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第二章 綾なす姦計

第十八話 沖田の要請

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 気炎きえんを上げる沖田に千尋は目を剥いた。 
 ほとんど奇襲に近かった。
 あきらかに様子が違う沖田をまじまじ見つめると、目顔で佑輔の意思を問う。

「いいでしょう。私もご一緒致します」

 佑輔は聞かれるまでもないといった顔つきだ。
 
 どうやら話の本筋は佑輔に関与するらしい。
 だとしたら、ふたりに自分の目の届かないところで話をされるよりはと、算段した。


「わかりました。どうぞ、お上り下さい」

 千尋は退き、店の奥へと沖田を招く。
 その際、沖田は抜いた刀を差し出しかけたが、一笑した。

「この店は私の陣地です。私の他にも刀の使い手は数多あまたいる。帯刀たいとうしてもしなくても、あなたは飛んで火に入る夏の虫になりかねない。用心なさい」

 と、笑った千尋が案内したのは、緋毛氈ひもうせんが畳に敷かれ、テーブルと椅子が配された西洋風の奥座敷。
 店子から花模様の洋磁器で赤みがかった茶を供されて、沖田は顔を近づける。


「これは何というお茶なんですか? 良い香りですね。色もきれいだ」  
 
 茶器の柄を持ち、洋磁器までをも観賞しながら千尋に訊ねる。


「イギリスの紅茶というものです。お口に合えば幸いです。嗅げば、気分が和らぐ作用もありますよ」 
「蔦屋さんには珍しいものがたくさんあって、おもしろい」
 

 沖田は素直にひと口啜る。
 少なくとも敵陣だという緊張感はないらしい。
 
 受け皿に茶器を戻し、沖田は紅茶を見つめたまま言う。


「……穏やかに話が出来ればいいんですが」
「怖いですね。穏便にカタのつかないお話ですか? たとえば、あなたの上役が三百両と芹沢鴨の首では、ご納得下さらなかったとか」
 

 口では怖いと言いながら、冷やかすように首をすくめて笑んでいる。


「申し訳ございません」
「あなたが謝ることではありませんよ」
「ただ、あなたほどの人が、相手の質を見極めもせず、喧嘩を売ったとは思えませんが……」
「何をおっしゃる。私はただの呉服屋ですよ。かいかぶられても困ります」
 

 沖田からの追及を、のらりくらりとかわしたが、息を凝らして隣に座る佑輔の視線を、痛いぐらいに感じていた。


「お察しの通り土方は、あなたが幕府の要人だということには何の脅威も感じません。壬生組か、もしくは会津藩にとって不可欠な存在でなければ、遅かれ早かれ、手に掛けるでしょう」
「ゆすり屋に立てついたら逆恨みをされ、見せしめに闇から闇に葬られるって訳ですか。まったく割りに合わない話です」
「それは私も同感です。悪いのはこちらの方だ」


 鼻で笑った千尋に沖田は弱り切った顔になる。


「しかし、土方の気質は変えられない。だとしたら、あなたには、土方にとって、かけがえのない存在になって頂くよりほか、ありません」
 
 沖田の背後の障子から射し込む日射しが薄くなる。

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