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第1章
80. タジェット視点3
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それは自分の命よりも大切なフェルを殴ってしまったことだ。
あの日は定刻より早めに仕事が終わったので早く家に帰れると思っていた。しかし、予定外の侵入者と隊長も席を外していたことから私が対応せざるを得なくなった。
いざ侵入者と対峙した時、まさかフェルと同じ銀髪、緑目の容姿をしているとは思わなかった。
尋問をするにもやりにくいことこの上ない。
フェルと年齢も違う、顔の造形も違うがフェルを溺愛している私にとってはフェルを思い出させるには十分な条件だ。
それにこの侵入者は侵入した理由についても口を割らず、思わず手が出てしまった。そしてその隣にいた仲間であろう少年にも手を挙げた。
まさかそれが変装したフェルだったなんて…。
私は慌ててフェルを抱き寄せて医務室に連れて行った。
その後、フェルが目覚めるのを待ったが一向に目覚める気配がない。
私はフェルの手を握り、自分の行いを恥じていた。
すると「副隊長。」と呼ばれ顔を上げると先程、尋問の時に側にいた部下に声を掛けられた。
「なんだ。」と言うと「これがその少年の側に落ちていました。」と紙袋を渡された。
中を見てみると様々な形のクッキーが入っている。それを見た瞬間「(まさかこれを私に…?)」と気が付いた。
そしてそれと同時に身体が震えた。
私はなんてことをしてしまったんだ…!
フェルが私にわざわざクッキーを持ってきてくれたのにそれを無下にし、さらには殴ってしまうなんて…。
私は震える声で部下に「退がれ。」と命じた。
部下が部屋を出て行ったのを確認するとフェルの手を再び握り締めて静かに涙を流した。
その後、フェルを家に運び目が覚めるのを待った。
暫くするとフェルが目を覚ました。
私はフェルに気付き、すぐに謝ったが、どうすれば先程の罪が消えるのか分からず動揺する。
そんな私をフェルは抱き締めて許してくれた。こんなところもフェルを愛しいと思う要因の1つだ。私がしでかした罪を"仕事だから"と許してくれる。
さすがにフェルにキスしようとして拒否されたのはショックだったが、仕方ないと諦め、私はエリーに追い出されるように部屋を去った。
次の日から私は今回の侵入者の件で走り回ることになった。
侵入者が入ってきた経路や理由、バックにいる組織など調べることが多々あった。そのせいでほとんど家には帰れず、フェルのことが心配で会いに行きたかったがそれも出来ずにいた。
そして、やっと侵入者の件も落ち着き、フェルに会えると思ったが新たな問題が発生した。
近隣で起こった魔獣の暴走だ。
私は副隊長としてその討伐に参加しなければならず、またしてもフェルとは会えず終いだった。
早く魔獣を倒し、きっと寂しがってるであろうフェルに早く会いたくて無我夢中で魔獣を倒していった。
少しずつ魔獣の数が減り、部隊も落ち着きを取り戻した矢先、魔獣の1体が救護テントの方へ走って行くのが見えた。それを部下に頼み、私は残りの魔獣を倒しにかかった。
それが私の間違いだった。
その後、救護テントに行った魔獣が倒されたと報告を受け、騎士団に戻り、報告書を書いたところで帰宅した。
きっとフェルが「お疲れ様。」と出迎えてくれると思っていた。
しかし、帰宅した私を待ち受けていたのはベッドで静かに眠るフェルの姿だった。
慌てて父様に事情を聞くと、救護テントに行った魔獣を倒したのはフェルであり、候補生を庇って倒れたと聞いた。
またあの時の光景が思い浮かんだ。
私がフェルを殴り、床に伏せっている光景だ。
しかし、今回はその比ではない。
もしかしたらこのままフェルは目を覚まさないかもしれない…。
あの時、私が部下に魔獣を任せず私自身が行っておけば…という考えが巡った。
またしても私はフェルを危険に晒し、さらに生死の淵を彷徨わせている。
こんな私はフェルに相応しくないのではないだろうか。
大切な人、1人も守れない私はフェルの隣にいるべきではないのではないか、そんな考えが溢れてくる。
周りからすれば"仕方ない"と言われるかもしれないが、私はそんな自分が許せないのだ。
私がもっと早く魔獣を倒せていたら、こんなに被害が広がらず、ましてやフェルが討伐に参加せずに済んだのに…。
私はこの時、フェルの隣に並んでも相応しくなれるように鍛錬に勤しむことに決めた。
途中、愛しいフェルに触れてしまうと決断が鈍ってしまう為、極力フェルには会わないでおこう。
そして私はフェルが目を覚ますまで寝顔を眺めるだけに留め、フェルには一度も触れなかった。
しかし、あれだけフェルに触れていた私はフェルに触れることが出来なくなり、禁断症状なのか何においてもやる気が出なくなった。
身なりなどどうでもよくなり、とりあえず騎士団の業務に差し支えなければ良いと思っていた。
時間が出来るとフェルのことを考えてしまうので暇な時間が出来ないように仕事を詰め込み、または競技場で練習に明け暮れた。そのおかげで筋力などはついたが、心は少しも満たされなかった。
その心を埋めるように私はフェルに似た容姿の者を抱くようになった。
勿論、心などない、唯の性欲処理だ。
皆、何が良いのか、それでも良いと言って身体を差し出してくるので来るもの拒まずで抱いていた。
それがいけなかったのだろう…後々、フェルにバレてしまうことになろうとは…。
あの日は定刻より早めに仕事が終わったので早く家に帰れると思っていた。しかし、予定外の侵入者と隊長も席を外していたことから私が対応せざるを得なくなった。
いざ侵入者と対峙した時、まさかフェルと同じ銀髪、緑目の容姿をしているとは思わなかった。
尋問をするにもやりにくいことこの上ない。
フェルと年齢も違う、顔の造形も違うがフェルを溺愛している私にとってはフェルを思い出させるには十分な条件だ。
それにこの侵入者は侵入した理由についても口を割らず、思わず手が出てしまった。そしてその隣にいた仲間であろう少年にも手を挙げた。
まさかそれが変装したフェルだったなんて…。
私は慌ててフェルを抱き寄せて医務室に連れて行った。
その後、フェルが目覚めるのを待ったが一向に目覚める気配がない。
私はフェルの手を握り、自分の行いを恥じていた。
すると「副隊長。」と呼ばれ顔を上げると先程、尋問の時に側にいた部下に声を掛けられた。
「なんだ。」と言うと「これがその少年の側に落ちていました。」と紙袋を渡された。
中を見てみると様々な形のクッキーが入っている。それを見た瞬間「(まさかこれを私に…?)」と気が付いた。
そしてそれと同時に身体が震えた。
私はなんてことをしてしまったんだ…!
