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第3章

173. コインマジック

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「私を置いて行かないで下さい!私1人では相手仕切れません!」と怒っている。しかしタンジー殿下は「すまないな、オレガノ。知り合いがいたのでな。」と相手にしてない様子。

「カラマス、フェンネル、紹介しよう。弟のオレガノだ。」

「初めまして、私はオレガノ・グランド7歳です、宜しくお願いします。」

「オレガノ殿下、初めましてカラマス・セイボリーです。祖父がお世話になっております。」

「…セイボリー家…。宰相のところですね、こちらこそお世話になっております。」

「(なんか…あの時に会った時とは印象が全然違う…もっと子供っぽい子だったのに…。やっぱりこういう社交場ではキチンとしないといけないのかな…。)あの…オレガノ殿下。私はフェンネル・ローランドです。これから光栄にも親戚となります、宜しくお願い致します。」

とこちらも頭を下げる。

「フェンネル…?…フェンネル…あの間違っていたら申し訳ありませんが以前一度、私とお会いしてますか?」

オレガノ様は名前で気付いたようだ。

「…はい。あの時はフードを被りお顔は晒してはいませんでしたが…。」と伝えると「あの時の商人か!」と抱き着かれた。

僕はビックリしたものの殿下を抱き止め「はい。」と答えた。

その様子にカラマス君もタンジー殿下も目を丸くしていたがいち早く気付いたタンジー殿下が引き剥がしてくれる。

「オレガノ!いきなり何をするんだ!失礼だろう!」

「フェンネル!顔に火傷はしてなかったのだな!それは良かった!それより、あの時の約束を!」

とオレガノ様は先程までのキチッとした態度は何処へやら、年相応の男の子に戻ってしまった。

「あっ…はい、それは構わないのですが此処でですか?
(こんなパーティー会場でやるの!?)」

「ああ、そうだ!…ダメか…?」

と可愛らしい少年に上目遣いをされると頷くしかない。

「…構いませんよ、やりましょう。」と僕は答えた。

会場の隅のテーブルを借り、コインマジックを始める。いつの間にかギャラリーが増えてしまった。念の為、殿下にはあまり期待しないでほしいことは伝えてある。しかし、殿下の目はキラキラと期待しており、それ以上は何も言えなかった。

「では、始めます。」

僕はまず初めにコインを片手に入れ、握りしめる。もう片方の手も握りギャラリーには両拳を見せている。そのまま両拳をギュッギュッと握ると片手に入れたコインが反対側に移動しているというマジックを見せた。それだけで「おぉ!」という歓声が上がる。そして次に殿下の耳や腕から消えたはずのコインが出てきたり、最後は殿下のポケットからコインが現れるというのをやった。するとギャラリーからは拍手喝采で、僕はどうにも居た堪れなかった。

殿下にも「凄い!凄い!」と褒められ、どうなってるんだ!?と種明かしを求められる。こちらがお教えしようとしたところでファンファーレが流れ始めた。

「さぁ殿下、始まりますよ。」と促し、その場は収まったが殿下は名残惜しそうにこちらを見ていた。







ファンファーレと共に現れたファー殿下とディル兄様はとても煌びやかで美しかった。ディル兄様は華やかな衣装を身に纏い、若干顔を赤らめた状態で出てきた。緊張しているんだろう。ゆっくりと現れた2人は拍手を送る皆に手を振り、舞台中央に用意してある座席に座った。そしてファー殿下の挨拶が始まった。

挨拶が終わると皆、殿下とディル兄様の元に歩み寄り、祝いの言葉を口々に口にする。それに笑顔で最後まで対応する2人が凄い。若干、ディル兄様は疲れているように見えたが。

それから一先ず、その場が収まるとオレガノ殿下が再びマジックの種を聞いてくる。僕は出来るかぎり丁寧にわかりやすく伝えた。すると殿下も「頑張って練習するから!」と言ってくれた。

その日の婚約式は大きなトラブルもなくスムーズに終えることができた。しかし、トラブルは婚約式後に起こった。

タンジー殿下が倒れたのだ。

急いで僕はタンジー殿下の部屋に訪れた。殿下を見るとあの時の様に荒い呼吸をしながら胸を押さえている。

「(やはり持病が…。)」と思いながら手の平をかざす。暫くすると殿下の呼吸も落ち着いてきた。その様子を側で見ていたオレガノ殿下は目をウルウルとさせながらタンジー殿下を見つめている。

「オレガノ殿下…もう大丈夫ですよ、とりあえず落ち着きました。」

と声をかけるも「でも…兄様のこの病気はずっとなんだ…治る見込みがないって。」と呟く。僕は静かに殿下の頭を撫でると「担当医官に聞いてきます。」と声をかけた。
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