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番外編【ディル編】
2. 馴れ初め2
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その力強さに一瞬、驚く。しかし、殿下は私の手首を握ったまま顔を上げようとしない。
「この数日、何をしていたんだ?」
「えっ…何が…ですか?」
その瞬間、力が込められる。
「(痛っ…!)」
「この数日、全然ここに来なかったじゃないか!」
殿下は私を責めるように声を荒げた。
「確かにそうですが…。テストが近いので先生に分からないところを聞きに行っていただけです…。」
私がそう答えると殿下の力が緩む。
「…そうか。」
何故か分からないが、納得してもらえたらしい。
「殿下、ここで休まれては風邪をひいてしまいます。お屋敷でお休み下さい。」
私がそう伝えると「…そうだな。」と言い最後まで目も合わせず去って行った。
「(何だったんだ…?)」
テストが終わり数日経った。
この学校では成績優秀者上位50名のみ順位が発表される。
「(今回はいつも以上に頑張ったから1位だろう。)」
私はそんなことを思いながら順位表を見る。すると案の定、私が1位に返り咲いていた。
「(やった!)」
と内心、ガッツポーズを取り殿下の順位を見る。
「(…5位?…殿下…予想が外れたのか?)」
ふと隣を見ると騒がしい集団がいる。その輪の中心には殿下が立っていた。
「殿下!今回は予想が外れたのですね!」
「こんな時もあります!次回は頑張って下さい。」
そんな励ましの言葉を受けて殿下は「…そうだね。」と笑っている。その表情は笑っているようだが、困っているようにも見えた。
「(…?まぁ私には関係のないことか。さぁ教室に戻ろう。)」
私は殿下の様子は気にせず、教室に戻った。
それから殿下と合わない日が続いた。何故なら私が図書館に行かなくなったからだ。私は前回のテストで殿下と大きく点数の差をつけて1位になったことから前ほど頑張らなくてもキープ出来ると考えていた。
「(前のはマグレだろう。)」
私がそう思いながら勉強をしていると珍しく部屋の扉がノックされる。
「はい。」
「私だ、開けても良いか?」
「(父様…?)
はい、大丈夫です。」
父様を招き入れると、そこで衝撃の事実を知った。なんと愛しいフェルがタジェット兄様に殴られたと言うのだ。事情を聞くとフェルが無断で騎士団に潜入したことから侵入者の仲間として尋問され、その際に殴られたそうだが、どんな理由があるにせよ、フェルが殴られたことには変わりない。これはあの憎らしい兄様と差を付けるチャンスではないか。
私は父様の話も早々に、すぐにフェルの部屋へと向かった。フェルは終始、自分に非があると言い兄様を庇っていた。それに私は苛つき思わずキスしてしまう。フェルの表情は戸惑っていたが、こんな可愛いフェルを殴った兄様にフェルは渡せない。私はタジェット兄様がフェルを弟としてではなく1人の人間として愛していることを知っている、そしてフェルも兄様に対してそんな節がある。私はそれが気に食わなかった。それならいっそ私が、と思ってしまう。
それにこの1ヶ月ほど、フェルが兄様に会えず気落ちしていることにも腹が立った。
「(何故…!?兄様ではなく私を選べばいいのに!)」
そんな苛々とした気分のまま、1ヶ月間を過ごしていたが、このままではまたテストに支障をきたすと思い気分転換に図書館へ行くことにした。
「(好きな本でも読んで気を紛らわせよう…。)」
そう思い、久しぶりに図書館の扉を開けた。すると中には殿下が。前から不思議に思っていたが、私が図書館に訪れる時、何故かいつも殿下と2人きりなのだ。殿下は集中しながら本を読んでいたので邪魔にならないように私は本を探す。暫く探し回り、目的の本を手にした。少しその場で立ち読みをしていると「ディル・ローランド。」と話し掛けられた。本から顔を上げると殿下が隣にいた。
少し驚きながらも「殿下…?」と返事をする。
「私のことは殿下ではなく、ファーと呼んでくれ。」
「(えっ…なんで?)
それは一体…どういうことでしょうか?」
「この1ヶ月ほど機嫌が悪いようだが、どうかしたのか?」
「(私の質問には無視なのか。)
あっ…あの…家の方で問題がありまして、少し気が立っておりました。」
「…そうか、その悩みは私に話せないことか?」
「(えっ…いやなんで殿下が聞いてくるんだ?)
