人の有する戦闘能力は戦略級であり、他の通常兵力を圧倒的に上回る。
しかし他の尋常の巨獣を遥かに凌ぐ巨人であってさえ、彼我の戦力差は未知数で、ともすれば絶望的な程のもの。
歴代の巨人達でもレベルⅢの巨獣を撃破したという公式記録は残されていない、この四〇〇年間で。
果たして、勝てる見込みがあるのか。
だが、戦った。
それこそが巨人の、彼が現世に産まれ落ちた時から定められた使命だから。
『弾着10秒……8……7……6……5……4……3……弾着、今!』
次の瞬間、特科が一斉に群射した弾丸が放物線を描いて巨獣の頭部に降り注ぐ。巨獣に直撃する寸前に頭上で同時に爆発を起こし、衝撃と破片が容赦なく巨獣を襲う。爆炎に呑まれた巨獣の視界が立ち込める黒煙で束の間だけ不明瞭になった――その瞬間を逃さない。
巨人は素早く射撃態勢に移行する。防御の水平、攻撃の垂直。左手を垂直に構え、右手を水平に添える。さながら左手は銃身、右手はまるで銃身を支える為の二脚。
巨獣にとって榴弾は路傍の石にも満たぬ些事に過ぎないだろうが、それ故に囮として機能する。その一手先の射撃こそ本命に他ならない。
巨人の体内で規格外の獣力が漲る。左手に収束していく獣力の余剰分が周囲の空間を歪ませ、陽炎のように揺らめく。
射撃点に一極集中させた獣力は解放の時を待ちわびて、青白いスパークを夜闇に刻みつける。
巨人が単騎で有する最強の攻撃能力――未だかつて人類が実用化できていない熱光学兵器。一撃で巨獣を屠る事に最適化された巨人にとって最後の切り札。それを初手でぶち込む。出し惜しみなど絶対にしない。発射してしまえば最後、巨体故に緩慢な動作しかできぬ巨獣に回避など不可能。いかに堅牢な外皮でも容易く焼き切り、異常な熱量と驚異的な貫通力の前では如何なる防御も意味を為さない。
彼の必殺技は、亜光速の速度域で精密に狙撃する荷電粒子砲である。
――吹っ飛べ。
発射、
大気をプラズマ化させる雷霆が闇を貫き、弾体と化した荷電粒子が放つ閃光が炎の照り返しすら上回り、周辺を真昼のように眩く照らし出す。瞬き一度にも満たぬ刹那の間に彼我の距離を消し飛ばし、狙い違わず巨獣に命中した。
甚大なる衝撃を受けた巨獣は、それでもなお強靭な脚部で地を噛み、堪えた。
が、それも一瞬だった。
如何なる物質だろうと耐えられぬ光線が真正面から直撃したのだ、その巨体は凄まじい勢いで吹っ飛ばされていく。
巨獣の体表で弾けた粒子が瀑布のように飛散し、周囲の建物を触れたそばから行き掛けの駄賃とばかりに融解させる。射線上に聳える超高層ビルは吹き飛ばされる巨獣によって千枚通しで突かれた紙の如く破砕され、崩落するより早く光線の熱波で飴細工のように溶解していく。
超高速で押し飛ばされていく巨獣の表皮は瞬く間に貫かれ、赤熱化する間もなく蒸発する。途轍もない熱量で副次的に発生した爆発が幾度も巨獣の筋繊維を破壊し、巨獣は悲鳴じみた絶叫を夜に投げながら、ついに海岸線まで行き着く。
呆気なく防波堤を砕き、爆発的な水飛沫を上げながら海を裂き、悶える事さえ許されない巨獣を睨みながら彼は決断する。
――爆ぜろ。
光線の出力を際限なく上げていく。想像を絶する威力に達した粒子は、途方もないギガジュールの熱量で周囲のイオン濃度を高める。きぃぃんと甲高い発射音が木霊する。
もはや巨獣の体躯は負荷限界を超え、そして、
大爆発。
激甚な衝撃波が海面を蹴散らし、亡骸と化す巨獣の全壊した躰が倒れる。
結果として、海面を砕く巨大質量と爆発が局所的な津波を巻き起こす。膨大な海水が時速数十キロの速度で海岸線に迫る。
巨人が史上初めてレベルⅢの巨獣を撃滅した瞬間だった。
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