フェルが私にわざわざクッキーを持ってきてくれたのにそれを無下にし、さらには殴ってしまうなんて…。
私は震える声で部下に「退がれ。」と命じた。
部下が部屋を出て行ったのを確認するとフェルの手を再び握り締めて静かに涙を流した。
その後、フェルを家に運び目が覚めるのを待った。
暫くするとフェルが目を覚ました。
私はフェルに気付き、すぐに謝ったが、どうすれば先程の罪が消えるのか分からず動揺する。
そんな私をフェルは抱き締めて許してくれた。こんなところもフェルを愛しいと思う要因の1つだ。私がしでかした罪を"仕事だから"と許してくれる。
さすがにフェルにキスしようとして拒否されたのはショックだったが、仕方ないと諦め、私はエリーに追い出されるように部屋を去った。
次の日から私は今回の侵入者の件で走り回ることになった。
侵入者が入ってきた経路や理由、バックにいる組織など調べることが多々あった。そのせいでほとんど家には帰れず、フェルのことが心配で会いに行きたかったがそれも出来ずにいた。
そして、やっと侵入者の件も落ち着き、フェルに会えると思ったが新たな問題が発生した。
近隣で起こった魔獣の暴走だ。
私は副隊長としてその討伐に参加しなければならず、またしてもフェルとは会えず終いだった。
早く魔獣を倒し、きっと寂しがってるであろうフェルに早く会いたくて無我夢中で魔獣を倒していった。
少しずつ魔獣の数が減り、部隊も落ち着きを取り戻した矢先、魔獣の1体が救護テントの方へ走って行くのが見えた。それを部下に頼み、私は残りの魔獣を倒しにかかった。
それが私の間違いだった。
その後、救護テントに行った魔獣が倒されたと報告を受け、騎士団に戻り、報告書を書いたところで帰宅した。
きっとフェルが「お疲れ様。」と出迎えてくれると思っていた。
しかし、帰宅した私を待ち受けていたのはベッドで静かに眠るフェルの姿だった。
慌てて父様に事情を聞くと、救護テントに行った魔獣を倒したのはフェルであり、候補生を庇って倒れたと聞いた。
またあの時の光景が思い浮かんだ。
私がフェルを殴り、床に伏せっている光景だ。
しかし、今回はその比ではない。
もしかしたらこのままフェルは目を覚まさないかもしれない…。
あの時、私が部下に魔獣を任せず私自身が行っておけば…という考えが巡った。
またしても私はフェルを危険に晒し、さらに生死の淵を彷徨わせている。
こんな私はフェルに相応しくないのではないだろうか。
大切な人、1人も守れない私はフェルの隣にいるべきではないのではないか、そんな考えが溢れてくる。
周りからすれば"仕方ない"と言われるかもしれないが、私はそんな自分が許せないのだ。
私がもっと早く魔獣を倒せていたら、こんなに被害が広がらず、ましてやフェルが討伐に参加せずに済んだのに…。
私はこの時、フェルの隣に並んでも相応しくなれるように鍛錬に勤しむことに決めた。
途中、愛しいフェルに触れてしまうと決断が鈍ってしまう為、極力フェルには会わないでおこう。
そして私はフェルが目を覚ますまで寝顔を眺めるだけに留め、フェルには一度も触れなかった。
しかし、あれだけフェルに触れていた私はフェルに触れることが出来なくなり、禁断症状なのか何においてもやる気が出なくなった。
身なりなどどうでもよくなり、とりあえず騎士団の業務に差し支えなければ良いと思っていた。
時間が出来るとフェルのことを考えてしまうので暇な時間が出来ないように仕事を詰め込み、または競技場で練習に明け暮れた。そのおかげで筋力などはついたが、心は少しも満たされなかった。
その心を埋めるように私はフェルに似た容姿の者を抱くようになった。
勿論、心などない、唯の性欲処理だ。
皆、何が良いのか、それでも良いと言って身体を差し出してくるので来るもの拒まずで抱いていた。
それがいけなかったのだろう…後々、フェルにバレてしまうことになろうとは…。
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