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第1章
46. お見舞い
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暫くすると、エリーが水を張った桶を片手に兄様と一緒に入ってきた。
「フェンネル様、頰は痛みますか…?」
そう言いつつ、濡れタオルで頰を冷やしてくれる。
兄様の前で言いづらかったが、
「うん…。」
と答えると、
「少し口の中も切っております。この後、少々熱が出るかもしれませんので看病のため本日は私もこちらで休ませて頂きますね。」
と言った。
「エリー、私の責任だから私に看病をさせてくれないか?」
兄様がそう言ったが、
「タジェット様、明日は大事なお仕事があるのでしょう?でしたら、明日に備えて早くお休みになった方が宜しいのでは?」
と断られていた。
兄様は本当は何か言いたげだったが、その言葉に黙って頷く。
エリーは僕と兄様の間の不穏な空気を察してくれたのだろうか、僕はエリーのその言葉に今は感謝していた。
その晩、エリーの予想通り頰の痛みが熱に変わり、僕は熱を出した。熱にうなされる中、僕は兄様に殴られた時のことを思い出す。
"なんでこんな時に…"と自分でも思ったが、心が弱っていると悪いことを思い出してしまうのかもしれない。
あの時の兄様の言った言葉が忘れられない。
「忌々しい」
その言葉が僕の胸に突き刺さる。そんなことを言っておきながら、先程も僕を抱き締めて更にキスしようとまでしてきた。
だんだんと兄様の考えていることがわからなくなってくる。前まではあんなに盲目的に僕のことを好きだと思っていたのに、今ではそれさえも疑わしく思えてきた。
「(僕、何か兄様に嫌われるようなことしたのかな…?だから僕のこと1番じゃなくなったのかな…?)」
そう思いながら、僕は我慢していた涙が堰(せき)を切ったように溢れだす。
「ふっ…くっ…。」
と口から嗚咽をもらし、手で目を覆った。なるべく声を出すまいとしたが、その泣き声でエリーが起きてきてしまい、
「フェンネル様、大丈夫ですか?私が側にいますのでご安心下さいね。」
とエリーは僕が熱によって寂しくて泣いていると勘違いしていたが、今はそれが嬉しかった。
次の日、僕は初めて学校を休んだ。
出勤前の父様やディル兄様が部屋に訪れ心配していたが、タジェット兄様が来ることはなかった。後でエリーに聞くと、今日は朝早くから昨日のことで騎士団の集まりがあるらしく、早朝に家を出て行ったそうだ。
父様もディル兄様も僕の顔の腫れの理由を聞きたがったが、腫れが引いてから事情を説明する、ということで納得してくれた。
僕はベッドで横になりながら、これからのことを考える。前も考えていた通り、兄様とキスをしたくないからってずっと拒否することはできない。何処かのタイミングで聞かなければならないのだが、兄様に事実を聞かされることの恐怖からいつにするかというのは決められなかった。
僕が1人、考え込んでいると
コンコンッ
と扉をノックする音がする。
「フェンネル様、カラマス様がお見えになりましたがお通ししても宜しいでしょうか?」
「(えっ!?カラマス君が!?どうしよう…こんなに頰が腫れてるのに…。でも折角遠くから来てくれたのに追い返すなんて出来ないよ。)」
僕は渋々「どうぞ。」と声を掛ける。
扉が静かに開くとひょこっとカラマス君が顔を出した。
「フェル、熱は下がったか?」
そう言ってベッドサイドまで近付いて来た。
「うん、熱は下がったよ。頰はまだ腫れてるけど…。」
僕は笑って答えようとしたが、少し笑ったことで頰に力が入ってしまい「いっ…!」と声を上げてしまう。
「大丈夫か!?」とカラマス君が心配そうに聞いてくる。
「大丈夫。」と答えるとホッとしたような顔をしていた。
「フェルが熱で寝込んでる、って聞いて慌てて駆け付けたんだ、急で悪いな。」
とカラマス君は謝ってくれたが、
「ううん!わざわざ来てくれてありがとう、嬉しいよ。本当は笑って言いたいんだけど、笑うと痛いから笑えないんだ。こっちこそ、ゴメンね。」
とこちらも謝った。
「いいよ、気にするな。それよりもその頰どうしたんだ?熱でそんなに腫れるわけないだろ…?」
と頰の腫れについて聞かれる。
「(そりゃあ誰だって気になるよね…。)
うん、ちょっと事情があって…。」
僕が言葉を濁すとその空気を察してか、
「フェルが言いたくないなら事情は聞かないけど、元婚約者の俺にとってはちょっと寂しいな…。」
と苦笑いされた。
