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第1章

プロローグ

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ふと目が覚めると何もない真っ白な空間に横たわっていた。

「(あれ?僕生きてる…?)」

ゆっくりと身体を起こし周りを確認してみたが、何もない為、ここがどれだけの広さなのかわからない。

「(…いや、でもあの時バイクに轢かれて…僕は…。
…死後の世界って真っ白なんだ…もっとこう…漫画みたいに三途の河とか出てくるのかと思ったけど、そうじゃないんだ…。)」

裕太は何故か自分の死を冷静に受け止めることが出来た。

とりあえず座ったまま状況を確認することにする。

「(えーっ…と、たしか正樹と初詣行こうってなって、おみくじ引いて正樹が食べたいって言ってた出店の注文待ってるときに人混みに酔ったからって僕だけ先に神社から出て、近くのベンチに座ってたんだっけ…?
そしたら、参拝で交通規制かかってるのに無理矢理バイクが突っ込んできて…。)」

と、直前までのことを考えていると…


「考えはまとまったかい?橘 裕太くん。」


ふと、声のした方に目を向けると先程まで何もなかったところに人?が浮いていた。

「(うっ…浮いてる!)」

「あぁ。浮いてるの意外?立とうか?」

と、やけにフレンドリーな人?が話し掛けてきた。ビックリし過ぎて思ってたことに返事をされていることに気付かず、目の前の人を凝視する。

金髪碧目に白いローブのようなものを羽織っている。見た目は20代前半くらい…どこかの王子様のように見えた。

「(すっ…凄い!なんかキラキラしてる…!こんな漫画でしか見たことない人が存在するなんて…!)」

パァと表情を明るくした裕太は目の前の人を見つめた。

「初めまして、橘 裕太くん。多分、まだ自分の状況が把握出来てないと思うけど、簡単に説明させてもらうね。君がベンチに座っていたあの時、君はバイクに轢かれて死んだ。しかし、本当はあそこで死ぬのは君ではなくバイクの運転手。君は死ぬ予定だった運転手の代わりに死ぬこととなり予定外の死を遂げたんだ。」

「なんで…えっ?…じゃあ僕の死は…。」

頭の中で上手く処理できない。
裕太は混乱する頭で徐々にだが理解し始めた。それと同時に目頭が熱くなる。

自分の死が余りにも呆気なく、ましてや無駄なものだったなんて…。

あれが自分の死ぬ運命なら大人しく受け入れただろう。しかし、予定外なものとわかるとなかなか受け入れられそうにない。

「君の気持ちはよく分かるけど、結果的に君のお陰でバイクの運転手は助かったんだ。」

神様らしき人は哀しそうな目を裕太を見つめた。

「いや、僕はただ座ってただけなんで…何もしてません。
(むしろ、あんなところに座っていたせいでこんなことに…。)」

「…世の中には色んな死がある。その中で理不尽な死を遂げた人をどうにかするのが私の役目なんだ。私はこの世界の均衡を保つ者、君達の世界では神様みたいな存在になるかな。」

疑わし気に神様を見つめると「…それで僕は一体どうなるんですか…?」と呟いた。

わざわざ自分の前に現れてくれたのなら何か自分にとって譲歩してくれることがあるのかもしれない。

本当はもっとやりたいことがたくさんあった。将来なりたい職業もあったし、恋愛もしてみたかった。それに家族や友達にも最後の言葉を残せていない。

「君には異世界に転生してもらう。私からのせめても償いとして、君の希望通りの世界やその他についてもできるだけ叶えてあげるつもりだよ。」

「………えっ…ほっ…本当ですか!?」

理解するのに暫く時間はかかったが、思わず大声を出し興奮してしまう。




何故なら生前、彼は…腐男子だった。




愛あるものならとにかくあらゆる設定の小説を読み漁り、新しいサイトを発掘するために日々勤しんでいた。自分でサイトを立ち上げ、自ら小説も書いている程の熱血ぶりで、その中でも魔法や獣人などのいるファンタジーの世界に憧れ、もし次生まれ変われるとしたら、そんな世界に生まれ変わりたいとさえ思っていた。