はぁ…そんな殿下の耳に入れるように話ではないです。」
「……少しでも君の負担を減らしたいのだがな。」
そう呟く殿下の意図が分からない。
「…お心遣い感謝致します。」
私はそれから学校の行事などで忙しくなり、前以上に殿下に会わなくなった。そもそもクラスも違うし、接点もない。唯一、あの図書館で出会うだけだ。私はさほど気にせず作業を続ける。
そんなある日、殿下の従者であるという者に呼ばれた。その者に着いていくと図書館に辿り着く。
「どうぞ、中へ。」と促され、中へと進む。そこにはファー殿下が待ちに待ったと言わんばかりに私を抱き締めてきた。
「(えっ…何?どうなってるの?)」
私は相手が殿下である為、突き飛ばしたりも出来ず只々、固まっていた。
「あの…殿下?」
とやっとの思いで言葉を発すると「ディル、好きだ!」と告白される。
「(えっ!?どういうこと!?)」
「この数日、何をしていたんだ?」
「えっ…何が…ですか?」
その瞬間、力が込められる。
「(痛っ…!)」
「この数日、全然ここに来なかったじゃないか!」
殿下は私を責めるように声を荒げた。
「確かにそうですが…。テストが近いので先生に分からないところを聞きに行っていただけです…。」
私がそう答えると殿下の力が緩む。
「…そうか。」
何故か分からないが、納得してもらえたらしい。
「殿下、ここで休まれては風邪をひいてしまいます。お屋敷でお休み下さい。」
私がそう伝えると「…そうだな。」と言い最後まで目も合わせず去って行った。
「(何だったんだ…?)」
テストが終わり数日経った。
この学校では成績優秀者上位50名のみ順位が発表される。
「(今回はいつも以上に頑張ったから1位だろう。)」
私はそんなことを思いながら順位表を見る。すると案の定、私が1位に返り咲いていた。
「(やった!)」
と内心、ガッツポーズを取り殿下の順位を見る。
「(…5位?…殿下…予想が外れたのか?)」
ふと隣を見ると騒がしい集団がいる。その輪の中心には殿下が立っていた。
「殿下!今回は予想が外れたのですね!」
「こんな時もあります!次回は頑張って下さい。」
そんな励ましの言葉を受けて殿下は「…そうだね。」と笑っている。その表情は笑っているようだが、困っているようにも見えた。
「(…?まぁ私には関係のないことか。さぁ教室に戻ろう。)」
私は殿下の様子は気にせず、教室に戻った。
それから殿下と合わない日が続いた。何故なら私が図書館に行かなくなったからだ。私は前回のテストで殿下と大きく点数の差をつけて1位になったことから前ほど頑張らなくてもキープ出来ると考えていた。
「(前のはマグレだろう。)」
私がそう思いながら勉強をしていると珍しく部屋の扉がノックされる。
「はい。」
「私だ、開けても良いか?」
「(父様…?)
はい、大丈夫です。」
父様を招き入れると、そこで衝撃の事実を知った。なんと愛しいフェルがタジェット兄様に殴られたと言うのだ。事情を聞くとフェルが無断で騎士団に潜入したことから侵入者の仲間として尋問され、その際に殴られたそうだが、どんな理由があるにせよ、フェルが殴られたことには変わりない。これはあの憎らしい兄様と差を付けるチャンスではないか。
私は父様の話も早々に、すぐにフェルの部屋へと向かった。フェルは終始、自分に非があると言い兄様を庇っていた。それに私は苛つき思わずキスしてしまう。フェルの表情は戸惑っていたが、こんな可愛いフェルを殴った兄様にフェルは渡せない。私はタジェット兄様がフェルを弟としてではなく1人の人間として愛していることを知っている、そしてフェルも兄様に対してそんな節がある。私はそれが気に食わなかった。それならいっそ私が、と思ってしまう。
それにこの1ヶ月ほど、フェルが兄様に会えず気落ちしていることにも腹が立った。
「(何故…!?兄様ではなく私を選べばいいのに!)」
そんな苛々とした気分のまま、1ヶ月間を過ごしていたが、このままではまたテストに支障をきたすと思い気分転換に図書館へ行くことにした。
「(好きな本でも読んで気を紛らわせよう…。)」
そう思い、久しぶりに図書館の扉を開けた。すると中には殿下が。前から不思議に思っていたが、私が図書館に訪れる時、何故かいつも殿下と2人きりなのだ。殿下は集中しながら本を読んでいたので邪魔にならないように私は本を探す。暫く探し回り、目的の本を手にした。少しその場で立ち読みをしていると「ディル・ローランド。」と話し掛けられた。本から顔を上げると殿下が隣にいた。
少し驚きながらも「殿下…?」と返事をする。
「私のことは殿下ではなく、ファーと呼んでくれ。」
「(えっ…なんで?)
それは一体…どういうことでしょうか?」
「この1ヶ月ほど機嫌が悪いようだが、どうかしたのか?」
「(私の質問には無視なのか。)
あっ…あの…家の方で問題がありまして、少し気が立っておりました。」
「…そうか、その悩みは私に話せないことか?」
「(えっ…いやなんで殿下が聞いてくるんだ?)
はぁ…そんな殿下の耳に入れるように話ではないです。」
「……少しでも君の負担を減らしたいのだがな。」
そう呟く殿下の意図が分からない。
「…お心遣い感謝致します。」
私はそれから学校の行事などで忙しくなり、前以上に殿下に会わなくなった。そもそもクラスも違うし、接点もない。唯一、あの図書館で出会うだけだ。私はさほど気にせず作業を続ける。
そんなある日、殿下の従者であるという者に呼ばれた。その者に着いていくと図書館に辿り着く。
「どうぞ、中へ。」と促され、中へと進む。そこにはファー殿下が待ちに待ったと言わんばかりに私を抱き締めてきた。
「(えっ…何?どうなってるの?)」
私は相手が殿下である為、突き飛ばしたりも出来ず只々、固まっていた。
「あの…殿下?」
とやっとの思いで言葉を発すると「ディル、好きだ!」と告白される。
「(えっ!?どういうこと!?)」
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