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第3章

152. 交渉

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僕とベイローレルさんは顔を見合わせると

「タイミング悪いな。俺らはギルドで身分証の発行をしてもらったからいいものの普通のやつは身分証なんてないぜ?」

「そうなんですか…でもいきなり何なんでしょうね?」

「さぁ…?まぁそいつがどんだけ偉いかはわからねぇが周りに迷惑かけていることはわかってて欲しいぜ。」

「そうですね…。」

こんな会話をしながら入り口を見つめる。

そこでふとある考えが浮かびベイローレルさんに耳打ちした。

すると「おい、余計なお節介焼くつもりか。」と呆れられた。でも諦めずにお願いする。ベイローレルさんは暫く黙っていたが「はぁ~…。」と溜息を吐き、先程の商人に話しかけた。

「なぁ、余計なお節介かもしれねぇけどよ、その荷物、中に運んでやろうか?」

すると「えっ!?いいのか!?」と商人は喜んだがすぐに「でも…。」と渋りだした。

たしかにそうだ。見知らぬ人物に荷物を運んでやる、と言われても信用出来ない。むしろ、そのまま荷物を盗まれる可能性の方が高い。そこで僕はベイローレルさんに耳打ちし、そのまま商人に伝えてもらった。

「急に言われても信用出来ないのはわかってる、だからこの荷物を俺らが買い取ってその金をお前に渡す、で、俺らはこの荷物を届け先に届けて金をもらう、これでどうだ?不公平じゃないだろ?」

「たしかに…でもなんでそんなこと言ってくれるんだ?」

「俺だって不本意だけどよ…コッチのおチビちゃんがそうしたいんだとさ。」

と親指でクイッと指差されながらベイローレルさんに言われてしまった。




その後、交渉は上手くいき届け先の住所と名前、商人の名前を聞いた。そのメモを持った僕達は入り口で身分証を提示し街の中に入る。

するとすかさずベイローレルさんが

「なぁフェンネル、なんでそんなこと引き受けたんだ?お前、急いでるんじゃなかったのか?」

と質問してくる。

僕はなんて返そうか迷ったが怒られる前提で本心を言うことにした。

「…ただの気まぐれって言ったら失礼ですけど、あの人困ってたみたいだし、僕もそういうの見てたら助けてあげたいな、って思っちゃうんです。それにナマモノもあるって言ってたし。日数についてはある程度、考えてはいますけど夏休み中に家に帰れたら大丈夫なのであって無いようなものです。あっ…でもベイローレルさんの都合を考えてませんでしたね!?すみません…勝手に決めてしまって…。」

と謝った。

「…いや、俺は別に急用があるわけじゃないけどよ。でも、色んなことに首突っ込むことねぇんじゃねぇかって思うんだよ。」

「そうですね…すみません。僕、こういう旅をしたことないって前言ったじゃないですか、だからこういう出会いも旅ならではだって思っちゃうんです…すみません、楽観的で。」

「そうか…ん~まぁいいさ。フェンネルにとってこの旅で訪れる出来事がいい思い出になるんならさ。」

「ありがとうございます、ベイローレルさん。」

そのベイローレルさんの寛大さに助けられつつ、僕達は教えられた住所に辿り着いた。





「凄い大きな建物ですねぇ…。」と僕はその建物を眺める。ベイローレルさんも「そうだな…なんの建物だ、これ?」と見つめた。その間、門番に怪しい目で見られていたことには気付いていなかった。暫くその建物を眺めるとベイローレルさんが門番に話しかける。

「すみません、こちらにカルダさんはいますか?ナムさんから頼まれて品物を届けに来たんですけど。」

そう丁寧に話しかけたつもりが門番に睨まれる。

「お前達、何者だ。その品物、本当に頼まれたものなのか?」

と疑われてしまった。仕方なくベイローレルさんは身分証を提示し怪しいものではないことを示す。そこでなんとか中に入れてもらうことができ、僕達は荷台を押しながら裏口へと急いだ。裏口の扉をノックし中から出てきたのは料理人の格好をした男性だった。

「あなたがカルダさんですか?」

「ああ、そうだ。」

「ナムさんに頼まれて品物を届けに来ました。ナムさん、街の入り口で立往生してたので俺達が代わりに持ってきましたよ。」

「そうか…身分証のことを言うのを忘れていてどうしようかと思っていたところだ、助かった。じゃあ品物代を支払うから中に入ってくれ、それに悪いが運ぶのも手伝ってもらっていいか?」

「ああ、わかった。フェンネル、ちょっと中に運んでくる。すぐ戻るからココで待っててくれ。」

そう言われたので僕は「わかりました。」と返事をし、建物の壁にもたれてベイローレルさんを待つことにした。

すると「おい、そこの怪しいやつ!何者だ!」と叫ばれた。するとそこには僕を指差す7歳くらいの男の子が立っていた。
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