「じゃ…じゃあ容姿とかの希望も叶えてもらえるんですか!?」

先程の落ち込み様は消え、今は新しい世界に興味津々だ。

「うん。なんでもどうぞ。」

神様のにこやかな表情に安堵しながら「そしたら、男女関係なく振り返るような儚げ美人にして下さい!あっ!性別は男性で!」と叫んでいた。

裕太は色んなサイトを読み漁る中、美人受けというものに憧れを持つようになった。

彼は元々、平凡な容姿をしており可もなく不可もなくという容姿のためか気になる人は出来ても告白までは至ったことはない。自分の容姿を自覚しているからこそそんな行動には移せなかったのだ。

「(こんな僕に告白されても戸惑うだけだろうし、気まずくなるようなら友達のままでいい。)」と思っていた。
そのため、17歳で亡くなった裕太は一度も誰とも付き合ったことがなく告白さえしたことがなかった。

「お安い御用だよ。でも、そんなことでいいの?もっとああしたい、こうしたいとかがあれば言ってね?この世界の均衡を脅かすようなことがなければ希望を聞いてあげるよ。」

「本当ですか!?………あっ!じゃあ魔法とか獣人のいる世界でそれなりに魔力のある人に生まれ変わりたいです!それで、男女比が8:2くらいがいいです!同性婚もありな感じで!そっ…それで…凄く言いづらいんですが、男性にモテるようになりたいです!」

こんなことを言っている裕太だが生前、彼は至ってノーマルだった。

しかし、腐男子である裕太は自分の容姿が伴うなら自ら小説のような経験をしてみたいとも思っていた、それも受け側で。今までは自分の容姿が伴わないので、そんな願望があっても叶うことはなかったが、この際だからその願望を叶えてもらおうと思ったのだ。

さらに生前の平凡な裕太にとって、平凡受けというのはネタとしては好きであったが、自分としては実際に男同士でくっつくのを見るのならそれなりに容姿が整っている同士が見たかったので細かい希望までお願いした。

「(ワガママだってわかってるけど目の保養がしたいんだからそこは妥協したくない…!それにどっちかっていうと見たい側だけど、万が一自分が渦中の人物になるんだったら美人がいい…!)」

「あぁ!橘くんは生前、そういう趣味があったみたいですね。」

神様の発言に裕太は驚いた。

「えっ!?バレてるんですか!?」

「ええ。橘くんが事故に遭い、亡くなった時点でそういう情報がすべてこちらに分かるようになりますので。」

神様には全てバレていたようだ。

「(恥ずかしい…けど、もうバレてるんだから仕方ないか…。)そうなんですね…。僕、どうしても生まれ変われるのなら容姿端麗な人になりたいと思ってたんです。色々細かくお願いしたんですが、宜しくお願いします!」

裕太はバッと頭を下げて神様にお願いをした。

それを見て神様はクスッと笑うと「気にしないで、むしろ助けてあげられなくてゴメン…。それくらいの要望だったら聞いてあげるよ。私にとっても君を助けてあげられなくて後悔してるし、君には次の人生を謳歌してもらいたいと思ってるしね。」と神様は少し哀しそうに笑った。





いくらか冷静さを取り戻した裕太は「…正直、自分が死んだことはまだ良く理解できてないし、いきなり言われてもなかなか受け入れられないんですが、現実が変えられないのなら次の人生はより楽しく有意義に生きたいなと思って…。それに、せっかく神様が希望を叶えてくれると言うなら思いっきり甘えてみようかな、って…すみません、沢山頼んじゃって…。」

今更ながら自分の希望を頼み過ぎたと反省した。

「ううん、ありがとう、橘くん。そう言ってもらえて嬉しいよ。次の世界で君の趣味が楽しめるように何かいいものを付加させとくね。」と神様はふわりと笑って答えてくれた。

そんな表情にも裕太はドキリとしてしまう。

「(やっぱイケメンって得…!)」

「そしたら今から転生させるね。あっ!君のご両親や友達については安心して。こちらで上手くやっとくから。後、私はあまり干渉が出来ないから大事が起きない限り君とは接触出来ないようになってるからね。じゃあ…始めるね。
橘くん、君の次の人生に幸あらんことを。」

神様は僕に向かって手をかざす。その瞬間、パッと周りが明るくなり裕太は意識を失った。
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