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第二章 死がふたりを分かつとも

第50話 アルベルトの思い込み

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「ほら、冷めないうちに食っちまえよ。アルベルト陛下は、お帰りになられる時、自分が饗宴で注文した料理の残りは、これからも館で働く者達にふるまうように、館の主人に命じられたそうだ。特に、サリオンには、専用に取り置くようにということと、温かい肉料理を食わせてやるようにとの、仰せだった」

 テーブルの銀の盆に並んだ料理のメインの焼き肉の皿に掌を向け、ミハエルは冷やかすような意味深な眼差しを向けてきた。

「温かい肉料理……」

 呟いたサリオンの中で、先日アルベルトと 貧民窟ひんみんくつで交わした会話が一気に蘇る。


 裏路地の立ち呑み屋まで押しかけてきたアルベルトに、貧民窟では表通りに面した食堂ですら、せいぜい安い鶏肉か、豚しか提供されない。

 それでも肉は高級品だ。

 奴隷のオメガ達は、水で薄めたワインを呑み、安価な魚の塩漬けや蒸し煮の貝類、果物、オリーブの実や肌理の粗いパンやチーズといった、変わり映えのしない食事で、空腹をただ満たしている。


 それを知ったアルベルトは衝撃を受けたように瞠目した後、精悍な眉を寄せていた。

 アルファ階層の頂点に立つ皇帝なんかと、オメガの奴隷が同じ物を口にできるはずがない。そんな当たり前の現実に、今更どうして憤慨なんてするのだろう。

 アルベルトは別段何も言わなかった。サリオンも追及したりしなかった。

 それを改めて思い返した。


 あの時までアルベルトは、自分が公娼を訪ねるたびに用意させた大量の料理は、下働きの自分達が食べていると、思い込んでいたのだろう。


 クルム国特有の慣習を 踏襲とうしゅうしている公娼では、男娼は くらいに応じて遇される。
 同じように下働きでも、『廻し』といった役職にさえ就いていれば、ある程度は厚遇されると、みなしていたのかもしれない。

 たとえば、客が残した料理を、賄いとして食することは許されるというような、ささやかな恩情ぐらいは館の主人にかけてもらっているのだろうと。

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