たましいの救済を求めて

手塚エマ

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第五章 畏怖と差別と偏見と

第三話 けじめの時

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 やはり羽藤のカウンセリングは、ある意味自分のためのものであり、自分の問題でもあるのだろう。

 ともすれば、また考え始めてしまうため、麻子はテレビのリモコンを手に取った。

「チャンネル変えてもいい?」
 
 ニュース番組になっていたのだが、気楽なバラエティ番組で気分を変えたい。
 麻子がテレビにリモコンを向けていると、圭吾が顔を伏せつつ言い出した。

「麻子さ、年末どうしよっか」
「んー……、どうしよう。圭吾はどこか行きたいとこ、ある?」

 圭吾と付き合い始めてからはずっと、年末年始は互いに実家に帰省して、年明けの三が日のうちには戻って来ていた。そして、ふたりで初詣に行くのが慣習になっている。

 麻子は糠漬けのかぶを摘まみつつ、圭吾に視線だけ向ける。
 この糠漬けも、圭吾がお婆様から譲り受けた糠床で、圭吾が漬けた自家製だ。

「俺さ。親には麻子の話はしてるから。年末年始は一緒に俺の実家に顔を出してくれると嬉しいんだけど……」

 圭吾は小皿に取り分けた唐揚げに、櫛切りレモンを絞っている。
 いつになく歯切れの悪いボソボソとした口調で聞き取りにくかった。麻子はテーブルの角を挟んで対角に座る圭吾に、思わず上体を傾ける。

「……えっ? なに?」
 
 どうして私がわざわざと、麻子は圭吾に問い質しかけて固まった。

「え……っと」

 顔がじわじわ熱くなり、麻子は言葉を詰まらせる。
 圭吾は手についたレモンの果汁を手近なティッシュで拭っている。

 置いた箸を取ろうとせずに、あぐらをかいた両足首を両手で握り、俯いた。

「なにも、いきなり俺の実家に泊まれとか、言っているんじゃないからさ。日帰りだけでも……、ちょっとだけ」
「私のこと、どんな風に話したの?」
「結婚したいと思ってる人だって」

 もじついた圭吾は麻子の問いには、きっぱりと俊敏に返事をした。

 顔を上げた圭吾と目が合った。切羽詰まった目の色だ。
 まるで断われるのを前提としたような悲壮な圭吾に気圧される。

 どうしてと、麻子は胸中で呟いた。

 なぜ、そんなにも拒絶されると身構えているのだろうか、結婚を。
 どうしてこの関係を、結婚にまで発展させられないかもしれない覚悟を持って臨むのか。

「私のこと話した時、ご両親はなんて仰ったの?」

 どこまで話をしたのだろう。

 出会いは医大の英研だったこと。
 圭吾は卒業後、医師ではなくて、あん摩マッサージ鍼灸師になり、現在の療法院を開設した。

 麻子はアメリカに留学して大学院に通ううち、精神科医ではなく、より深く濃く患者に寄り添う臨床心理士を目指すようになり、実際にそうなった。

 お互い医学の道はたがえたが、患者に向き合う姿勢や意見に相違はない。
 恋人でもあり、頼もしい同志でもあり続けてきた。
 圭吾の支えなしでは耐えきれなかった試練にも見舞われた。


 「私が心療内科のカウンセラーだってこと、話したの?」

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