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第3章

138. 交渉

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「ふぅ~…いざ前にすると緊張するな…。」とベイローレルさんが呟く。

あれから僕達は街の人達の署名を手に取り立て屋の建物へと向かった。

今は扉の前である。

ベイローレルさんは扉に備え付けてあるドアノッカーを鳴らした。

少しすると執事のような人が現れ「どのようなご用件でしょうか?」と聞かれる。「(えっ…意外にちゃんとしてる…。)」と驚いていると、隣から雰囲気を変えたベイローレルさんが口を開いた。

「突然、失礼致します。私はこの周辺の土地の売買を行っている者でございます。こちらのご主人にとても良いお話をお持ちしましたので、お取り次ぎをお願い出来ますか?」

「…確認致しますので、暫くお待ちください。」

執事は若干、疑わしい目をしたが"土地の売買"という言葉に反応したのか中へ確認しに行った。

「なんとか第1関門は突破出来そうだな。きっとアイツは雇われだろう…もしアイツらの仲間だったら扉さえ開けてもらえねぇ。」

ベイローレルさんはそう言うとニヤッと笑った。

それから少しして執事が戻ってきた。

「主人が詳しく話を聞きたいそうです。お部屋までご案内致します。」

「はい、ありがとうございます。」

そう執事が振り向き直した瞬間、僕達は目を合わせてコクリと頷いた。

「では、こちらでお待ち下さい。」

案内された部屋は応接室のような場所で部屋の壁一面に本棚が並んでおり、本がギッシリと詰まっている。

執事が退室した後、ベイローレルさんはいきなり部屋の中をグルグル回り出した。「(いきなり何してんの!?)」と話しかけようとしたが、難しい顔をして考え込んでいるので話し掛け辛い。僕といえば「(なんか圧迫感あるなぁ…。)」と思ったくらいだ。暫くベイローレルさんは部屋を歩き回り納得すると「フェンネル。」と話し掛けてきた。

「なんかこの部屋、変じゃないか?」

「えっ?何処がですか?」

僕には全く見当もつかない。それよりも早く先程の行動について説明してほしい。

「この部屋に入った瞬間、変な匂いがしたんだ。」

「えっ?
(全くしなかったんだけど!)」

「何処で匂うのか部屋中、歩き回ってあの奥の本棚の前で匂うのがわかった。それに本棚をよく見てみろ。埃が被ってるところばかりなのに、その香る本棚だけが埃被ってない。つまり定期的に掃除しているか触ってるってことだ。じゃあなんであそこだけ掃除してるんだろうな?何かの目的の為に綺麗にされているって思わないか?」

そう言ってベイローレルさんが本棚に手を掛けようとした瞬間、ガチャと部屋のドアが開いた。慌ててソファーに戻るとベイローレルさんは何事も無かったかのように笑顔を浮かべた。

「お前が土地の売買をしているっていう奴か?」

「はい、そうでございます。急な来訪をお許し下さい。何度か仕事でこちらの街に伺ったとき、あなた様がこの辺りの土地を購入されていると聞いてあなた様にピッタリの良い話をお持ちしました。」

「(やはり黒幕が居たんだな…。)」

若干、グレーがかった金髪に恰幅の良い体格、服装は見るからに金持ちそうだ。

「へぇ~…そうか。詳しく聞こうじゃないか。」

「はい、ありがとうございます。ではまず、こちらの権利書と街の人々の署名をご覧下さい。」

「なんだこれは!?街の土地の権利書じゃないか。」

「そうでございます。この辺りの土地の購入をお考えならこちらにもう権利書がございます。サインをして頂ければ、すぐにあなた様のものでございます。」

「…そうか。街の人々を説得する手間が省けたな。」

そう言うと権利書にサインしようとペンを握った。

そのとき、ベイローレルさんが「それと1つご相談が…。」と言い出した。

「先程、申し上げた通りサインを頂ければこの辺一帯はあなた様のものでございます。その前に今までどうやって土地の売買を進めてきたか同業者として教えて頂きたいのです。」

その言葉に黒幕は少し考え出したので追い討ちをかけるようにこう話し掛ける。

「私共はあなた様にこの土地を売ってからこの街から手を引きます。なので、今後あなた様にご迷惑をかけることはないかと…。」

「なるほど…私とは今後一切関わらないということだな。いいだろう…見せてやる。」

黒幕はこの辺一帯の土地が手に入ることが嬉しいのか、こちらのことをさほど疑わず、そう告げた。

そして立ち上がると先程、ベイローレルさんが気になっていた本棚の前に立ち、何冊もある本の中から1冊だけを手前に引いた。その瞬間、ゴゴゴゴッと音を立てて本棚が隣へスライドし、地下へと続く階段が現れた。
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