僕は事情を言うか迷ったが、わざわざ来てもらったのに空気を悪くして帰ってもらうのも気が引けるので、昨日のことを掻い摘んで説明した。
「フェンネル様、頰は痛みますか…?」
そう言いつつ、濡れタオルで頰を冷やしてくれる。
兄様の前で言いづらかったが、
「うん…。」
と答えると、
「少し口の中も切っております。この後、少々熱が出るかもしれませんので看病のため本日は私もこちらで休ませて頂きますね。」
と言った。
「エリー、私の責任だから私に看病をさせてくれないか?」
兄様がそう言ったが、
「タジェット様、明日は大事なお仕事があるのでしょう?でしたら、明日に備えて早くお休みになった方が宜しいのでは?」
と断られていた。
兄様は本当は何か言いたげだったが、その言葉に黙って頷く。
エリーは僕と兄様の間の不穏な空気を察してくれたのだろうか、僕はエリーのその言葉に今は感謝していた。
その晩、エリーの予想通り頰の痛みが熱に変わり、僕は熱を出した。熱にうなされる中、僕は兄様に殴られた時のことを思い出す。
"なんでこんな時に…"と自分でも思ったが、心が弱っていると悪いことを思い出してしまうのかもしれない。
あの時の兄様の言った言葉が忘れられない。
「忌々しい」
その言葉が僕の胸に突き刺さる。そんなことを言っておきながら、先程も僕を抱き締めて更にキスしようとまでしてきた。
だんだんと兄様の考えていることがわからなくなってくる。前まではあんなに盲目的に僕のことを好きだと思っていたのに、今ではそれさえも疑わしく思えてきた。
「(僕、何か兄様に嫌われるようなことしたのかな…?だから僕のこと1番じゃなくなったのかな…?)」
そう思いながら、僕は我慢していた涙が堰(せき)を切ったように溢れだす。
「ふっ…くっ…。」
と口から嗚咽をもらし、手で目を覆った。なるべく声を出すまいとしたが、その泣き声でエリーが起きてきてしまい、
「フェンネル様、大丈夫ですか?私が側にいますのでご安心下さいね。」
とエリーは僕が熱によって寂しくて泣いていると勘違いしていたが、今はそれが嬉しかった。
次の日、僕は初めて学校を休んだ。
出勤前の父様やディル兄様が部屋に訪れ心配していたが、タジェット兄様が来ることはなかった。後でエリーに聞くと、今日は朝早くから昨日のことで騎士団の集まりがあるらしく、早朝に家を出て行ったそうだ。
父様もディル兄様も僕の顔の腫れの理由を聞きたがったが、腫れが引いてから事情を説明する、ということで納得してくれた。
僕はベッドで横になりながら、これからのことを考える。前も考えていた通り、兄様とキスをしたくないからってずっと拒否することはできない。何処かのタイミングで聞かなければならないのだが、兄様に事実を聞かされることの恐怖からいつにするかというのは決められなかった。
僕が1人、考え込んでいると
コンコンッ
と扉をノックする音がする。
「フェンネル様、カラマス様がお見えになりましたがお通ししても宜しいでしょうか?」
「(えっ!?カラマス君が!?どうしよう…こんなに頰が腫れてるのに…。でも折角遠くから来てくれたのに追い返すなんて出来ないよ。)」
僕は渋々「どうぞ。」と声を掛ける。
扉が静かに開くとひょこっとカラマス君が顔を出した。
「フェル、熱は下がったか?」
そう言ってベッドサイドまで近付いて来た。
「うん、熱は下がったよ。頰はまだ腫れてるけど…。」
僕は笑って答えようとしたが、少し笑ったことで頰に力が入ってしまい「いっ…!」と声を上げてしまう。
「大丈夫か!?」とカラマス君が心配そうに聞いてくる。
「大丈夫。」と答えるとホッとしたような顔をしていた。
「フェルが熱で寝込んでる、って聞いて慌てて駆け付けたんだ、急で悪いな。」
とカラマス君は謝ってくれたが、
「ううん!わざわざ来てくれてありがとう、嬉しいよ。本当は笑って言いたいんだけど、笑うと痛いから笑えないんだ。こっちこそ、ゴメンね。」
とこちらも謝った。
「いいよ、気にするな。それよりもその頰どうしたんだ?熱でそんなに腫れるわけないだろ…?」
と頰の腫れについて聞かれる。
「(そりゃあ誰だって気になるよね…。)
うん、ちょっと事情があって…。」
僕が言葉を濁すとその空気を察してか、
「フェルが言いたくないなら事情は聞かないけど、元婚約者の俺にとってはちょっと寂しいな…。」
と苦笑いされた。
僕は事情を言うか迷ったが、わざわざ来てもらったのに空気を悪くして帰ってもらうのも気が引けるので、昨日のことを掻い摘んで説明した。
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