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第五章 皇帝の寵姫として

第39話 一心同体

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「そんなこと」
「今すぐ吹っ切れなんて言われても、現実味がないだろうから仕方がないさ。ただ、少しづつでも距離ができて、お前の中でレナのことを考える時間が減っていくのを許してやれ」
「……うん」
「俺はいじらしいぐらいお前を慕う陛下がなんだか健気でね。お前はお前で、やっと公娼から抜け出せたんだ。俺はお前に感謝をしている。だけどレナがそれを拒否するのなら、それもレナの生き方なんだと思うよ、俺は。必ずしも後宮に召し上げられることがレナの幸せとは限らないじゃないか」

 そうなのだ。
 レナは離宮でアルベルトと戯れる、かつての下男を間近で見せつけられるぐらいなら、公娼に残ることを選んだのだ。
 
「そろそろ地図の方に目をやる気持ちになったか? サリオン」
「ああ、そうだったな」
「やっぱり気のない返事だな」

 ミハエルが苦笑し、サリオンはうつむいた。

「ミハエル。すまないけれど少しひとりになって考えたい」

 今ここでミハエルとともに庭の配置を楽しむ気にはなれそうもない。
 窓際の椅子に腰かけながら、空や川を眺めていたい。
 レナがいないと、疲れてしまう自分がいた。

「わかった。俺は王宮内を歩いてみるよ。陛下は俺にも好きな時に王宮内や後宮を散策してもいいと仰って下さったからな」
「ありがとう」
「いいさ、気にするな」

 そういって部屋を出たミハエルの足音がすぐに遠のき、消えていく。

 一人になって何を考えればいいというのか。
 
 窓辺に設えられた背もたれ付きの長椅子に腰かけて、身体に密着するような曲線を描いた椅子にその身を預けて胸の中で呟いた。
 一心同体。
 レナは自分でもあり、自分はレナでもあるからだ。
 レナもきっとこうして放心しながら、窓から外を眺めているに違いない。

 けれどもレナは今夜も望まない性交に身をやつし、自分はのうのうと皇帝からの寵愛を享受する。
 やましさからは逃れられない。

 
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