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第1章

74. 兄様断ち

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タジェット兄様の部屋に着くと僕は意を決して扉をノックする。

すると兄様は笑顔で迎え入れてくれ、ソファーに促された。

僕は静かにソファーに腰掛けると兄様が用意してくれた紅茶に口をつけながら、こう話を切り出す。

「タジェット兄様…ディル兄様のこと嫌い…?」

兄様はその問いに少し困った顔をすると

「ディルのことは嫌いじゃないよ…でもね、フェルのことになると嫌いになってしまう時もあるかな…。」

とポツリと言った。

「(それは…僕を取り合って…ってやつですね…。)じゃあこれからはディル兄様と仲良くできる…?」

と聞くと、兄様は無言でこちらを見つめる。

それは否定ということだ。

僕はその反応に悲しくはなったが僕が原因なので何も言えず、これを機に兄様断ちを考えていいかもしれないと考えた。

「(やっと兄様との恋愛はダメなんだと気付いたんだから、これからは違う人を見てもいいかもしれない…。)
わかった…ゴメンね、兄様。ディル兄様とケンカさせちゃって…。僕、タジェット兄様がディル兄様とケンカしたのは僕が原因だってわかってるんだ。だから、そんな僕が2人と仲良くなるなんてダメだよね…?これからは兄様達と距離を取るから、タジェット兄様も早くディル兄様と仲良くしてね…?」

僕は宣言すると兄様に背を向けドアへと向かう。

兄様は予想外の展開に反応が遅れ、僕が部屋を出る瞬間に「えっ…フェル!待っ…。」という焦った声を上げる。しかし、僕は聞こえないフリをしてそのまま部屋へと戻った。

僕は部屋に戻ってくるとベッドに大の字になって寝転がる。

「(ふぅ~…これでいいんだよね…?兄様達も少し時間を置いたら頭も冷えるだろうし…。)」

僕がそう思いながらゴロゴロしていると部屋の扉が激しくドンッドンッと叩かれた。

「(エェッ!?何事!?)」

と僕が慌てて上体を起こすと

「「フェル!!!」」

とタジェット兄様とディル兄様が勢いよく入ってきた。

二人共、物凄く焦った顔をしている。

僕はその光景に目を点にしながら「…どうしたの?二人共…?」と聞く。

「どうしたじゃないよ!兄様から聞いたよ!私達と距離を取るってどういうこと!?」

とディル兄様。

「そうだよ…フィル。そんなこと言わないで…?」

と悲しそうな顔をするタジェット兄様。

僕はなんて返答しようか困ったが、とりあえず

「兄様達、落ち着いて…?ソファーにどうぞ…。」

と促した。

少しばかり落ち着いた兄様達だったが、僕の説明を今か今かと待っている状態で待機している。

「(どうしよう…こんなにすぐ説明しないといけなくなるんて…。またあの酷い言い訳をしないといけないのか…心が痛いよ…。)
タジェット兄様、ディル兄様。僕が距離を取るって言ったのは2人がケンカをした理由が僕だからだよ。僕、2人から好きって言われて凄く嬉しかったんだ。でも、2人の"好き"は僕の"好き"じゃないんだよね…?だったら僕が2人の言う"好き"になるまで少し距離を取った方がいいと思ったんだ。そしたら僕が原因で2人もケンカしないで済むし、また仲良くなれると思ったんだよ。
(はぁ…我ながら苦しい言い訳…。こんなんで納得してくれるのかな…?)」

するとディル兄様とタジェット兄様も無言で難しい顔をする。

暫くして先に口を開いたのはタジェット兄様だった。

「…フェルの言う通り私達の"好き"はフェルの言う"好き"ではないかもしれないけど、そんな距離を取るとかはやり過ぎなんじゃないかな…?」

タジェット兄様はこの前のことがあるからか、僕と離れるのは嫌みたいだ。

するとディル兄様も

「私もそれはやり過ぎだと思う…。私はフェルを抱き締めたいし、キスだってしたい…。」

「(…ディル兄様、正直デスネ…。まぁ最大限に譲歩しますか…。)
うーん…でもね、兄弟として抱き締めたりキスしたりするのは仲良しの証拠でいいんじゃないかな…?」

と僕が言うと、途端にディル兄様の顔は嬉しそうに綻ばせたが、反対にタジェット兄様は残念そうな顔をする。

「(そりゃあ、タジェット兄様はそれ以上してるもんね…。)」

「フェル、いいの!?じゃあ私は今まで通りフェルのこと抱き締めたりキスするからね!」

とディル兄様は立ち上がると僕を抱き締めた。

タジェット兄様はまだダメージを受けているのかそれを見ても微動だにしない。

「フフッ…ディル兄様、苦しいよ~!」

と僕が笑うとタジェット兄様が静かに立ち上がり、ディル兄様と一緒に反対側から挟まれるような形で抱き締めてくる。

タジェット兄様は僕の耳元に顔を近づけると「フィル…キスまでは許してね?」
と囁いた。
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